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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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やるせない夜

MAKAISENKI のどこまでを妄想したんでしたっけ?
しばらく、自由気ままに妄想していたら、忘れました… (苦笑)

あぁ、第11話「咆哮」 が終わって、 第13話「仙水」 が終わって、って
とこですね。

このまま MAKAISENKI を離れて奔放に流れていってもよかったの
ですが、いろいろな作家様、読み手様の影響を受けまして、今の
タイミングでしかできなかった妄想がひとつ生まれました。

少し戻ってしまいますが、第12話「果実」の後を妄想しています。
よろしければご覧くださいませ。




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

  俺… ずいぶんいろんなものを失くしたけど、
    人の情(じょう)まで、失くしたわけじゃないんだよね…

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

その夜、零はミサオの母を斬った。

いや、正確には、母親に憑依したホラー、ヤシャウルを、だ。
だが、ミサオにとっては、中身がどんなに醜いホラーであったとしても、
器は母親そのものなわけで、母親の姿を跡形もなく消し去ることは、
高校生の彼女にとって耐えがたいことに違いなかった。

それでも…
斬ることで、禍々(まがまが)しい陰我から母親を解放することが、
魔戒騎士である零の使命であり、どんなに辛くてもミサオはそれを乗り越えて
いかなければならない、と零は考えていた。



零がヤシャウルを倒し、ほんの一瞬、人としての意識を取り戻した母親は、
最後の瞬間に愛しい娘の名を呼んで逝った。

「… ミサ… オ…」



母親の残した赤い石のペンダントをミサオに渡す。
それを握りしめて嘆き悲しむミサオの姿に、黄金騎士と並び評される零と
言えども、心穏やかでいられるわけがなかった。

「アタシハ アナタヲ イッショウ ユルサナイ」

感情の赴くままにミサオが零に浴びせた尖(とが)った言葉に、傷つかない
わけがなかった。



『ゼロ… 辛かったわね』

ささくれた気持ちをそっと撫でてくれるような、優しい、そして哀しげな
シルヴァの声がすこしだけ零を慰めた。
だが、零は魔戒騎士としての答えを返した。

「そんなことないよ…
 あの子の笑顔を守れたからね」

零を見守るシルヴァは、母であり、姉であり、時には恋人のようでもあった。
だが、そんな親しい間柄であるからこそ、バリアを張って晒したくないもの
だってあるのだ。
仕事のパートナーであるが故に、無意識のうちに、一線は画(かく)して
いたかった。

魔戒騎士を導くこの魔導具がいなければ、零は感情を剥き出しにして、
激情の波に溺れていただろう。
これまでに魔戒騎士としての使命を全(まっと)うする過程の中で、幾度となく
ぶつけようのない怒り、悲しみ、そしてやるせない想いを味わってきた。

零にとっては、今宵もそんな夜のひとつであった。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

疲れた身体をひきずって、誰も待つことのない家に帰りつく。
火の気のない真っ暗な家だが、それでも零にとっては安らぎの場所だ。
玄関へと進めた足がピタリと止まり、零の身体に僅かに緊張が走るのと、
シルヴァが 「ゼロっ」 と短く名前を呼ぶのとが重なった。

だが、それも一瞬のこと。
すぐに、零は愛刀の柄(つか)にかけていた手を離した。

「…脅かすなよ…」

そう言うと、人懐っこい笑みを浮かべた。
真っ暗な玄関脇からゆらりと人影が現れ、零に声を掛けてきた。

「仕事は終わったのか?」

零は、その人影に近づきながら声をかけた。

「あぁ、たった今な…

 ところで、今日はどうしたんだ?」

家の鍵を取り出し、鍵を開ける零を眺めながら、その白いコートの人影は
答えた。

「特に用があるわけじゃない。
 近くに来たから寄った… それだけだ。
 長居はしないから安心しろ」

「おいおい、水臭いなぁ~
 仕事は終わったとこだし、ゆっくりしていけよ」

零はドアを開けて、彼に中へ入るように促すと、先に家に入る友の後ろ姿を
眺めながら、フっと笑った。

(今晩はひとりで過ごさなくいい… ってことか)

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

通された部屋で鋼牙がしばらく待っていると、すぐに、左手に何本かの酒瓶、
右手にはグラスを2個持った零が姿を現した。

「仕事が終わった祝杯だ」

『ゼロ…』

明るい笑顔を見せる零とは対照的に、沈痛なシルヴァの声が後を追う。
そんなシルヴァをさらりと無視し、零は鋼牙にグラスを渡した。

「…」

鋼牙は何も言わずにそれを受け取る。

当たり障りのない話を肴に、それぞれが思い思いのペースで酒をあおっていく。
次にシルヴァの口が開いたのは、何気なく言った鋼牙の言葉に、零の笑いが
止まらなくなったときだった。

『ゼロ、ちょっとペースが早いんじゃない?』

鋼牙に遠慮してか、小声で零に忠告する。

「なに言ってんのぉ 鋼牙が訪ねてきてんだよ?
 今晩くらい飲ませてよ…」

表情も変わらず、呂律(ろれつ)も問題ないように見えた零だったが、
いつも以上に快活な笑顔を見せ、上機嫌に話し、酒を飲む零は、やはり、
どこかいつもとは違い、少しおかしかった。

「シルヴァ」

零を気遣うシルヴァに、鋼牙はそっと声をかけた。

「零のことは気にせず、もう休め…」

『でも…』

シルヴァが納得のいかない調子で言葉を濁す。

「だ~いじょうぶだって、シルヴァ…
 安心してお休み」

零が穏やかな笑みで促した。

『…そう …わかったわ。
 ゼロ、あまり飲み過ぎないのよ?

