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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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最近の’お礼’

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ただいま、の後は

やっと涼しくなってきました。
気温も下がり、空気もカラッとサラッとして、こちらではほんとに過ごしやすい週末でした。
あまりの過ごしやすさにダラダラしちゃうよねぇ~
あはっ、お天気は関係なく、いつもダラけてますけどねぇ~ www

ダラけた週末の総仕上げは、いつもの妄想です。
お楽しみくださいませ。


拍手[6回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「ただいま~っ」

ここ冴島邸の玄関がぎぃっと微かに切んだ音をさせながら開くのとほぼ同時に、カオルの少し間延びした声が聞こえてきた。
その声に、まさに今、リビングから出てきた鋼牙が足を止めて玄関のほうへ顔を向ける。

「おかえり。…出かけていたのか?」

いつもとは反対の立場でカオルを迎えた鋼牙がそう言う間に、カオルは玄関脇に置かれたコンソールテーブルの上にある消毒ポンプをプッシュし、霧状に出てきた消毒剤を両手をこすり合わせるようにしてなじませた。
そして、鋼牙の近くまで近づき目の前で足を止めると、マスクで半分以上隠された顔をやや上に向け、目尻を下げた。
恐らく隠された口元にはにっこりとした笑みを浮かべているのだろう。

「ただいま、こ~がっ」

この弾むような声の調子からいっても、まず間違いない。
そんな鋼牙の’読み’など知らずに歩き出したカオル。それに合わせて、鋼牙も隣を歩く。
カオルの足はまっすぐ洗面所に向かっていた。

「ちょっとね、図書館に行っていたの。
 次の作品の準備で調べたいこととか、見てみたい画集があってね」

カオルは洗面所のドアをくぐり、借りてきたと思われる本の入った少し大きめのトートバッグとショルダーバッグを足元に置いて、手を洗い始めた。
クチュクチュと湿った音がしていたのは最初のうちだけで、すぐにカオルの手は真っ白な泡で覆われる。
指と指の間はもちろん、手首までしっかり洗っている彼女の姿を、鋼牙はドア口に肩を預けてぼんやりと見ていた。

「中世のお城とか教会なんか建造物のことが知りたくて、建築のところ見たり、あとは宗教とか歴史とかにもあるかなぁって、あっちうろうろ、こっちうろうろと図書館の中をぐるぐる回っちゃったぁ。
 そしたらさ~あ、立ちっぱなしでだんだん腰が痛くなっちゃうし、久しぶりに活字にいっぱい触れて頭もパンクしそうになっちゃったんだけど…
 でもね、その甲斐あってちょうどいい資料になる本が借りられたんだよ?
 はぁ~、この暑い中、わざわざ出かけただけの価値があったなぁ…」

「…」

『…』

よっぽど成果が得られたのが嬉しかったのか、興奮気味のカオルのおしゃべりは止まらない。
そんなカオルに、鋼牙は苦笑交じりで何も言わず、ザルバに至ってはすっかり呆れかえって何も言う気になれない、といった風情だった。
そんなこんなで、誰も何も口を挟まずにいるとどんどんカオルの話はエスカレートしていき、ついには、どうした流れでそんなことになったのか分からないけれども、なじみのパン屋の奥さんの妹が結婚するとか出産するとか、ほんとにどうでもいい話にまでたどり着いていた。

が、そこまで来たところで、カオルは手を洗い終えホテル仕様の真っ白でふわふわなタオルで手を拭き終えていた。

「それでね…」

とカオルが振り返り、鋼牙になおも何かをしゃべりかけようとして、はあはあと肩で大きく息をした。
それを見て、鋼牙は壁に寄りかかっていた身体を咄嗟に起こしてカオルに一歩近づく。

「カオル?」

少し険しい顔で心配そうに声をかけるとカオルは言った。

「はぁはぁ、大丈夫だよ。マスクしてると息がしづらくって…」

カオルはわずかにマスクをずらして鼻をマスクから覗かせた。
そして、両手を広げて何回か深呼吸を繰り返してから

「はぁ~っ、空気が吸えるってこんな楽なことなんだねぇ~」

と鋼牙に向かって笑いかけた(と思われる。いや、なんせマスクで表情がわからないから…)
しばらく見つめあっていたカオルと鋼牙だが、やがて鋼牙は、やれやれ、とでも言わんばかりに小さく息をつくと、カオルに言った。

