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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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問われる覚悟(1)

一応、お知らせです。
先週日曜のアップは見送らせてもらいましたが、文化の日に妄想をひとつアップしております。
読み逃している方は、よろしければそちらもどうぞ!

さて、本日の妄想は、というと新たな連載の始まりです。
楽しんでくだされば幸いです。

拍手[5回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

その知らせを聞いた鋼牙は、驚きのあまり目を見開いたまま、すぐには声が出なかった。

鋼牙の前にはゴンザが両手を腹の前で軽く合わせて立っている。
控え目でありながら芯に緊張感を持った執事の佇まいは、なんらいつもと何ら変わりないはずなのに、沈痛な面持ちでわずかに目線を落としているゴンザを、鋼牙は見つめるばかりだった。
だが、いつのまにか呼吸まで忘れていたのだろう。その息苦しさにふうっと息を吐いて大きく呼吸をした後、鋼牙は口を開いた。

「それは、本当なのか?」

しんと静まる室内に、乾いた声が妙に響いた。
その問いかけに、ゴンザは伏せていた顔をあげてまっすぐに鋼牙を見た。

「……間違いございません。
 我雷法師が亡くなったそうにございます」

腹に力を込め、ゴンザはゆっくりとそう言い切った。
二度目となるその報告に、鋼牙の中に我雷法師の死という事実がじわじわと浸透していく。
その感覚に、鋼牙は自然と目を閉じていた。

そんな鋼牙に、ゴンザの報告は続いた。

「前日までとてもお元気だったそうです。
 朝、なかなか起きてこないのを不審に思って様子を見に行くと、すでに…
 苦しんだ様子もなく、本当に眠っているような穏やかなお顔だったとのことでした」

報告を受けながら、鋼牙は在りし日の我雷法師の姿を思い起こしていた。
そして、それとともに、閑岱の地にいる朋友たちの姿もまた…
魔戒法師の里である閑岱を束ねてきた我雷法師の弔いに、今頃、彼らは奔走しているのであろうか。

彼らを思いやる鋼牙に、ゴンザのひとりごとのような呟きが届く。

「またひとり、優れた魔戒法師を失いましたな」

鋼牙はゆっくりと窓辺まで足を進めると、何も言わずに、よく晴れた空を見上げていた。





閑岱の里は悲しみに包まれていた。

我雷法師が前日まで元気であったことと、死の際に誰にも看取られていなかったことで、その死に何らかの作為がなかったか慎重な検分が行われた。
つまり、そのくらい我雷の死は唐突で、翼たちを驚愕させ、戸惑わせたものだった。

遺体の状態や普段の言動に違和感や異変がなかったか、最後に我雷に接触した者は誰か、その後に接触があったような痕跡はないか…
ありとあらゆる角度からの実証検分を終え、何の事件性もないことが証明されたのは我雷の死から2日後のことだった。
その結果が出るのを待ってから大々的に我雷法師の死が里の内外に公表されると、我雷法師に最後のお別れをと多くの人々が弔問に訪れた。
我雷の遺体が安置された社の前には長い列ができ、まるで寝ているかのような安らかな表情の我雷に手を合わせ、思い思いの気持ちを心の中で訴えかけた。

その陰で、ある話し合いの場が持たれていた。
里の中でも発言力のある魔戒法師たちが集まり、そこに魔戒騎士としてはひとり、山刀翼も混ざっていた。
その話し合いの議題は、もちろん、我雷法師の弔いに関することであったが、その件についてはこれまでの慣例にのっとることで早々に意見がまとまっていて問題はなかった。
だが、ここにもうひとつ。速やかに結論付けなければいけないことがあった。
それは…… 我雷法師の後継についてのことだった。

「儂(わし)は、やはり、年長の法師を選ぶべきだと思う」

しゃがれた声で声高に言い切る法師もいれば、

「年齢だけで決めるものでもなかろう?
 実力の伴わない者であっては、有事の際に困ることになろう」

と穏やかに意見する者もいた。

「いやいや、いくら力があっても人格者でなくては…
 里の者がこの人ならば、と思う者でないと、先行きが不安じゃろうて」

と前のめりになって主張する者も…。

あいつはどうだ、こいつはどうだといろいろな意見が出るには出たが、なかなか決定には至らず、これまで里をまとめてきた我雷の功績のすごさをしみじみと思わされる一同であった。
いよいよ議論も行き詰ってきて、なんとはなしに皆の視線が翼に集まった。

