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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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Out of control(1)

思いつきで書き始めましたが、ブレーキとアクセルの加減がわからないです。
…大丈夫でしょうか?

拍手[10回]


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「…また、傷、増えてる」

無防備に寝ている鋼牙を見て、カオルは小さく呟いた。

風呂上りでまだ髪も湿っている状態。
裸の上半身にはタオルが首にかけられたまま、ヘッドボードに背を預けてベッドの上に長い足を投げ出し、まるで糸の切れた操り人形のような恰好で、鋼牙は眠っていた。

魔戒騎士としてホラーとの闘いが身近にある鋼牙の身体には、過去の戦歴が大小の傷跡としていくつも残っている。
もちろん、魔戒騎士の中でも最高位と言われる黄金騎士の鎧を継承している彼であれば、若く未熟であった昔とは違い、ここ最近は大きな傷を負うことなどそうはないのだが。
とはいえ、命のやりとりをする戦闘においては、まったくの無傷というわけにもいかない。

鎧を召喚していないときは剥き出しとなっている手には小さなひっかき傷や切り傷はいくつもあったし、右の前腕にはごく最近のものらしい、防御をしたときのもののような痛々しい青痣があったし、そうかと思えば、左の肩から二の腕にかけては、少し前にできたのであろう打ち身の後が治りかけの状態でわずかに黄色く残っている。

それらを見ながら、カオルの顔が悲しそうに歪む。

鋼牙はいつだって闘っている。
誰かに感謝の言葉がもらえたり、褒められたりすることもなく、人知れずに… だ。

それだけではない。
ホラーに付け込まれた哀れな人間の人生を垣間見ることだってある。
ホラーとなってしまった人間の家族や大切な人からやるせない誹(そし)りを受けることも。
目に見える身体の傷ばかりでなく、心にだって深く激しく傷をつけられることもあるだろう。

けれども、そんなことは、カオルやゴンザの前ではおくびにも出さないのが鋼牙だ。
自分が受けた痛みについて、彼は一言も漏らすことはない。

ただ粛々と自らに課せられた使命を果たしている鋼牙…

カオルにとっては、そんな彼を見守ることしかできないことが、溜まらなくつらく感じることもあった。

けれども…
それでも、彼のそばから離れることはできないのだ。
こんな自分でも、自分がそばにいることで鋼牙がとても穏やかな優しい顔をしてくれているのを知っている。
それを自分の価値として自信に変え、誇りとして、カオルは鋼牙を見守り続けていくつもりだった。





鋼牙は、ゆっくりと安定した呼吸で眠っている。
その寝顔を眺めながら、胸の中がとても温かく感じる。
彼が、とても愛おしい…

(フフッ、変なの。なんだかわからないけど泣きたくなっちゃう)

そう思いながら、カオルはそっと鋼牙の目にかかる髪を撫でる。
その顔は、自然と笑顔になっている。

一度触れてしまえば、何度も触れてしまいたくなるのだが、そんなことをして鋼牙の眠りは妨げたくない。
なんとか我慢して、鋼牙にと伸ばしていた手を引っ込めようとする。

すると、ふいにその手が取られた。

「っ!」

驚いて反射的に手を引っ込めようとするが、鋼牙に捕えられた手は離されなかった。
ゆっくりと瞼が開けられ、オニキスのような黒く光を放つ瞳がカオルを見つめた。

「鋼…牙… あの、ごめんなさい。起こしちゃったね」

申し訳なさげにカオルが目を伏せると、鋼牙はカオルの手を自分の頬に押し当てた。
そして、愛おしそうに目を伏せてなおも頬を摺り寄せてから、再びカオルを見る。

「…いいや」

そのたった一言が、カオルを震えさせる。
まるで、頬に当てられた手を伝って弱い電気でも流されたように、カオルの全身に甘い痺れを感じさせるみたいだった。

けれど、鋼牙にしてみれば、カオルにこそ激しく揺さぶられていた。
今のこの一瞬にして、カオルから、なんとも言えない甘やかな香りがふわりと香った気がしたのだ。
鋼牙は我慢できず、いや、最初から我慢などするつもりもなく、本能の命じるままに彼女の手を引っ張り、反対の手で彼女の腰を強く抱き寄せていた。

「カオル…」

耳元で艶めいた声に名前を呼ばれると、カオルは鋼牙の腕の中でピクンと強く反応してしまう。
だが、それも一瞬で、すぐにクタッと身体から力が抜けた。
鋼牙の声はまるで劇薬だ。とても激しくカオルに作用する。

腰に回っていた手が後頭部を救い上げるようにしてカオルを上向かせる。
ああ、鋼牙の視線が熱い。
そう思う間もなく、カオルの唇にも熱を感じる。

性急にも思える鋼牙の口づけに、カオルの目は驚きに見開かれたが、焦点も合わないような近距離にあるに鋼牙の目はじっとこちらを見つめたままだった。
角度を変えながら何度も唇をついばまれ、だんだん密度を増していくキス。
そして、カオルの反応を見逃さないように見つめる鋼牙の視線に耐えきれず、カオルは思わず目を閉じる。
すると、途端にキスが中断される。

