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嘘と真実(2)
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開かれた手帳のページには、不安定な状態で急いで書かれたのであろう、筆圧が一定ではない走り書きしたような文字が並んでいた。
PortCity South Town Central St. 4-17
H.Konishi
正直言って、その住所や名前にはまったく身に覚えなどなかったが、その文字には心当たりが確かにあった。
それは、まぎれもなく自分の字だ。
特に、「South」の「S」や、「Konishi」の「K」の文字などは、「Saejima」の「S」、「Koga」の「K」としてこれまでに幾度となく書いてきた文字だから間違えようもない。
だが…
もう一度見返してみたが、書かれている住所にも名前にも思い当たる節がない。
これがいつ書かれたものなのか? また、何のために書かれたのか?
…と考えに落ち、自然と眉根に皺が寄る。
そんな鋼牙を、面白がるような笑みを浮かべたカオルが覗き込んで、彼の反応を待っていた。
すると…
ハッと何かに気付いた鋼牙が、手帳から顔を上げてカオルを見た。
「これは…」
「うふふ、思い出した?」
「…ああ」
少し面白くなさそうな鼻に皺を寄せて鋼牙が素っ気ないくらいの返事をする。
「あの画廊で書いたもの、だろ?」
鋼牙の答えが正解だとばかりに、カオルは顔の前で小さく拍手をしながらにっこり笑う。
「そう! 絵が気に入ったから今すぐ届けてくれ、って言って、鋼牙が書いてくれた住所と名前…
でも、これって、見事に出鱈目だよね?」
不満そうに唇を尖らせつつそう言ったカオルだったが、鋼牙から手帳を受け取ってもう一度それを眺めたときには、どこか懐かしそうな柔らかな表情に変わっていた。
確かに、鋼牙の書いた住所も名前も完全に嘘の情報だった。
「それはだな」
鋼牙がその理由を説明しようと口を開くと、
「わかってるよ」
と、すぐにカオルはそれを制するように遮った。
「うん… わかってる」
もう何年前のことになるだろう。
初めてカオルの絵を展示してくれることになった画廊のオーナーである谷山が、実はホラーに憑依されていた。
その谷山からカオルを引き離そうとして「今すぐこの場を離れろ」という意図が隠されての「今すぐ届けろ」という言葉だったのだと、今のカオルなら十分すぎるほどわかっていた。
でも…
「でもねぇ、ほんと困ったんだからね?
鋼牙ったら、気に入ったのは本当だ、って言って絵を持ってっちゃうんだもん。
絵の代金を払ってもらおうと思ってこの住所を探したけど、小西さんなんて家、ないんだからぁ。
ああ、やられたぁ、絵を持ち逃げされたぁ、って悔しいやら悲しいやら…」
そう言ってカオルはクスクス笑う。
そんなカオルに、なんとも居心地悪そうな顔の鋼牙が謝ろうと思い口を開きかけるが、それを目で制しつつカオルのほうが一足先に口を開く。
「だから、バイク便のバイトをしているときに鋼牙の屋敷に行ったとき、『見つけた、この絵画ドロボー! きっちり絵の代金、払ってもらおうじゃないの!』って心の中で腕まくりしたんだからね?」
悪戯っぽく笑いながら言うカオルに、
「…すまない」
と鋼牙は一言謝るので精一杯だ。
神妙な面持ちの鋼牙に、カオルは微笑みを浮かべながら首を横に振る。
「展示会、駄目になっちゃったけど、鋼牙が絵を気に入ったと言ってくれたのは嬉しかったよ?
それに、結局あそこから逃げ出すことができなくてホラーの返り血を浴びることになっちゃったあたしのこと、鋼牙は助けてくれた…
あたしが今もこうして元気で生きていられるのは、鋼牙のおかげだって、とっても感謝してるの」
カオルは鋼牙を見つめてそう言ったが、ふいに気恥ずかしくなったのか、鋼牙から視線をそらして落ち着きのない様子を見せた。
「あー… なんていうの? あ、うん、そう! これ、片づけないとお昼食べられないよね?
そうだよ、うん、すぐ片づけるから!」
そう言うと、カオルはあたふたとテーブルの上に並んだ物たちをまとめるように動き出した。
その様子を眺めていた鋼牙だったが、なんとなく表情がすぐれないことにカオルは気づかない。
それでも、ただぼぉっと立っている鋼牙には気付いたので、
「なあに? 見張ってなくても大丈夫だよ?
