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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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誰も知らない(2)

珍しいことに邪美姐さんがピンチです。
いやん、大変! 翼ぁ~、早く助けに行ってあげて~! (ニヤニヤ)


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一方、梵天の谷では、邪美が荒い息遣いをして青く晴れた空を見上げていた。

(我雷法師のもとに、無事に届いただろうか…)



ここ、梵天の谷は一年の半分は雨が降り続き、半分は全くと言っていいほど雨が降らずカラッカラに乾燥した土地となる場所だった。
そのため、過酷とも言えるこの環境の中で、植物たちは独自の進化を遂げていた。

中には薬としても珍重されるものもあり、閑岱の魔戒法師たちもそういった植物の採取に度々訪れる場所であった。
もちろん「有用」なものばかりではなく、「有毒」なものもないわけではない。
その代表ともいえるものがコクリュウダケだった。
邪美もコクリュウダケのことは十分承知していたし、もし見つけたとしても、採取はおろか、近づくことさえ避けただろう。

ところがだ。
今日の邪美は運が悪かった。

我雷法師からの用事を無事に済ませた邪美は、梵天の森の中の小道を閑岱に向けて歩いていた。
十分明るいうちに閑岱の里に帰れる予定だったので、特に急いでいるというわけではなく、日の光や風の匂いを楽しみながら、ゆったりと足を進めていた。
が、もちろん、そうは言っても決して油断しているわけではない。

ちょうど雨季から乾季へと移り変わる時期で、この日、昼過ぎの太陽は容赦なく照り付けていた。
その強い日差しを避け、雑木の葉陰を選びながら邪美が歩いていると、突然左手の茂みのほうから音がした。

  ガサガサッ

「!」

邪美は、右手後方に飛びずさり、筆を取り出し、茂みに向かって身構えた。
だが、茂みから飛び出してきたのは、1羽の鳥… どうやらヤマドリの一種のようだ。
美しい長い尾を振りながら、邪美が見ている前を速足で横切っていった。
ホッとした邪美は筆をしまい、ヤマドリが反対側の茂みの中に消えていくのを目で追った。

(まったく、驚かせないでおくれよ…

 でもまぁ、あの鳥にしてみたら、あたしに驚かされたのかもしれないね)

フッと笑った邪美は、再び歩き出そうとした。
ところが、その足はピタリと止まった。
次の瞬間、邪美は苦しげな表情を浮かべて胸を押さえて膝をついた。
喉にヒリヒリとした痛みがあり、肺がうまく空気を吸ってくれない。

慌てて周囲の様子をうかがうと、茂みの影にコクリュウダケの姿を見た。
黒い傘から黄色い煙のようなものが立ち上っている。

(…クッ…  コクリュウダケの胞子か…)

どうやら、ヤマドリが茂みを揺らしたために、コクリュウダケが傘の下に大量に溜めこんでいた胞子を飛ばしたらしく、たまたまそこに居合わせた邪美がそれを吸い込んでしまったらしかった。

そうと判れば邪美の取る行動は素早かった。
懐から漆塗りの小さな手鏡のようなものを取りだして蓋を開けると、中からカゲロウの羽のように虹色に光る薄い丸い形の紙のようなものを一枚取り出した。
よく見るとそれには魔戒文字の呪文のようなものがびっしりと書かれている。
邪美は躊躇なくそれを舌の上に乗せると、竹の水筒を取り出し、水をがぶ飲みした。
呼吸がうまくできないため、水もうまく喉を通らない。
飲み込みきれない水が、口の端から溢れ、首筋を伝い、胸元まで濡らした。

なんとか苦労してそれを飲み込むと、喉が焼けるように熱くなったが、ほんの少しだけ呼吸が楽になった。
はぁはぁと大きく息をしながら、邪美は着衣の胸元をガバッと開けた。
こぼれた水できらきらと濡れている白い肌が光の元に晒される。
その肌をよく見てみると、白い肌の上に黒い煙のようなものがモヤモヤと渦を巻き、喉のほうにゆらゆらと伸びているではないか。
見方を変えると、それはまるで、苦しみのたうち回っている蛇の姿のようにも見える。

だが、先程飲み込んだものが功を奏したのか、その渦はだんだん小さく薄くなっているようだった。
とはいえ、それでも完全には消えそうにはなかった。

それならば、と邪美は次の行動に移った。
今度は赤い札と筆を取り出し、気を静めるように邪美は目を一度閉じた。
そして、静かに目を開けると、筆でその札を一撫でした。
筆先がぼぉっと薄く緑色に光るのを見つめてから、その光る筆先を、自分の唇に当てがった。
そしてそこから下のほうへ辿り、顎へ… そして喉を通り過ぎ、胸のほうまでゆっくりと降ろしていく。

すると、今度は劇的に変化が見えた。
黒い渦はどんどん小さくなり、やがて胸の中央に集まったかと思うと、フッと消えた。

「ふぅ…」

安堵の吐息が邪美から漏れた。
どうやらこれで一安心… だが、邪美は冷静に考えた。
このままここに留まっていたのでは、また胞子を吸い込んでしまい、元の木阿弥となってしまう。
邪美は弱った身体を引きずるようにして、安全な場所へと移動することにした。

数百メートル歩いただけなのに、息切れがする。
それでも、なんとか、少し開けた見通しのいい場所までやってくると、1本の大木の作る木陰に腰を降ろした。
一息ついてから、我雷法師に助けを頼む伝令を飛ばす。
金色の小さな光がキラキラと閑岱の方へと飛んで行った。

それが見えなくなるまで見送ると、その後、邪美は目を開けているのも億劫な状態だった。
呼吸は楽になったが、身体全体がなんとなくぽぉっと熱い。
邪美は大木によしかかると、そのまま目と閉じ、眠りについた。




「…び… おい… 邪美っ… しっかりしろっ!」

誰かの呼ぶ声が上のほうから降ってきて、邪美の意識は急速に覚醒した。

「ん?」

ぼんやりと瞼を開けると、そこに心配そうな翼の顔が見えた。

「大丈夫か、邪美?」

「あぁ… 翼… あんたが来てくれたんだね…」

弱々しい声でそう言った邪美は、安心したように再び目を閉じた。

「邪美、今からおまえを ’玻璃の湖’ に連れて行く。
 少し揺れるが我慢しろ」

そう言った翼は返事もできずにぐったりしている邪美の身体を抱き上げた。

(熱い!
 待っていろ、邪美。すぐに楽にしてやるからな!)

腕の中で眠る邪美に心の中で語り掛けると、できるだけ揺らさぬように気をつけながら、 翼は目的地を目がけて駆けだした。



to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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