「目を閉じるな。俺を見ろ…」

そう言われて、カオルは反射的にパッと目を開けた。
唇は離れているが、その距離はものすごく近い。
鋼牙は、少しだけ意地悪そうな表情を見せ、もったいぶるようにわざとゆっくりとキスを再開する。
もちろん、目は開けたままだ。

鋼牙の視線とキスの熱っぽさにぼぉーっとするが、カオルはすぐに自分の身体を這いだした鋼牙の手の感触に気付く。
背中を撫で、わき腹をかすめ、胸のきわどい部分を這っていく手。

唇を塞がれているので、思うように声は出ない。
鋼牙の胸を押したところで、彼の拘束からは逃れようがない。
そのため、わずかに身を捩(よじ)ることしかできないカオルだったが、そのとき、鋼牙の手がカオルの胸の一番敏感な部分をきゅっと摘まんだので大きく身体が跳ねる。

「ふぅ… ん…」

鼻を抜けていく甘い吐息に、鋼牙は満足そうに目を細める。
だが、次に鋼牙の口から出たのはまったく真逆な言葉。

「カオル、もう休もう…」

そう言って、鋼牙はカオルの額にチュッと触れるだけのキスを落として、鋼牙はあっけなく布団に入り、目を閉じる。

(へ?)

そのあまりの変わり身の早さに、カオルはとんでもなく間の抜けた顔で動きを止めた。
そして、次の瞬間、

(えぇーっ! なんで?)

と激しく動揺した。
とはいえ涼し気な表情で目を閉じている鋼牙を見ていると、どうやらほんとにこのまま眠るしかないように思えて、カオルも鋼牙の隣にやや距離を置いてベッドに入り、目をつむるしかなかった。

けれども、すんなり眠れるわけもない。
中途半端に昂(たかぶ)らされた身体が静まらない。
それを何とか落ち着かせようと、意識的に深呼吸するように呼吸をゆっくりとしてみたり、明日の予定を思い起こしてみたりした。

やっぱりだめだ。
隣にいる鋼牙とは身体が接しているわけでもないのに、どうしたって、鋼牙のいる方が熱い気がする。

(ああーん、もうどうするのよーっ!)

ちらりと横目で見た鋼牙に怒りすら湧いてくる。

こうなりゃ、半分ヤケクソだ。恥ずかしいも何もありゃしない。

カオルは恥も外聞も打ち捨てて、鋼牙に抱き着いた。
ささやかな胸も密着させて、腰を摺り寄せる。

そうしておいて鋼牙の反応を見るが、絶対気付いているはずなのに何も反応してくれない。

(うーんー)

しばらく考えてみたが、やっぱり一度起こってしまった身体の熱は収まらない。
最後の手段とばかりに、カオルは自分から鋼牙にキスをしかけてみた。
鋼牙の唇を舌でねっとりと舐めあげて、鋼牙の唇の隙間から侵入させる。
自分なりに精一杯、鋼牙をその気にさせようと頑張ってみるが、鋼牙は相変わらず反応なしだ。

「何をしている」

の一言すらない。
ここまでして鋼牙がノッてこないということは…
ついさっきまではあった自信とか誇りとかがグラグラと揺すぶられる。

(鋼牙を癒す存在ではあるかもしれないけれど、鋼牙を強く惹きつけるような魅力はあたしにはないんだろうな…)

そんなふうに思ったカオルは、途端に悲しくなり、もそもそと鋼牙から離れてベッドの端っこで背を向ける。

(どうしよう… 泣けてきちゃう…)

先ほどとは全然意味の違う涙がじわりと目尻に浮かんでくる。
歯を食いしばり、なんとかしゃくりあげるのを我慢していると身体が震えてしまう。
なんとかそれを抑え込もうと、身体を丸めて、身体を強張らせて抑え込もうとする。



すると…

  ぎしっ

とベッドがきしみ、

「カオル?」

と鋼牙が声を掛けてきたので、カオルは慌てて目尻を拭(ぬぐ)う。
すぐに、カオルの肩に手を掛けて覗き込もうとしてきた鋼牙に、カオルは急いで顔を伏せるが、鋼牙が力任せにカオルをこちらに向かせる。

「…泣いているのか?」

やや瞳を揺らしながら尋ねる鋼牙に、カオルは

「…ううん、泣いて、ないよ」

と答えるが、表情はどこかぎこちなくなってしまう。
鋼牙はカオルをじっと見つめているので、カオルも目をそらしちゃいけないと思い、じっと見返していた。
しばらく、言葉もなく見つめること数秒。
観念したかのように鋼牙は、はぁーと大きく息を吐きカオルから目をそらした。
その仕草に、カオルはなんとなく傷ついて、またもや目を伏せたくなった。
が、

「すまない…」

という鋼牙の声に、俯きかけた顔をまたあげた。

「意地悪が過ぎたようだ…」

そう言って鋼牙はカオルの髪を撫で、彼女の身体をしっかりと抱え込むと、ぎゅっと抱きしめた。
そして、カオルの耳元で囁くのだ。

「ほんとは、ものすごくおまえが欲しい…」


to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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