鋼牙もやらなきゃいけないことあるんでしょ?」
と冗談めかして笑う。
すると、
「ああ…」
と鋼牙の返事はなんとも歯切れが悪い。
「どうしたの?」
ようやく鋼牙の不審な様子に気付いたカオルが首をかしげながら尋ねるが、鋼牙は、
「…いや、なんでもない」
と言い、
「書斎にいる。昼の用意ができたら呼んでくれ」
と言い置いて、リビングを出て行った。
パタン
リビングから出た鋼牙は、ドアに背を預けて、はぁ、とため息をついた。
『くっくっくっ』
その瞬間、ザルバがこらえきれないというように笑いを漏らす。
じろりとそれを咎めるように下ろされた鋼牙の視線にもザルバが堪(こた)えないのはいつものごとく、だ。
『おい、鋼牙。カオルには言わないつもりなのか?』
くくっとまだ笑い足りないように口元を歪ませながら、ザルバは問うと、
「…なんのことだ」
と鋼牙はしらばっくれる。
『何って… あの住所のことだ。
カオルは、これ以上巻き込まれないようにとおまえが気遣って嘘を書いたと思ってるんじゃないのか?』
「…」
『でも、ほんとは違うんだろ?』
「…」
鋼牙は無言のまま、ザルバを無視するように書斎へと足を進め始めた。
歩き出した鋼牙の足取りは心なしか速く、無駄口には付き合いきれないとばかりに他を寄せ付けない硬い空気をまとっていた。
だが…
ザルバはどこ吹く風、だ。
そんな鋼牙にも臆せずに、飄々とした口調のまま言葉を発し続ける。
『おまえは嘘の住所を書きたかったわけではなく、あれしか書けなかったんだろ?』
「…」
鋼牙の足は止まらない。
『だってなぁ、本当の住所は書けないよなぁ?』
「…」
書斎にたどり着いた鋼牙は、やや乱暴にそのドアを開き、中に入る。
そして、革張りの椅子を引き、重力に従うようにどさっと腰を下ろした。
ぎしっとその重みにきしむ椅子に、さらに意識的に体重をかける。
『おまえ、知らなかったんだろ?』
「…」
『…屋敷の住所』
「…」
『ま、住所なんて書く機会もないもんな?』
「…」
『宅配で荷物を手配するようなこともないしな…』
「…」
『ネットで買い物なんかもしないしな…』
「…」
『屋敷なんて、ゴンザのメシが食べられて、あったかい布団で寝れれば、それで事足りる場所なんだしな』
「…」
『天下の黄金騎士様が、伝票に住所を書き込んでる姿なんてなぁ、想像したくもないぜぇ』
それまで言いたいように言うザルバに対して、黙って不機嫌そうに顔をしかめていただけの鋼牙だったが、とうとう耐え切れなくなったのか、
「…うるさい」
と低く硬い声でつぶやくと、左手からザルバを抜き取り、書斎机の上にあった木箱の蓋を開けて中の台座にカチャンと荒っぽく落とした。
だが、そんな扱いをされてもザルバは、はっはっはっと笑うだけで気にしない。
仏頂面の鋼牙は、とりあえず手近にあった書物を取り上げ、目的もなくページをパラパラとめくりだした。
すると、
『ああ、もうひとつ忘れてた』
と笑いを収めたザルバが、思い出した、と言わんばかりにまた口を開く。
うっかりとそれに興味を引かれた鋼牙がページをめくる指を止め、ザルバへと視線を投げかけると、ザルバはもったいぶるように
『今のおまえさんにとっては…
屋敷は…』
とたっぷりと間(ま)を開けて言った。
「…何が言いたい?」
思わず、焦れた鋼牙が先を促す。
すると、にんまりと笑ったザルバが言った。
『くっくっくっ、冴島鋼牙にとっての屋敷とは、カオルがいるところ、ってのが一番に来る場所なんじゃないか?』
それを聞いた鋼牙は少しばかり視線を彷徨わせたが、せめてもの反撃とばかりに台座の木箱の蓋をパタンと閉めた。
蓋を占めたというのに、ザルバの高笑いがなんとなく聞こえているが、鋼牙はフンと鼻を鳴らして背中を向け、視界から追い出した。
カオルがこの真実を知る日が来るかはわからないが、別に知られたからと言ってなんということはない。
(せいぜいザルバが揶揄(からか)っていじってくるだろうが)
ただ、たとえその日が来ても、鋼牙にとって帰る場所にカオルがいること、鋼牙の帰る場所がカオルのいる場所であることに変わりがなければいいと、鋼牙は思った。
「では、こちらにご住所を…」
あの日のカオルに重なるように、今のカオルの姿が重なって思い浮かぶ。
(もしも、今。そう言われて手帳を差し出されたら、俺はどうするだろう…)
そんな他愛もないことを思い、鋼牙はふっと表情を緩めた。
fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
手帳に書かれた住所って、出鱈目だったのかな? それとも正しいものだったんだろうか?
そんなところから発想を広げた妄想でした!
実は、(1)部分を書いていたときは「嘘」にしようか「真実」にしようか決めかねていたのです。
で、(2)部分を、なんとなく「嘘」で書いてみようと書き始めたら、わりとスルッと書き出せたので、それでいっか~と突き進むことに!
書き続けるのが難しそうなら、そのときは「真実」で書いてみればいいか、と思っていたので、二度手間にならずによかったです。ほんと!
えっ、そんなテキトーな感じなの? と思いました?
ふふふ、そうなんです。
しっかりプロットを組み立てて、などというち密さはNothingです。
そのときの気分のまま、気ままに妄想するのが selfish 流でしてぇ。
「巻き込みたくないから嘘でした」という当たり障りのない理由のまま終わろうかなと思ったのです。
でも、それじゃあ、ツマラナイ…
「が、実はね」っていうところでちょっと驚きを覚えてもらえたら… 「うぉっしゃ~」とガッツポーズですよぉ!
まぁね、出鱈目は出鱈目でも「あれしか書けなかっただよぉ! だって、住所知らないもん!」というオチは、ほんとにその部分に差し掛かったときにフワッと舞い降りてきたので、妄想の神様っているんだな、と思いましたけれども。
いかがでしょう?
妄想の神様のプレゼント、お楽しみいただけましたか?
コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
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