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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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旅立つ者へ(1)

今宵の妄想も、前回のものに引き続き、月虹から…
少しでもお楽しみいただけますよ~に!

拍手[6回]




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白亜の柱が等間隔に並ぶ元老院の回廊。
その荘厳な雰囲気を切り裂くように黒い人影がものすごいスピードで歩いていく。
長身で、一見すると細身の男は、その見た目とは違い、少しのブレも見せずにただ前を見て先を急いでいた。

その男とは、布道レオだった。

壮年の域に達したレオは、元老院の中でもその地位を確固としたものに築きあげ、今や揺るぎない存在となっていた。
普段は春の海のように穏やかな表情をしてしているレオだったが、その顔は険しく、焦りと困惑の色も見せていた。
迂闊に声を掛けられないくらいの緊迫した雰囲気をまとったレオが、その長い足を生かして風のように突き進んでいくと、ある部屋の前でピタリと足を止めた。

ぐっと睨むように顎を引き、小さく呼吸を整えてから、ドアをノックする。

「グレス様。布道レオです。
 お話があります。入りますよ?」

いつもなら決してこのような非礼を働くことはない。
それだけ、レオの心は尋常ではない焦燥感に駆られていた。
グレスの返事を待たずして、レオは躊躇なくドアを大きく開けた。
すると、優雅なカーブを描く猫足が美しい書斎デスクに向かって、大きな真っ白な羽のついたペンを片手に何かを書きつけながら、頭を抱えているグレスの姿を認めた。

「うーん、このホラーの相手は彼では心もとないかしら…
 いえ、でもなんとかこなしてもらわないと、こっちの仕事が回らなくなるし…
 あっ、じゃあ彼にサポートに入ってもらうのはどうかしら? …あーん、だめだめ! 彼にはこれを頼みたいもの」

部屋に入っていたレオに気付いているのかいないのか、グレスはまったく顔をあげることなく、眉を顰めたり、ぱあっと表情を明るくしたり。そうかと思えば、今書いたばかりのところに大きくバツを書きながら大きなため息をついていた。
そんなグレスに向かい、レオは一直線に歩みを進める。

「グレス様!」

そう呼びかけられて、ようやくグレスはレオを見上げた。
そして、ふうっと小さく息を吐いてから姿勢を正し、

「レオですか。どうしました?」

と表情を消して問いかけた。
神官という存在は、絶対的な存在だ。
彼らにかかれば魔戒騎士といえども、その命は簡単に消し飛ぶとも言われている。
けれども、レオはそれにも関わらず、毅然とした態度で問いかける。

「グレス様。
 冴島雷牙が鋼牙さんを追って旅に出るというのは本当ですか」

グレスはレオが何を言うかわかっていたのだろう。
表情を少しも変えずに、

「はい、本当です」

とだけ言った。
それを聞いて、レオのほうが冷静さを失い、思わず書斎机に両手をついて、前のめりにレオが詰め寄った。

「なぜです!
 彼は黄金騎士の鎧を継承する魔戒騎士。それも、歴代最強と言われるほどの男。
 先代の牙狼である鋼牙さん、そして鋼牙さんと並び称された絶狼の零さんのいない今、彼までもをいつ帰れるかもしれない旅にみすみす送り出すなんて…」

そこまで言って、さすがにそれ以上の言葉は躊躇(ためら)われた。
言ってしまえば、あからさまなグレスへの批難となってしまうからだ。
魔戒騎士や魔戒法師のことを非人道的に扱う神官もいる中で、グレスは彼らをとても人間的に扱ってくれる神官であり、レオもどの神官よりも彼女に信頼を置いていた。
それゆえに、つい分(ぶ)をわきまえずに言いすぎてしまったきらいがあるが、すんでのところで思いとどまり、唇を横に引き結んで訴えるような目で見つめるしかできなくなった。

そんなレオにちらりと視線をやったグレスは、手にしていたペンを置いてから、おもむろに手を組んで椅子の背に身体を預けた。

「あなたの言いたいことはわかっているつもりです。
 私としても、冴島雷牙が戦力から外れるのを歓迎しているわけではありません」

グレスの言葉に、レオの表情は複雑だ。
レオとて、雷牙が父の後を追うことを引き留めたいわけではない。
彼が鋼牙の後を追いたい気持ちも十分理解できるつもりだ。

だが、魔戒騎士として、ただでさえその数が十分に足りているとは言えない現実もまたよく知っていた。
雷牙ほどの腕前の魔戒騎士がいなくなることに不安を感じずにはいられない。

魔戒騎士だけではない。
魔戒法師の中でも、我雷法師や四道といった実力のある者たちが惜しまれつつもこの世から去っている。
そういったことを考えると、ひどく暗澹(あんたん)とした気持ちになっているまうのだ。

「レオ」

グレスに声を掛けられて、レオははっとする。

「はい、グレス様」

「雷牙の抜けた穴を埋めるのは並大抵のことではないことです。
 ですが… なんとしても残った者の手でホラーと闘うしかありません。
 あなたにもこれまで以上に働いてもらわなければなりません。
 頼めますか?」

険しい表情で期待を込めつつレオを見つめる。
そのまなざしを、レオはまっすぐに受け止めつつ大きくうなずく。

「もちろんです、グレス様。
 私にできることであれば何なりと命じてください」

きっぱりと言ったレオに、グレスの顔が安堵の表情に変わり、

「頼りにしていますよ」

とふわりとした笑みを浮かべる。

「はっ」

そう返事し、レオは姿勢を正して頭を下げた。
そして、頭をあげると、レオもまた表情を和らげて、グレスとにこやかに笑いあった。




すると、そんなところへ…
バタバタとした慌ただしい足音が近づいてきたかと思うと、ドアがせわしなくノックされた。

「グレス様っ!」

途端に空気が張り詰め、グレスとレオは黙したまま視線を絡ませ小さくうなずきあってから、

「入りなさい」

とグレスが声を張った。

「失礼します」

と小さく言って入ってきたのは元老院の衛兵だった。



to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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