「いい加減、取ったらどうなんだ?」

そう言ってカオルの耳元に手を伸ばして、マスクを片耳ずつ外そうとすると、鋼牙の手が耳に触れてカオルの方はぴくんと反応してしまうので、カオルは恥ずかしくなって下を向く。

「どうした?」

「あー… ごめん。なんか恥ずかしくって…」

鋼牙の何の気ない行動に過敏に反応してしまったことが恥ずかしいのだが、それを正直に言うわけにもいかず、

「なんか近いなぁって… ね…
 ほら、ソーシャルディスタンスとかっていうでしょ?
 感染予防のためにはあんまり近づかないほうがいいんだろうなと思って…」

ともっともらしい理由を並べてみるカオル。
だが、恥ずかしそうに視線をそらすカオルを、鋼牙は彼女の腰に手を巻き付けてさらに引き寄せる。

「なっ… ちょっと、鋼牙ぁっ」

焦ったカオルがつい鋼牙の胸に置いた手に力を込めて離れようとするが、ちょっとやそっとでは緩みそうもない鋼牙の腕に、どうやらそれは叶いそうにないとわかりって早々に諦めた。

「今更だろう?」

そう言うと、意味ありげにカオルの唇を親指でゆっくりとなぞり始める。
カオルの唇の右の端から左の端に到達したところで、そこに視線を注ぎ、伏し目がちだった鋼牙が、すっとカオルの目を射抜くように見つめた。

そして、もう一度、

「今更だろう?」

とまったく同じ言葉を重ねてから、顔を傾けてカオルの唇に口づけを落とした。
しっかりと密着させるように重ねた後、軽いリップ音を残して唇が離れた。

ほんの少し呆然としているカオルを見て、ふっと表情を緩めた鋼牙が、カオルの頭をポンポンと軽く叩いてからドア口から離れて消えていった。

その場に取り残されたカオルが、無意識に自分の唇に触れ、その感覚にはっと我に返った。
そして、ドアのそばまでたどり着き、鋼牙の消えていったほうを見ると、

  パタン

と書斎のドアが閉じるところだった。

(んもう、鋼牙ったら…
 せっかく予防に努めてるっていうのに、元も子もないじゃないっ!)

そう心の中では悪態をつくカオルであったが、置きっぱなしにしていたカバンを拾おうと洗面台の前まで戻ってきたとき、鏡に映る自分の顔を見て驚いてしまった。
そこには、なんともしまりなくふにゃっとにやけている自分の姿が映し出されていたから…





常日頃、鋼牙やザルバからは、魔戒騎士がコロナなんかに倒れたりはしない、だから心配するな、と言われているが、カオルにしてみたら、心配するな、というのは所詮無理な話である。
ただでさえ、人間の邪念から生まれるホラーと闘い、その邪気にその身が晒される魔戒騎士なのだから、彼らの身体に降りかかるダメージは少しでも取り除いてほしい、取り除いてあげたいと思っている。
だから自分が持ち込まないよう、できるだけ細心の注意を払っているというのに…

築きたくもないけれど、鋼牙のために、と高く築いたはずの壁なのに、こうも簡単に超えてこられると悔しいような、虚しいような…
そして、間違いなく嬉しくて仕方がない。

(だめだなぁ…)

大きな溜め息をひとつついてから、カオルは握りこぶしをぐっと握る。

「それでも!
 自分にできることはなんでもやるっ! うんっ!」

決意を新たにしたカオルは、まずはこれから… と、図書館から借りてきた本の入ったトートバッグに視線を落とし、それを掴み上げると自分のアトリエに向かうために洗面所を後にした。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


終わりの見えないコロナとの闘いですね。

ミュー株って何ですかっ!?
まだまだ私たちは試されるのでしょうか?
どこまで自分の欲求を自粛できるのか、精神的な強さを!
どこまで感染に耐えうるのか、身体的な強さを!

最前線で常にぎりぎりの緊張感を強いられる医療従事者の方も、その身体への疲労や精神的な圧迫感を思うと胸が痛い! ほんとに切ない!
なんとか彼らにかかる負担を軽減できないものでしょうか、ねぇ?

というわけで、カオルちゃんも自分でできる取り組みを実践していますが、鋼牙さんがそれを台無しにしちゃってます。

鋼牙さん、駄目だよ? とそう思う反面、でもさ、家族ってのは一連托生だよね… と思ってみたりもします。
せめて家族間では手に手を取り合っていきたいな、なんて思いますけれども。

…それは甘い考えですかねぇ?
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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