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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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その唇に触れるのは(2)

おまえの愛する女は、右のカオルか? 左のカオルか?

嗚呼、女神様。
鋼牙に必要なのは、たったひとりのカオルです~


拍手[10回]


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
見つめあったまま、しばらく動かない鋼牙とカオル(候補その1…)。
表情もなく自分を見下ろす鋼牙に、不安げに瞳を揺らしながらも決して目をそらさないカオル。

鋼牙はカオルの身体を抱えた腕の拘束を強めてしっかりと抱きしめると、鋼牙を見つめていたカオルは必然的にのけぞるような態勢になって、そのつややかな唇がわずかに開いた。
一瞬、呼吸を忘れたカオルは、すぐに、はぁ、と声にならないように小さく吐息を零(こぼ)すと、じっとカオルを見つめていた鋼牙の目に、かっと熱がこもった。

「鋼…」

名前を最後まで呼ばせずに、鋼牙はカオルに覆いかぶさり、その柔らかな唇を塞いだ。
唇の感触を楽しむ間もなく、すぐに熱い舌が差し込まれる。
その性急さとは裏腹に、鋼牙の舌は柔らかくカオルの中をゆっくりと味わっていく。

「…… んっ…  ぁン…」

口内を好きなようになぶられるカオルは、溺れてしまわないように鋼牙の胸にしがみくことしかできず、ザルバと、自分とは別のもうひとりのカオルという存在のことなど、すぐに頭の中から吹っ飛んでいた。
ただただ、鋼牙の与える甘い熱にカオルは溶かされていくばかり…

ふと、鋼牙の腕の力が少しだけ弱まり、唇から熱が遠のいた。
荒い息のまま、カオルはぎゅっとつむっていた瞼を開ける。
そこには、いまだ至近距離でカオルを熱く見つめる鋼牙のまなざしがあった。

「カオル…」

離れたといっても、唇の距離は数cmと離れていないため、名前を呼ぶ吐息がかかり、それがカオルの胸を震わせる。
鋼牙の支えがないと立っていられないほどに身体に力が入らないが、カオルは鉛のように重たく思える腕をなんとか持ち上げ、鋼牙の首に回そうとした。

が、

「ねぇ」

と声がかかって、カオルの動きが止まった。
腕を下ろしてそちらを見ると、いい加減にしてよね、と言わんばかりの仏頂面のもうひとりのカオルが、腕を組んで立っているのが見えた。

「そろそろ… いいでしょ?」

そう言われた途端に、キスを見られていたほうのカオルが羞恥のあまりにぶわわわっと赤くなり、顔を両手で覆い隠す。
が、それも束の間。
ふっとカオルを包んでいた温もりが離れて、慌ててカオルは手を外す。
カオルを抱きしめていた鋼牙が何歩か下がり、カオルから離れて立っていた。

「次はあたしの番だよ?
 ねぇ、早くぅ…」

そう言って、両手を広げて鋼牙を招くもうひとりのカオル。
それに応えるように、鋼牙はそちらへと足を運ぼうとするので、溜まらず今までキスをしていたほうのカオルは

「鋼牙…」

と追いすがろうとする。
すると、

「来るなっ!」

と鋼牙の鋭い声が飛び、カオルはびくりと身体を強張らせて足を止める。
それを見届けた鋼牙が、背を向けて離れていく。

(いや…)

胸を引き裂かれそうな痛みにカオルは顔を歪ませる。
だけれど、後を追うことを拒まれたカオルは、その場を動けない。
鋼牙が自分に背を向けることがつらくて、苦しくて、気づけば、

「い、行かないで!
 あたしが本物のカオルよ?
 ねぇ、鋼牙っ!」

と叫んでいた。
カオルの叫びを聞きながらも、鋼牙の足は止まらない。

やがて、もうひとりのカオルの前に立つと、同じように、目の前の檻を打ち砕いた。
そして、中から飛び出してきたもうひとりカオルが、鋼牙にぎゅっと抱き着くのを目にして、絶望にも似た深い闇に覆われる。

「鋼牙…」

震える唇から、か細く愛する男の名がこぼれる。
そんなカオルの様子をちらりと盗み見たもうひとりのカオルが、にたりと笑ってから、鋼牙の耳元で囁く。

「ねぇ、鋼牙。あたしが本物のカオルだよ。
 あたしのほうが絶対に気持ちいいんだから…」

そう言って、鋼牙の頬に両手で触れ、ゆっくりと唇を近づけていく。




(いや! いや! いやーっ!)

見守るカオルは壊れたように首を横に振る。

「やめて! 鋼牙、いやよ、だめっ!
 他の人にキスなんかしないでっ!」

自分の爪が食い込むほどに両手をぎゅっと握りしめ、声を限りに叫ぶ! 叫ぶ!



