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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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誰も知らない(3)

翼が邪美をお姫様抱っこ!
女性を抱きかかえながら走るなんて、実際にはかなり大変なことでしょうが、妄想だったらなんでもできるね!
この調子でどんどん妄想するぞ~♪

拍手[19回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

そこは、とても美しい場所だった。


鏡のように銀色に冷たく光る湖を目の前にして、翼は弾む息を整えた。

(ここが ’玻璃の湖’ か…)

ここに来るのは初めてだった。
湖のそばまで近づき、邪美をそっと降ろすと、肩からたすき掛けにしていた荷物も降ろした。
それには、食事や着替えなど我雷が用意した様々なものが入っていた。
一息ついた翼は、眉間に深いシワを作りながら考えた。

(さて、どうするか…)



玻璃の湖は、特別、清浄な場所だった。
湖の水は、毒素を綺麗に洗い流すことができたのだ。
残念ながら病気などには効果がなかったが、この湖の水は不純物をほとんど含まないため、この水を使って作られた薬は「よく効く」といって重宝がられていた。
だから、魔戒法師たちはこの湖をとても大事にしていて、不浄なものが入り込まないように、普段は強力な結界が張られていて誰でもが近づける場所ではなかった。

だが、今回、翼はこの湖に近づくことに何の障害も感じられなかった。
恐らく、それは我雷の計らいであり、翼たちが湖にたどりつけるように結界を解いておいてくれたのだろう。
そして、翼たちが湖に着いたと同時に、再び強い結界が張られているものと思われた。

(そう言えば、我雷法師が言っていたな…)

翼はその言葉を思い出した。

「邪美はすぐに解毒したようじゃが、恐らくすべての毒を排出するのは難しかったじゃろうて。
 きっと、まだ呼吸が苦しいかもしれん。
 それに、毒のせいで熱が出とるやもしれん。

 邪美を楽にさせるには、玻璃の湖の水を飲ませるか、あるいは身体を湖に浸(ひた)すがよかろうて」

今、目の前にはぐったりとした邪美が横たわっている。
そっと額に手を当ててみると、やはり熱がかなりあるようだ。

「…」

翼は決断した。
まずは、手早くコートを脱ぎ、靴を脱ぎ、上半身を覆う魔法衣も脱ぎ去った。
そして、

「邪美… 許せ」

と小さく声をかけて、邪美の足元に膝まずいた。
そして、邪美の靴を脱がせ始めたのだった。




(…ん?
 気持ちいい…)

邪美はぼんやりした頭でそう思っていた。
熱で火照った身体が、なんとも心地よい冷たさに包まれたのを感じていた。

少しずつ意識を取り戻し、状況が判り始めた。
どうやら自分は腰の辺りまで水に浸(ひた)るようにして、湖のような場所の水際に座らされているようだった。
ぼんやりとした視界の先に、自分の裸足の足が水の中でゆらゆらと白く見えている。
身体のどこにも力の入らない邪美の身体を、誰かの力強い腕が支えているのがわかった。
そして、その腕の主(ぬし)は、邪美の剥き出しになっている肩に、空いているもう片方の手で水をすくってはかけていた。
ゆるゆるとその人物の顔を見上げる。



「つ…ばさ…」

掠れる声で問いかけると、翼が邪美に顔を向けた。
翼は少し表情を緩ませ、

「大丈夫か?」

と優しい声で問いかけた。

「あぁ…」

邪美は反射的にそう答えてから、 ゆっくりと首を回して辺りの景色を眺めた。

「ここは… どこなんだい?」

けだるそうに翼に視線を戻した邪美は、いつにも増して色っぽく見える。
翼は少しぎこちなく邪美から視線を外すと、小さなさざなみを立てている湖面を眺めた。

「玻璃の湖だ。
 我雷法師がおまえをここに連れてくように、と言われてな」

「玻璃の湖? ここが…」

邪美もまた翼と同じで、玻璃の湖には来るのは初めてだった。
しばらく興味深そうに周囲の様子を眺めていた邪美だったが、急に翼と自分の置かれた状況に気がつくと、少し動揺した。
翼は上半身裸だった。
闘いの中で鍛え上げられた身体は無駄がなく引き締まり、美しかった。
そして、邪美のほうも、いつの間にか魔法衣を脱がされていて、黒いキャミソール姿になっていた。
つまり、ふたりともかなり裸に近い恰好になっており、しかも翼は邪美を支えるためにぴったりと身体をくっつけているのだった。

こんなに無防備に翼に身体を預けたことなどなかったので、邪美は気恥ずかしくなった。
熱のためにかなり重たく感じる身体をねじるようにして、なんとか翼から少しでも離れようと、両腕を踏ん張ってみた。
だが、冷たい湖の水に浸(つ)かっていたことで感覚が鈍くなっていたこともあるのだろう。
邪美は身体の自由が利かずに、ガクンと前に倒れそうになる。

「どうした、邪美? 寒くなったのか?」

「そ、そうじゃないよ。
 そうじゃないんだけど… ほら、あんまり寄りかかると重いだろ? だから…」

口ではそう言うものの、今の邪美は翼の支えがなければ座っていることすら難しかった。

「そんなことは気にしなくていい。
 今のおまえは、いつものおまえじゃないんだから…

 それより胸はどうだ? 苦しくないか?
 少し湖の水を飲んでおくか? その方が少し楽になるかもしれん」

そう言って、チラリと胸のほうに視線を移した翼に、邪美は胸がドキドキするのを感じて、思わず手で胸元を覆った。

「あ、あぁ、大丈夫だよ。
 もうずいぶん楽になった」

少しぶっきらぼうにそう言った邪美の顔が赤くなる。

「ん? また熱がぶり返したか? 少し下がったと思ったんだがな…

 我雷法師が言うには、今夜一晩は微熱が続くらしい。
 たまに湖の水に浸かるか、あるいは湖の水を飲むかすると、楽になるんだそうだ。

 だが、そろそろ身体も冷えてきたことだろうから、ここを出て、小屋で休んだほうがいいな」

そう言うと、翼は邪美の膝の裏に手を差し込み、抱きかかえようとした。

「いいよ、自分で歩けるから」

そういう邪美に、

「そうか?」

と納得していないながらも翼は答えた。
邪美はふらつきながらなんとか立ち上がろうと試みる。
だが、やはり、翼の支えなしでは立っていることさえも困難だった。

「…」

邪美の状態をじっと見守っていた翼だったが、ふいに何も言わずに邪美を抱え上げた。

「あっ」

邪美は思わず小さく声を上げたが、翼のほうはそれには構わず、邪美を抱えたままザブザブと湖からあがった。
そして、そのまま岸から10数メートルほど離れたところに建っている小屋へと向かう。
邪美は「自分で歩けたのに…」と抵抗しようかとも思ったが、結局黙ったまま、翼の腕の中で揺られることにした。



to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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