きんのまなざし　ぎんのささやき

なかなか拍手コメントにお礼が言えず、すいません！
その代わり、短いけれど妄想をひとつ…

[7回]

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「あ～ん、どれにするか、迷っちゃう…」

目尻を下げつつも期待と興奮をチラ見せしながら、カオルは目の前の箱の中身に視線を忙（せわ）しく動かしていた。
カオルの手の中には15cm四方ほどのそう大きくない平たい箱。
その箱は間仕切りで9つのスペースに区切られていて、そのひとつひとつには艶めくチョコレートがちょこんと（あー、チョコだけに？）鎮座していた。

ゴンザは

「すべてカオル様がお召し上がりくださってかまいませんよ？」

と嬉しいことを言ってくれたが、見るからに高級そうな（うん、これ、絶対おいしいヤツ！）チョコレートを、さすがには独り占めするわけにはいかない。
ゴンザさんとも（もちろん、鋼牙とも）分けようと思っているが、とはいえ、せめて最初の一個を選ぶ権利はもらっちゃおうかなと、究極の選択（大袈裟ぁ～）にチョコを見る目も真剣になってしまう。
じりじりとした時間が過ぎて…

　　ポッポ～　ポッポ～　ポッポ～（冴島邸にはあるはずもない鳩時計の音）

チョコの上を彷徨わせていた視線が1点で止まり、カオルは無意識のうちに小さくうなずいた。

（よし、決めた！）

カオルが右側の列の上から2番目（下からも2番目！）のチョコに手を伸ばした。
それは、何の装飾もないドーム状のチョコだった。
ただ、その表面は小さな凹凸などひとつもなく、こっくりとした黒褐色の表目は鈍く光を反射している。

（一見地味に見えて、オーソドックスに味で勝負、って感じじゃない？）

カオルはまるで宝石か何かのように細心の注意を払いながら、それを摘まみ上げた。
そして、そして、右や左に傾けながら、造形を楽しんでからゆっくり口の中に運んだ。
一口噛むと、柔らかすぎず硬すぎず、カオルの歯を受け入れる感触に

（おぉっ♪）

と思い、すぐに広がる芳醇な香りに

（むふっ♡）

と笑みがこぼれ、さらにゆっくり噛みしめていきながら、少しビターだがしっかり感じる甘みと、滑らかなくちどけにうっとりと目をつぶった。



そこへ…

　　ガチャ

とリビングのドアが開く音が聞こえて、カオルは余韻に浸りながらも、目を開けて入室してきた人物を確かめた。

「あっ、鋼牙！　おかえりなさい…」

鋼牙は、歩きながらコートを脱ぎ、ハンガー掛けに無造作にひっかけながら

「ただいま」

と答えた。
すると、ザルバが横から口をはさんできた。

『カオル、おまえ、いいもの食ってるな？』

「あっ、ザルバもおかえり。
　うん、このチョコレートね、フランスの有名ショコラティエが監修したものらしくって、わざわざ1時間半並んでゲットしてきたの。
　いまね、ひとつだけ食べたけど、と～ってもおいしかったよぉ」

そう言いながら、カオルは鋼牙のほうを仰ぎ見て、

「あっ、鋼牙も食べてみる？
　どれがいい？」

と尋ねた。
鋼牙はしばらくカオルの手の中の箱の中身を見ていたが、おもむろに

「これ」

と指を差した。

「え？　どれ？
　…これ？」

カオルは鋼牙の指が示すほうを見て、確認のため、再び鋼牙を見た。
すると…

鋼牙はチョコの箱を支えていたカオルの右手の手首をつかみ、ぐいっと引き寄せた。
そして、カオルの人差し指を熱い舌で舐めた。
カオルの指には、彼女が先ほど食べたチョコが溶けてついていた。

「っ！」

カオルは目を見開き、息を飲んでいると、伏し目がちだった鋼牙がじっとカオルに向けられた。
そうしながら、今度は、彼女の反応を確かめつつカオルの親指に舌を這わした。
カオルは指先に感じる熱い湿った感触と、ドキドキと拍動する胸の鼓動。
指についたチョコレートをきれいに舐められ、カオルの手首を掴んでいた鋼牙の手が離れると、カオルはようやく、

「はぁ…」

と大きく息を吐きだした。
どうやら、あまりに驚きすぎて呼吸をするのを忘れていたらしい。

「俺にはこれで十分だ」

そう言うと、そのままリビングを出て行った。
あとに残されたカオルは、たっぷり30秒は固まってから

「えっ？　えっ！　えぇぇぇっ！」

と叫び、驚いたゴンザがキッチンのほうから

「いかがなさいました、カオル様っ！」

とすっ飛んできたのだが、赤くなって動揺の続くカオルは、何があったのか正直に言うことはできなかった。



fin
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ぐふふ♡
チョコレートには媚薬効果があるのだとか…
でもね、この場合、クラッとなったのはチョコレートのせいというよりも…　という妄想でした！
鋼牙さんには、あんまりあざとくならないでほしいんだけど、フェロモンを振りまく鋼牙さんも見てみたいような、そんな感じです。