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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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足りないものは…(5)

いよいよ最終話です。
足りないものは… なんだったのでしょう?

拍手[9回]


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

身体を起こそうとした鋼牙が痛みに眉をひそめるのを見て、カオルは慌てて駆け寄る。

「いいからそのまま寝てて!」

素直にそれに従った鋼牙は、ベッドにトサッと身を預け、ほぉっと息を吐いた。
ベッド脇のサイドボードに薬箱を置いたカオルは、すぐに蓋を開け、迷うことなく中から湿布を取り出す。
どうやら、何をどうすればいいかゴンザからすでに聞いて知っているようだった。

必要なものを取り出したカオルは、改めて患部を見た。
左の胸から肩にかけて大きく変色している。
幸いにも骨には異常がないということだが、それは彼の大きく発達した胸筋のお陰だろう。
これが普通の人間であれば、肩が砕けていたかもしれない。
いいや、場所が場所なだけに、まかり間違えば心臓に直接的なダメージを受けることだって…
そう思うと、カオルはフルッと身が震えた。
けれども、すぐに奥歯をぐっと噛みしめて気を取り直す。

視線を幹部から鋼牙の顔の方へと移す。
目を閉じてじっと治療を待つ鋼牙は、恐らくものすごく疲れているのだろう。
ならば早く終わらせてゆっくりと休んでもらいたい。

カオルは湿布を手にして

「鋼牙、湿布、貼るよ?」

と声を掛けた。

「ああ… 頼む」

わずかに掠れた声が言葉少なに返されたことにも、彼の疲労の度合いが推し量れてしまう。

まずは肩に近いところから…
そっと湿布を肌に落としたが、ぴくりと鋼牙の肩が跳ねあがる。

「あ、ごめん! …痛かった?」

慌てて鋼牙の顔を見るが、鋼牙は

「…いや。冷たかっただけだ」

と目を閉じたまま答えた。
それを聞いて、カオルは湿布の上に手を乗せる。

「ごめんね。…今からあっためても遅いよね」

どうやら、自分の手で湿布を温めようと思っての行動だったようだ。
フッと鋼牙の口角がわずかにあがる。

「ああ、遅いな。…だが、気にするな。
 まだ何枚も貼るんだろう? 気にせずやってくれ」

「あ… うん」

鋼牙の口調は急かすようなものではなかったが、カオルは極力急いで残りの湿布も貼っていった。
そのたびに鋼牙は冷たさに身じろぎし、カオルは、ごめん、と謝った。

最後の一枚を貼り終えて

「鋼牙、終わったよ」

と声を掛けると、鋼牙もカオルも知らず知らず肩から力が抜けた。

「大丈夫?」

決して大丈夫などではないのに、ついそう声を掛けてしまう。

「ああ…」

鋼牙はそう返事をするものの、その目は閉じられたままだ。

カオルは再び湿布の上から手を乗せた。
湿布の上からでもじんわりと鋼牙の肌の熱さが感じられるような気がして、きゅっと胸が痛くなる。
打撲による熱は、湿布がいくらか冷やしてくれるだろう。
けれども、それでもカオルは自分の手を当てることで鋼牙を癒したいと思ってしまう。
人の手が触れることで鎮痛作用のある物質が増える、だとか、安静ホルモンと言われる物質が分泌される、だとか、そんな小難しいことはよくわからないけれども、優しい手のぬくもりが安心させてくれることを経験的に知っている。

(鋼牙…)

早くよくなりますように、という思いを込めて、カオルはしばらくの間そのままの姿勢でいた。
が、ふと、鋼牙の呼吸がゆっくりと穏やかになっていることに気づいた。
どうやら、眠ってしまったようだ。



その後のカオルはちょっと大変だった。
鋼牙は掛け布団の上に寝てしまっていたので、ものすごく苦労しながら掛け布団を引っ張り出して鋼牙に掛けた。
カオルが悪戦苦闘している最中も鋼牙はまったく起きることなかったところを見ると、それだけ疲労が蓄積していたことがわかる。
もちろん、気の置けない者しかいない自分の屋敷にいるせいでもあったろう。

一仕事を終えたカオルは大きく息をついて、明かりを落とした。
常夜灯のわずかな明かりだけがつく部屋で、鋼牙は穏やかな寝顔を見せていた。
カオルはベッドサイドにしゃがみ込んだ。
そして、慈しむように彼の髪をゆっくりと梳(す)いた。

怪我をしたものの無事に屋敷に帰ってきてくれた安心感に、心が温かくなるのを感じつつも、その反面、やはり危険とはとなり合わせなのだということを再認識させられて胸が張り裂けそうにも感じていた。
沈痛な面持ちで目を伏せると、ポロリと涙がこぼれた。
すると、それが呼び水となったのか、どんどん思考が負の方向へと走り出していく。

(明日、また指令が来てこの屋敷を出て行く鋼牙を、笑って見送ることができる?
 ひどい打撲を負った身体で出かけて行って、もっとひどい怪我をしたらどうしよう…
 腕を失うような、足を折るような…
 命まで失くすようなことがあったら…)

ポロポロと真珠のような涙をこぼれ落ちるがままにして静かに泣いていたカオルだったが、スンと鼻をすすりあげた音に自分でハッとする。

(こんなところで泣いていては駄目…)

そう思ったカオルはすっくと立ちあがり、足音に気を付けつつも急いで部屋を飛び出した。

パタンと乾いた音を立てて閉じたドアに背中を預け、はぁっと息を吐きだした。
(あたしが鋼牙を信じないでどうするの…)

