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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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旅立つ者へ(3)

日曜にアップできず、お待たせしました!
今日が祝日でよかった~
(「ウイルスが見つかりました」とメッセージが出てきて、対応に追われて…
って話は、また別の機会に!)

さてさて、深刻そうな烈花さん。どうしたのでしょう?
今宵の妄想もお楽しみいただければ、と…


拍手[7回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

烈花は何かに耐えるような表情だったのが、一瞬泣き出しそうに歪み、すぐに視線をレオからそらした。
そして、絞り出すようにこう言った。

「悔しいよ… レオ…」

「…」

無言のまま、レオは烈花を見つめていた。
そのまなざしは優しさと温かさに交じり、ほんの少し悲し気にも見えた。

「鋼牙も、零も… 雷牙までもがいないというのに、今の自分では、何の力にもなれない…」

震えそうになる声を押し殺すようにして、烈花は言う。
レオはゆっくり瞬きをしてからふうっと息を吐く。
そして、彼女の顔を覗き込むようにしながら

「烈花さん」

と声をかける。
烈花はちらっとレオの目を見て、また視線を落とす。
そして、レオが何かを言うよりも早く

「…わかっている。
 こんなことを言ったところでどうにもならないことは、わかってはいるんだ!」

と少し声を荒げた。
だが、それもすぐに収まり、

「…でも …それでも」

と力のない声が続く。
いつになく弱気で、しかも、自分で折り合いがつけられぬ焦りのようなイライラに対してどことなく拗ねたような様子は、元老院付きの魔戒法師にまで登りつめた烈花らしからぬ様相で、そんな姿を見たのがレオ以外の人ならばとても驚いたことだろう。
けれども、レオはそんな彼女を愛おしそうに見て、大きな手を烈花の頭に乗せる。

「思うように動けない自分が嫌?」

覗きこまれるようにして、そんな優しい声音で問いかけられて、烈花はこくんと小さく小さくうなずいた。

「そっか…
 じゃあ、烈花さんがもっと指令をこなせるように、どうにかやってみようか?」

ん? とさらに覗き込むようにするレオに、烈花はガバッと顔をあげた。

「それはだめだ!」

「だめ?」

真正面から視線が合い、烈花はちょっとだけハッとした。
けれど、今度は視線を落とさないまま訴える。

「雷牙のいない緊急事態に何の手助けもできない自分がもどかしくて嫌なのは事実だ!
 でも、だからと言って、指令のためにあの子たちを放っておくのは、もっと嫌だ!」

そう、今の烈花には ’家族’ があった。
10歳と7歳、そして今年2歳になる男の子のお母さんになっていた。

必死な様子でレオに訴えかける烈花を、レオはそっと抱き寄せた。
そして、なだめるように背中を撫でながら、

「そうだね… あの子たちから君を取り上げるわけにはいかないね」

と言った。
耳の近くから聞こえるその声に、烈花はキュッと胸が締め付けられるように感じつつ、レオの胸に自分の頬を摺り寄せる。

「わかっているんだ…
 みんなの力にもなりたい。けれど、あの子たちの母親は自分だから…」

「うん。確かに、魔戒法師としての烈花さんの力を使えないのは元老院にとっては痛手だ。
 でも、次の世代を育(はぐく)み成長させるのも大事な務めだよ?
 あの子たちを健やかにたくましく育てるのは、烈花さんにしかできない… そうでしょ?」

そう言いながら、レオは烈花の後頭部を包み込む手に力を込める。

「…それでいいんだろうか?」

頭では理解できるものの、心が納得しきれないものを残しているのか、烈花は小さく呟くように言う。

「いいのかどうかはわからないけど…
 少なくとも僕はそう思うよ。

 それに、烈花さんができないことは僕がカバーすればいいんだ。
 烈花さんひとりがあれもこれも頑張る必要はないんだよ?」

レオの言葉に、烈花の身体から少しだけ力が抜けた。
そして、レオの腕の中でくすっと小さな笑い声がこぼれる。

「でも、それじゃあ、レオがあれもこれもひとりで頑張ることになるんじゃないのか?
 今までだって、いいように元老院からこき使われてるじゃないか…」

どことなく冗談めかしたような口調に、彼女の顔は見えないが、恐らく少し緩んでいるであろうことが想像できたレオが、

(いつもの調子が戻ってきたかな?)

とひそかに安堵する。

「そんなことはないよ。
 でも… もしも頑張りすぎてくたびれきって帰ったとしても、僕には家族が待っていてくれるから大丈夫。
 あの子たちの顔を見れば、疲れなんか吹っ飛んじゃうってこと、烈花さんにもわかるでしょ?」

烈花を抱く手が緩み、烈花はもぞもぞとレオの腕の中で彼を見上げる。

「ああ、そうだな」

そう言った彼女の顔にはさっきまでの固さはなく、ふわっと穏やかな微笑みが浮かんでいた。
それに応えるように、レオの顔も限りなく優しくなる。

「その顔…」

「えっ?」

「烈花さんのその顔… すごくほっとして、大好きだ」

「なっ…」

そう言われて、烈花はうろたえてしまい、目線がそわそわと落ち着かなくなったのを見て、レオはくすくす笑いながら、再び、烈花を抱く手に力を込め、その髪に唇を寄せる。

「子供たちを育てるのも、ホラーと闘うのも、互いに補い合えばいいんだ。
 君が頼っていいのは僕だし、僕だって君に甘えている…」

「レオ…」

「でも、僕は烈花さんにもっともっと甘えてもらいたいと思ってるよ?
 強く抱きしめて、とか、もっとキスして、とか、言ってもらいたい… かな?」

試すような口調でそんなことを言われて、烈花は顔を赤らめながら、

「そんなの言えるわけないだろっ」

と唇を尖らせる。
でもすぐに思い直して

「…でも。
 こうしてくれるのは、すごく落ち着く…」

と言い添えて、レオの背中に手を回して力を込めるから、レオは大きく目を見開いた。
そして、嬉しそうに微笑んで

「ふふっ、烈花さん、かわいい…」

と甘い声で囁いた。

「///」

烈花は赤くなりながら何も言わない。
なぜって、そう言われて嬉しいと思う気持ちがあるのは事実だから。
すると、そんな烈花に気をよくしたのか、レオが調子に乗って言う。

「ねぇ、後継者不足の解消に、もうひとりくらいいてもいいんじゃないかなぁ」

「えっ?」

「今晩… はちょっと無理だけど、早く帰れた日にでも… ね、烈花?」

さっきまで、’烈花さん’ と呼んでいたのが呼び捨てになり、レオの声も、醸し出す雰囲気までが甘く甘く変わっていく。

「…調子に乗りすぎだぞ、レオ」

そう言いながらも、烈花もまんざらでなく、努めて怖い顔を作ろうと思うのになんとも中途半端な表情にしかならなず、レオにぎゅうううっと抱き着いてくるのが可愛すぎて、レオは、どうしてくれようとレオは心の中で悶えた。

それまでの甘い雰囲気が消え、ふっと力の抜けたレオは、烈花の髪に頬摺りしながら言う。

「鋼牙さんたちのいない穴を、僕たちはそれぞれ、今できることを精一杯やることで埋めていこう?」

「そうだな。
 鋼牙たちが帰ってきたときに、胸張って迎えられるように…」





旅立つ者よ…
おまえたちの前にあるのは苦難の道だろう。

だが…
あとのことは俺たちに任せろ。
おまえたちは、行くべきその道から顔をそらすことなく突き進むがいい。


そんな俺たちの思い… どうか、届け!




…必ず、帰ってこい!


fin
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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