 それじゃ、おやすみなさい…』

「あぁ、おやすみ…」

シルヴァの気配がぷつりと消えたとき、零の表情から笑顔が消え、小さく
溜め息をついた。
だが、それもわずかな間のことで、すぐに、自分を鼓舞するように明るい
調子で言った。

「な~んか腹が減ってきたなぁ
 食えそうなものがないか、俺、見てくるわ」

そう言いながら立ち上がり、鋼牙の脇を抜け、部屋から出ていこうとしたとき、
いきなり零の腕を掴んだ鋼牙が、ぐいっと引っ張った。
虚を突かれた零はふらつき、鋼牙にぶつかりそうになりながら膝をつく格好に
なった。

「なんだよ、危ないだろぉ?」

驚いた零がなじるように言いながら、鋼牙を少し睨んだが、鋼牙の手は
零を放さなかった。

「ちょっ… なんだよぉ…」

「いいからそこに座って、これでも飲んでろ」

それだけ言うと、鋼牙は零に水のボトルを押しつけた。
そして、零の存在など忘れたように、素知らぬ顔でグラスを傾けた。

「…」

何も言わないが、鋼牙が零を気遣ってくれていることだけは零に伝わった。

零は、その場にどっかと腰を下ろすと、鋼牙に背を向けた。
そして、言われたままに、鋼牙から受け取った水に口をつけた。

ボトルをぐいっと傾けたとき、後頭部が鋼牙の肩にコツンとぶつかった。
ぬるくなった水が、零の乾いた身体をわずかに潤した。

「…まずい…」

一言だけそう呟くと、そのまま背中を鋼牙に預けた。
零の身体が重くのしかかっているはずだが、鋼牙は何も言わず、
変わらないペースで飲み続けた。

背中を通して、わずかではあるが、鋼牙の体温が伝わってくる。
冷たくもなく、温かくもなく…
そのくらいの温度が、今の零にはちょうど心地よかった。

「…悪い、鋼牙…  しばらく… 背中… 借り…」

鋼牙を頼るような弱い自分を見せたくなかったが、やるせない夜をひとりで
過ごすはずだった零に、鋼牙の存在はありがたかった。

(明日になれば、また闘えるから…)

誰にともなく言い訳するように思いながら、零は眠りに落ちた。



零が眠った後、先に休んだはずのシルヴァが、鋼牙に声をかけてきた。

『鋼牙…
 あなたのおかげで、今晩、ゼロは悪い夢を見なくて済みそうだわ。

 ありがと…』

鋼牙は空(から)になったグラスを静かに置いた。

「俺は何もしちゃいない。

 ただ、酒を飲んでいただけだ…」

素っ気ない内容だったが、鋼牙の声は子守唄のようにどこまでも優しかった。
シルヴァはフッと笑いを漏らして、それきり黙った。

しんと静まった部屋には、わずかに笑みを浮かべた零の、規則正しい
息遣いだけが聞こえていた。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


駆け足な感じが否めませんが、なんとか書き切りました。
selfish にしては、ちょっと長めな妄想ですが、お付き合いいただき、
ありがとうございました。

いきなり、鋼牙さんが出てきましたが、第11話「咆哮」の後を妄想した
「ふ・た・り」 というのを覚えてますか?
あの妄想では、カオルちゃんとゴンザさんを残して、鋼牙さんがひとりで
先に北の管轄へと帰っていくのですが、実は、まっすぐに帰ったのではなく、
せっかく東の管轄に来たのだからと、零に会いに行っていたかもね… と
いうことにしてみたのです。
うまくつながったでしょうか?

原作では、零くんはシルヴァに 「お前がいればいい」 って言いますけど、
人肌が恋しいときもあるだろう… と思って生まれた妄想です。

まぁ、その人肌の相手が鋼牙っていうのは、若干、問題(!)なんでしょうが、
その辺はキワどく書いてないつもりなので、深読みしませんように。 (笑)


[2013/04/01 追記]
この作品は、勝手ながら「まる様」に捧げます。

実は、以前から好きだった「まる様」の作品を、「心太様」が入手して送って
くださったのです。
そして、その作品から、妄想を膨らませたものがこの作品になります。
「まる様」の作品とは毛色が違いますが、最後のページの「眠る零」の
イラストでときめいてしまいました。

「まる様」には、捧げちゃうことの許可を取っております。
「まる様」お許しいただき、ありがとうございます!

そして、「まる様」の作品をお土産にくれた「心太様」に感謝、感謝です!


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無題
こうばんは、前回のお話のお礼を書き終わりパソコンを切ろうとしたところやるせない夜が目に入り早速、愛読させていただきました、零君のやるせない気持ちと鋼牙の何も聞かない、追求しない、ああいい感じ二人の姿しぐさが浮かんぜ来ます.鋼牙の優しさ、いいですね零君のやるせない気持ちも切ない男の友情、信頼いいですね、ああいいお話を感謝。
かなまま 2013/01/10(Thu)23:34:45 編集
Re:無題
パソコン切ろうとしたときにタイミング悪く、「やるせない夜」を公開してしまってすみません。
寝るのはちょっと待って! って引き留めちゃいましたか?
(表向きは謝っていますが、内心は、「寝かせやしないゼ!」 と、ずるくニヤついてます!)

かなまま様のように 「男の友情」 で読んでいただけると、ビターな感じに浸っていただけるかと思います。
無口で少し不器用な鋼牙さんが selfish は好きなんです。

でも、実際には…
書いている側としては、別の路線(?)に行ってしまいそうで、必死に抵抗していたんですけどね。 (苦笑)
【2013/01/11 08:46】
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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