すると、その声と同時にもうひとりのカオルが動きを止める。
ひきつったような顔が不安げに鋼牙を見上げ、ゆっくりと鋼牙から身体を離していった。

「…どう…して…」

戸惑いの声がこぼれた頃、もうひとりのカオルがふたりの緊迫した様子に気付いて目を瞠(みは)った。
鋼牙から離れたカオルが、彼から間合いを取るように後退(あとずさ)り、それとともに鋼牙の手に牙狼剣が抜かれてカオルに向けられているのが見えた。

「どうして?
 それはおまえがよくわかっているだろう?」

「それは、どういう意味?」

「…おまえはカオルではない」

「そんな… あたしが本物のカオルだよ?」

強張る顔で、笑顔を作ろうとするカオルに、鋼牙は冷たく言い放つ。

「いいや、おまえは偽物だ」



それを聞くなり、偽物と言われたカオルは一足飛びにその場から逃げようとする。
だが、鋼牙のほうは慌てず地面を蹴り、牙狼剣をひらめかせて一太刀で偽物の背中を割った。

『ギェェェェッ』

カオルの声とは似ても似つかない耳障りな声が響き渡り、カオルの姿であったものが、醜いホラーの姿に変わっていく。

『あで… あで、いてのおがこやさっかよが…』
(なぜ… なぜ、偽物だとわかったんだ…)

苦し気な息の下でホラーは訊いた。
すると、冷たくホラーを見下ろしていた鋼牙のまなざしに一瞬憐みの色が見え、

「誰かを愛おしく思う気持ちがわからないおまえたちホラーには、説明したところでわからないだろう」

と答えた。

『つこ…』
(くそ…)

ホラーが悪態をつきつつなおも逃げようと動きかけたところを、鋼牙は剣を突き立ててとどめをさした。
黒い塵と化して天に昇って消えていく残滓を見送り、鋼牙は剣を鞘に納めた。
そして、カオルを振り返る。

胸の前で両手を握りしめているカオルは、まばたきも忘れたように立ち尽くしていた。
そんな彼女に向かって、鋼牙は一歩一歩近づく。
やがて、カオルの前で立ち止まった鋼牙は、

「怪我はないか?」

と穏やかに尋ねる。
すると、それが引き金になったのか、カオルの表情が泣きそうに歪み、

「んもう! 驚かさないで!
 本物がどっちか分かっていたなら、最初に行ってよね!」

と鋼牙の胸を叩こうとして手を上げる。
だが、鋼牙はその手をいとも容易(たやす)く受け止めて、

「…すまない」

と素直に謝った。

『カオルぅ、許してやれよ。
 こうでもしないとホラーのやつも油断しないだろ?

 まぁ、俺様は信じていたけどな。本物のカオルがどっちかなんて、鋼牙ならわかるってな…
 おまえさんは信じてなかったのか? カオル?』

飄々(飄々)としたザルバにそう切り返され、カオルは、ウッ、と答えに詰まった。
それから、

「…あたしだって信じてたわよ」

と小さな声で言ってから、鋼牙の袖口を摘まむようにすがる。

「でも、不安だった…」

拗ねるようなカオルに、鋼牙の表情も緩む。
そんな鋼牙に、恥ずかしそうにちらりちらりと視線を向けるカオル。
なんとなく甘い雰囲気の中、ザルバがすかさず割り込んでくる。

『まぁ、鋼牙にとっては役得だよな。
 カオルとあんの濃厚なキスを堂々とするチャンスを得られてさ』

  カァァァッ!

カオルの顔が真っ赤になる。
そんな中、さらにザルバが調子に乗る。

『どうせなら偽物のカオルともキスしとけばよかったんじゃないか?
 カオルとは違う女とのキスも、背徳感ってやつでゾクゾクできたんじゃないのか?
 そうじゃなくても、ホラーのやつ、相当自信があるみたいだったしな』

ニヤニヤしながらそう言ったザルバだったが、

「「ザルバッ」」

という鋼牙とカオルの声にビクリとする。
怖い顔で睨むふたりに、さすがのザルバも、

『さ~て、仕事は終わりだ。
 さっさと帰ろうぜ!』

と明後日のほうを見ながらうそぶくしかなかった。



  クスッ

カオルはこらえきれずに笑い、鋼牙を見上げた。
鋼牙もカオルにしか見せない穏やかな表情で見下ろす。
そして…

「帰るぞ」

鋼牙がそう言い、ふたりは寄り添って帰宅の途に就くのだった。



(ねぇ、鋼牙。
 あたし以外の人とキスしないでね?)

そんなカオルの心の声がまるで聞こえたのかというタイミングで、カオルは肩を抱き寄せられる。
それに目を丸くしたカオルだったが、すぐに、嬉しそうに頭をコツンと鋼牙の身体にもたれさせて、

(大好きだよ、鋼牙…)

としみじみ思うのだった


fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


どっちが本物のカオルか…
鋼牙さんが当てられてよかった、よかった!
(まあ、わかりやすかったでしょうが、ね)

この妄想を書きながら、大岡裁きを思い出してました。
ふたりのカオルで鋼牙を引っ張り合うところを想像して…
う~ん、鋼牙さんだったら、「痛いよ~」なんて泣かないから駄目だよね、と思い、苦笑しておりました。くすくす…

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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