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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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いちばんの存在(5)

2週もお休みしてしまってすいませんでした。
ようやくメルヘンの世界に舞い戻ってまいりました。

毎日毎日暑くて、日中もぐったり、夜も寝苦しい日が続いていますが、みなさんはお変わりないですか?
こんなに暑かったら少しは身体の脂肪も溶けりゃあいいものを… と思いながら、毎日のようにパピコ(梨味、うまっ! マスカットも美味しい!)を食べてりゃ意味がないですね。

そんなこんなで今宵の妄想… お楽しみください。


拍手[3回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

カオルンをひとりきり寝室に残してドアを閉めたコーガは、ドアを振り返り、小さな吐息をこぼしました。

カオルンを妃にしてから、なかなか子宝に恵まれないことにずっと気を病んでいた彼女。
そんか彼女にようやく宿った命なのですから、並々ならぬ想いを抱いていることは、コーガも理解しているつもりです。
ましてや、カオルンには両親も故郷もないのですから、唯一、彼女の血を分けた肉親はライガーだけという状況です。
そんなライガーの一挙手一投足に過敏過ぎるほどに囚われているカオルンの様子を、コーガはもちろん、彼女の近くに仕える侍女やゴーザンもずっと気にしていました。

初めての育児、それも一国の未来を担(にな)う王子なのですから、カオルンがとてもナーバスになるのも無理からぬこと。
ですが、ライガーにとらわれ過ぎているカオルンには、彼女を心配してかけられる周りからの声もなかなか届きませんでした。
それならば、しばらくの間は彼女の気のすむようにさせておこうとコーガは考え、できるだけ黙って見守るようにとゴーザンを通じて侍女たちにも伝えておきました。

それが今日、とうとうカオルンの身体が悲鳴をあげたのです。
ここでしっかりとライガーを引き離し、カオルンを休ませることができるのはコーガだけです。
その役目をは果たせたコーガは、もう一度、深く息を吐きました。

今頃、カオルンを泥のように深い眠りに陥っていることでしょう。
コーガはドアの向こうの気配を伺いましたが、やがて、くるりと踵(きびす)を返し、執務室へと急ぎました。
残してきた仕事があるのです。
ですが、そんなものはとっとと片づけて、カオルンが目覚めるときには彼女のそばにいてやりたい… そうコーガは思っていました。




カオルンが目覚めたとき、ここがコーガとのふたりの寝室であることに気づいて、彼女は一瞬、戸惑いました。

(あれっ、どうして…)

だんだんはっきりとする視界と記憶に、カオルンははっとして身体を起こしました。
すると、ちょうどそのとき、寝室のドアが開いて、コーガが姿を見せました。

「コーガ…」

「ん? すまない、起こしてしまったか?」

カオルンを気遣いながら、コーガはベッド脇に近づき、彼女の頬に触れました。
ううん、とカオルンは首を横に振り、

「今、ちょうど目が覚めたの」

と答えます。
コーガはベッドに腰を下ろすと

「そうか… 身体の調子はどうだ?」

と優しく尋ねます。

「大丈夫。
 なんかすっきりしてるよ?」

そう言って微笑んで見せるカオルンに、

「おまえの『大丈夫』はあまり信用できないんだがな…」

とため息交じりに言う鋼牙。
カオルの顎に手をかけ、右に左にとカオルンの顔を傾けて観察してから

「だが、まあ確かに少しすっきりしたようだな」

と大きくうなずいた。
それを聞いて、カオルンは

「んもう!」

とむくれる素振りを見せたがすぐにフフッと笑ってみせます。
ひとしきり笑いあった後、

「ねぇ、わたし、どのくらい寝ちゃったのかしら?」

とカオルンは聞きました。

「そうだな… 3時間ちょっと、だな」

「そう… あの、ライガーは?」

気遣わしそうにカオルンは尋ねます。

「安心しろ、ライガーは問題ない。
 ミルクもたくさん飲んだし、ゴーザン達に相手してもらって機嫌もよかったぞ」

「そう…」

カオルンは、ライガーの様子を聞いてほっとしたのと同時に少し寂しいような気がしました。
母を恋しがって泣いているよりはずっといいのですが、少しくらいは寂しがっていてほしかった気もするからです。

「あれは、ゴーザン達がライガーを遊んでやっているというよりは、ライガーに遊んでもらっているみたいだったぞ?」

コーガはここに来る前に様子を覗いてきたときのことを思い出して苦笑した。




小さなライガーの前で、

「べろべろばー」

と思いっきり変な顔を披露しているゴーザンや、いろいろなおもちゃやぬいぐるみを手に

「ライガー様ぁ、こっちですよぉ」

「ほらほら、クマさんはどうですかぁ」

とあやす侍女たち。
それを見てけらけら笑うライガーに、みな一喜一憂していました。




「カオルン、おまえにとってライガーは特別な存在であることはわかってる。
 自分の手でなんでもしてやりたいという気持ちも…」

そう言って、コーガはカオルンを胸に引き寄せ、彼女の髪を撫でます。

「ひょっとしたら、侍女やゴーザン達に遠慮して任せられないのかもしれないが。
 でも、たまにはゴーザン達にもライガーの相手をさせてやってくれないか?
 おまえがライガーをかわいいと思うのと同じように、みんなもかわいがりたいと思っているぞ?」

そう言ってコーガはカオルンを見つめます。

「それでも、ライガーの母親はおまえだ。
 ライガーに乳を与え、母親の愛情やぬくもりを与えられるのはおまえしかいない。
 母親しか与えられないものはおまえが与えればいい。

 けれど、それ以外は、ゴーザン達の力を頼ってもいいんじゃないか?」

穏やかな口調でそう言うコーガを、カオルンは見上げています。
その目が少し潤んでいます。

「ライガーにとって一番大事な存在はおまえだよ」

そう言って、コーガはカオルンの額に優しいキスをくれました。
目を閉じてそれを受けたカオルンの眦(まなじり)に涙がにじみます。
コーガの唇が離れると、カオルンは鋼牙の胸にすり寄りました。

そうしてコーガの体温と匂いに包まれていたカオルですが、ぼそりと呟いたコーガの声が聞こえました。

「カオルンにとっての一番も、きっとライガーなんだろうな…」

それに驚き、カオルンは反射的に顔をあげます。
すると、そこには、少し寂し気に笑うコーガがいました。



to be continued
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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