そう思いつつも心は重たい枷(かせ)にでも繋がれたように浮上することが難しい。
そうしている間にも、また涙が込みあがってくる。

すると…

  ガチャ

ドアノブの音が響き、ドアが室内から引きあけられた。
そのドアに寄り掛かる格好でいたカオルは、当然、あっ、と声をあげる間もなく後ろに大きく傾いた。
カオルは、思わずぎゅっと目をつむることしかできなかったが、すぐに温かい腕に支えられていることに気づく。
慌てて振り返れば、案の定、そこにいたのは鋼牙だった。

「鋼牙っ」

急いで体勢を整えて身体ごと振り返って見れば、カオルの顔を見るなり、鋼牙は眉をひそめた。
その様子にカオルは首を傾げる。

「どう… したの?」

すると、鋼牙は無言でカオルへと手を伸ばす。
鋼牙の親指が、目の下辺りを横にぐいっと何かをぬぐう。
その動きに、カオルはハッとした。
突然の鋼牙の出現に涙は驚きで止まっていたが、そこにはいく筋もの涙の痕があることを忘れていた。

「あの、これは… 違うのっ。なんでもない、から…」

’なんでもない’ことなど ’ない’ということは解りきったことだったので、カオルの声もだんだん小さくなり俯いた。
なんとも言えない気まずい雰囲気の中、ぼそりと鋼牙が口を開く。

「すまない… 心配をかけて…」

カオルはガバッと顔を上げて鋼牙を見上げ、でも、言葉にならずにただただ首を横に振る。
そして、ぎこちなく微笑んでから、

「あの、鋼牙… もう休んで?
 少しでも身体を休めないと… ね?」

と半分懇願するような口調で促した。
鋼牙は、心配そうに見上げるカオルを柔らかなまなざしで見る。

「ああ、そうだな…」

そう言いながら、しばらくの間、見つめ合うふたり。
が、やがて、鋼牙がカオルの手を引いて部屋に引き込み、そのままベッドへと向かう。

「えっ、鋼牙?」

戸惑うカオルにも、鋼牙は華麗にスルーするばかり。
ベッド脇まで来ると、布団をガバッと大きく剥いだ。
そして、さっさとベッドに入ると、カオルの腕をなおも引っ張る。
だが、カオルはそれに抵抗しつつ言う。

「あ、あの、鋼牙?
 ひとりでゆっくりと休んだ方が身体が休まると思うんだけど?」

ところが鋼牙は、そんなカオルのささやかな抵抗も問題ないとばかりに、ぐいっとさらに引き寄せるので、カオルは溜まらず片膝をベッドにつき、鋼牙の胸に飛び込むような恰好になってしまった。
そんなカオルの耳元で、鋼牙は囁く。

「ゆっくり休ませたいと思うのなら、おまえはここにいろ…」

低く響く、わずかに艶めいたものが感じられる鋼牙の声に、カオルは身を震わせ力が抜けた。
その隙を逃さず、鋼牙はカオルの腰をぐいっと引き寄せ、ベッドに引きずり込む。
カオルの後頭部を包み込むようにして引き寄せ、大きく深呼吸する鋼牙。

「これで落ち着いて休める…」

本当に安堵するかのような声が鋼牙から漏れたので、カオルはごそごそと上を向く。
すると、唇にチュッとリップ音を伴う軽いキスが降ってきた。

「っ!」

驚くカオルに、鋼牙は言った。

「カオル… 世話をかけてすまない。
 心配もかけてすまない。
 けれども、こうしてそばにいてほしい…」

カオルを見つめる目は、とても真摯で誠実で力がこもった強いまなざしだった。そんな鋼牙を見上げるカオルの目がみるみる潤んでくる。
が、涙はこぼさず、カオルは笑顔を見せた。

「…はい。
 これからもずっと。ずっと、ずぅぅぅっと、そばにいたい、よ?」

不安も心配も飲み込んで、カオルも嘘偽りのない自分の気持ちを伝える。

それを聞いて、鋼牙の目が嬉しそうに緩む。
そして… ゆっくりと近づいてきた鋼牙の唇が、カオルの唇に重なる。
何度も… 何度も…
つながりを深くし… 絡まりを熱くし…



鋼牙とカオルの関係は時間の経過とともに強くなるだろう。
けれども、それと比例するように、相手を失うことへの不安に揺れる度合いも大きくなっていく。
その大きな不安に押しつぶされないようにするために足りないものはなんだろう?


言葉だろうか?
触れ合いだろうか?
互いを気遣う思いやりだろうか?
互いを求める気持ちの強さなのだろうか?

多分、どれも正解であり、不正解なのだろう。
何かひとつでは足りないのだ。
どれかひとつでは満たされないのだ。

自分を満たし、相手も満たすその方法が何か…
彼らふたりなら、時を超え、空間を超えて探し続けることができるかもしれない。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


ふぅ~

実は…
終わってみたら、当初思っていたのとちょっぴり違う方向になっちゃいまして。

ほんとはね、カオルちゃんが大泣きして「塩分不足だな」とか言われて、「熱中症になるぞ」と注意されるようなことを考えてたんですが、どうにもこうにも selfish の遅筆のせいで「熱中症」に結びつけるにはあまりに涼しい気候になってまして、しょうがないなってことで若干方向を変えました。(というか、いつの間にか変わってた…)

ふふーん。この辺が ’気まま’ な selfish の特性ですな。

とは言え、実は一番足りないのは、「ふたりの甘々な展開」だったのかも… と思わなくもないのでした!
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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