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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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契約の一日(2)

PCの不調で1週空いてしまいました。
ただでさえ進みが遅いのに…

覚えてますか? この前の妄想を!
思い出してください、この前の妄想を!

selfish も思い出すからっ! (おいおい、自分が忘れんなよー!)

拍手[10回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

翌朝。

ベッドの中で目覚めたカオルは、徐々に覚醒していく意識とともに思考を取り戻していった。

(あっ…)

そのことに思い当たったカオルは、バネで動く人形みたいにガバッと跳ね起きた。
まるで大切な用事に遅刻でもするかのように、バタバタとせわしなく身支度を整えて部屋を飛び出そうとしたが、慌てて戻ってヘアブラシで髪をきれいに梳(と)いた。
鏡に映る自分の姿を、右を向き、左を向いてチェックしていく。

(よし!)

心の中で気合を入れて小さくひとつうなずくと、今度こそほんとに部屋を飛び出した。
廊下を進む足も心なしか軽く、駆け出してしまいそうだ。
顔だって緩みっぱなしなのだが、カオルがそれを自覚する余裕はない。

’契約の日’ だった昨日一日、ずっと自室に籠っていた鋼牙に今朝は会えるのだ。
抑えようったって身体の芯から沸き起こるような高揚は止まらない。

リビングの前でドアノブに手を掛けたところで足を止めたカオルは、今一度髪を手櫛で整えて、興奮気味の自分を落ち着かせるように胸に手を置いて大きく深呼吸をした。

力を込めてドアを開ける。
顔には輝くような笑顔が浮かび、視線は鋼牙がいるはずの朝食の席に向かう。

「おはよう!」と明るい声で言おうとした口が、「お」の形のままで息を飲み、身体全体の動きも止まってしまった。
残念ながらそこには鋼牙はおらず、朝食の準備をしているゴンザが手際よくカトラリーを並べているところだった。
ゴンザは入室してきた気配を感じて顔をあげる。

「カオル様!
 おはようございます」

にこやかに朝の挨拶を口にするゴンザに、カオルはようやく動きを再開する。
開けっ放しになっていたドアを閉めてから、ゴンザを振り返り、

「おはよう、ゴンザさん」

と挨拶を返した。そして、できるだけ平静を装い尋ねるのだった。

「鋼牙はまだなの?」

「はい…
 …いつもどおり、今日は少し遅くなると思います」

少しだけ陰のある硬い表情でゴンザは答えると、カオルは

「そう…」

と視線を落とした。
ザルバと命の契約を遂行した翌日は、鋼牙の一日の始まりもスローなのだ。
仮死状態で24時間を過ごすということは、いくら魔戒騎士といえども相当な負担が身体にはかかるのであろう。
別に鋼牙がそう言ったわけではないが、これまでに何度も契約の日をこの屋敷で迎えたカオルにだって、それはわかった。

笑顔の消えたカオルに、気遣うような視線を投げていたゴンザが、

「カオル様は、どうされますか?
 先に召し上がられますか?」

と優しく声を掛ける。
すると、はっとしたカオルが顔を上げ、ゴンザに笑顔を見せる。

「あー、どうしようかなぁ…
 もうちょっとだけ待ってようかな」

迷いながらそんなふうに答えていると、ガチャとリビングのドアが開いた。
そこから姿を見せたのは、もちろん鋼牙。
いつもより精彩を欠いた様子だったが、それでもカオルの顔には喜色が浮かぶ。

「おはよう、鋼牙」

すると、まだ疲れの残る鋼牙がふっと穏やかに表情を緩めて

「ああ、おはよう」

と答え、カオルと視線を交じらわせる。
その気怠(けだる)げなまなざしにはわずかに色気が漂い、カオルはまともに目を合わせられないような、でも目をそらすのももったいないような、裏腹な気持ちで落ち着かなくなる。

そこに、

「おはようございます、鋼牙様。
 ただいますぐに朝食をお持ちいたします」

とやや遠慮気味にゴンザが声を掛ける。

「おはよう、ゴンザ。頼む…」

そう言った鋼牙は席に着こうと歩き出し、カオルの横を通り過ぎ様にポンと頭を叩いていく。




朝食を食べ終わると、鋼牙は

「すまない、まだ寝たりないようだ…」

と言いおいて再び寝室に戻っていった。

実際のところ、いつもならもう1、2時間はゆっくりしているのだが、今日はカオルと一緒に朝食を摂りたかったのだ。
世の中のごく一般的な男のようにデートや旅行に連れて行ったりすることもなく、それどころか、そばにいてほしいというわずかな願いすら叶えられない自分が、カオルに対してできるのはその程度のことだったから…

それでも、やはり、仮死の代償はそれなりに身体に堪(こた)える。
呼吸も鼓動も、血流すら止まり、完全に時を止めてしまった後は、手足も重く、感覚も鈍い。
カオルやゴンザを心配させてしまうのはわかっていても、回復のためには休養が必要だった。
ふたりの視線を背中に感じながらも、鋼牙はリビングを出ていくまではできるだけ背を伸ばして虚勢を張るのだった。




契約の一日は、翌日にも大きく影響を残す。
朝食はいつもより遅く、胃に負担のかからないようなものをゴンザは用意していた。
食事の量だっていつもよりずっと少なめだ。

天気のよい日は庭で行う鍛錬だって、いつもよりもゆったりとした動きから始まるのだ、
そして、気になった動きは何度も同じ動きを繰り返して体の動きを確認しつつ、勘を取り戻しつつ行っていく。
それは、カオルのような素人の目から見ても丸わかりなくらいだ。

それに極力外出も控えていた。
もちろん、どうしてもすぐに浄化が必要な質(たち)の悪い邪気については出掛けていって対処していたが、元老院付きの魔戒騎士となってからは、ある程度、管轄に配置されている魔戒騎士に任せることも可能になった。
その分、調べ物をする時間に割り当てたり、身体のメンテナンスに時間を割くことで、自分の力が本当に必要になったときに全力が出せるように注力することができた。



そして、今。
昼食を終え、調べ物をするといって書斎に行った鋼牙に対して、しばらく遠慮していたカオルが「やっぱり少し話したいな」と思って書斎を訪ねた。

  コンコンコン

中からの返事がないことを訝(いぶか)しみつつ、カオルは

「鋼牙?」

と小さく声を掛けながらドアを開けた。
そっと首を突っ込み、中の様子を伺う。
そこにいるはず、と思っていた書斎机の向こうには誰もいない。
おかしいな、と思いつつ足を入れてみると、書斎机とは反対側に置いてあるソファの向こうから2本の足が飛び出しているのが見える。
カオルはソファに近づき、ソファの背中側からそっと覗き込む。
すると、鋼牙は、ひじ掛けを枕にして腕を組んだ状態で寝ていた。

(やっぱり、まだ本調子じゃないのかな…)

カオルは心配そうに眉を寄せつつ、鋼牙を見下ろした。



to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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