翼は閑岱を守護する魔戒騎士である。
だが、閑岱は魔戒法師の里。その里の長を決めるのに、魔戒騎士である自分の意見を気安く主張するつもりはなかった。

(魔戒法師のことは魔戒法師で決めればよい)

冷ややかにそう思いながら、このいつ終わるともしれない議論の場に身を置いていた。
けれども、今、この場にいる多くの魔戒法師の視線を受け、翼は心の中で溜息をつきながらも口を開いた。

「イサカ殿。あなたはまだ何も言っていないが、何か思うところはないのか?」

そう言って、ある魔戒法師を見つめた。
すると、魔戒法師たちは、おお、イサカがいたか、と一斉にそちらに期待の目を向ける。

イサカは、初老の魔戒法師だ。
大柄でたくましい身体を持っていたが、思慮深く落ち着いた雰囲気の男だ。
これまでのホラーとの闘いで右目を負傷していて視力が極端に低くなっていたため、かなり早くに闘いの前線からは退いていたが、視力のハンデを補うべく里にある書物という書物を片っ端から読むことで ’知識’ という点では誰にも劣らないことは自他ともに認めるところだった。

全員の視線が集められたイサカは、それでも落ち着いた声で答えた。

「俺の意見か?」

うんうん、と何人もの魔戒法師がうなずく。

「そうだな…」

イサカは腕を組んで思案顔になりながら、逆に皆に問いかけた。

「やはり、魔戒法師としての実力は必要だろう?」

「そうじゃろうな」

魔道具を作らせたら誰がすごい、とか、技は誰がすごい、とか。

「体術で言えば、邪美が抜きんでているのではないか?」

イサカが口にすると、一瞬、その場がしんとした。
邪美の名前は、これまで誰も口にしなかったのだ。
いや、故意に口にされなかったのではないかと思われるほど、不自然に避けられている感があった。
そんな気まずい雰囲気の中、イサカは話題を変えるように

「だが、実力だけでは駄目だろうな。
 今出た名前の中で、指導者として優れている者は誰だろう?」

と、話を振った。
すると、誰それはひとりよがりなところがある、とか、あいつは気が弱い、とか、実力者として名の上がった法師たちの中から次々と駄目出しが出た。
そのやりとりを聞いていたイサカが、意見も出切った頃を見定めつつ

「ということは、いまのところ残っているのは…」

とイサカが3名の名を挙げた。
その中には、邪美の名前もあった。
けれども、

「いや、じゃが、邪美は閑岱の出ではないぞ」

「魔戒法師の家の出でもないと聞いたことがあるな」

という声が上がる。

「そうじゃな。できれば、この地の者のほうが反発は少なかろうな」

追随するように年嵩(としかさ)の別の法師もそう言った。
それを聞きながら、翼はほんの少し顔をしかめた。

「なるほど…」

イサカはうなずいた。
それを見て、翼はさらに気分が悪くなる。

数年前の翼なら、そんなふうにはならなかっただろう。
生まれとか、血筋とかそういうものは大事だと思っていた。
というか、そういうことがあるからこそ、責任を意識するのだし、努力ができるのだと思うのだ。
そういうヤツこそ信頼できるのだと。

だが、邪美によって翼の見解には変化がもたらされていた。

レギュレイスの毒に侵された鈴を救ったのは、兄である自分ではなく、縁もゆかりもない邪美だった。
閑岱の、いや、人界の危機に際してレギュレイスに立ち向かった魔戒法師は、里の法師ではなく、邪美だった。

邪美が持つのは強さだけではない。
優しさとしなやかさ。
身体的な強さではないのだ。心が折れない強さを持っている。
そんな彼女に、翼は素直に敬意を払いたい。



「では、邪美を除いた2名のうちのどちらか… ということでよいか?

イサカがそう言った声に、自分の考えに落ちていた翼はハッとした。



to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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