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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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足りないものは…(3)

うひゃあ、鋼牙さんがピンチ!?
足りないものって、鋼牙さんの血なの? そうなの?

…というところで、今宵の妄想です。
お楽しみあれ。

拍手[9回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

冴島邸は静まり返っていた。
ほんの1~2時間前まではレオと夕食を囲み、楽しい笑い声も響いていたというのに、酸素濃度まで下がってしまったかのように重く息苦しい雰囲気に包まれている。

不安で何も手に着かないカオルは、ソファに浅く座り、祈るように手を組んで俯いたまま微動だにしない。



「…出血が多い …すぐに来てくれ」

そんなザルバからの言葉に慌てて屋敷を飛び出していったレオからは、まだ何も連絡はない。
それがよいことなのか悪いことなのか判断がつかないまま、苛立たしいほどにゆっくりと時が過ぎてゆく。
そのことで、鋼牙が大怪我を負ったのではないか、ひょっとしたら命までも危ういのでは、と最悪の事態に考えが至ってしまうことは避けられず、震えそうになる自分の身体をカオルは両腕で抱きしめた。

そんなカオルを見守っているゴンザも、沈痛な表情で静かに溜息をついた。



ひどく歩みが遅く感じた時間もいつしか流れ、気づけば日付が変わっていた。

「カオル様。
 何かあればお知らせいたしますので、お部屋で休まれてはどうでしょう?
 そう気を張っていては、お身体に障(さわ)ります…」

心配そうに眉をひそめてゴンザがカオルにそっと声を掛けた。

「ゴンザさん…」

弱々しいまなざしをゴンザに向けたカオルは、すぐにふるふると首を横に振った。

「もう少しこのまま待っていたいの。
 きっともうじき鋼牙は帰ってくると思うから… きっと…」

やや視線を下げて噛みしめるように言葉を吐くカオルは、そう言うことで自分に言い聞かせているように見えた。

  フッ

ゴンザは表情を緩めると、そのまま穏やかに微笑んだ。
そして、少し明るい声でカオルに尋ねた。

「それでは、何か温かいお飲み物でもお持ちいたしましょうか?
 身体が温まれば、少しは気分も軽くなるでしょうから」

カオルは顔をあげてゴンザを見ると、少々ぎこちなくはあったが、笑顔を作ってみせた。

「そうだね。お願いします…」

「はい」



程なくして、ゴンザがココアを用意してくれた。
縁(ふち)の厚めのカップを両手で持ち、ふぅふぅと息を吹きかけてからそっと口をつける。

「おいしい…」

ゴンザを見上げたカオルはにっこりと笑い、ゴンザもそれに応えるように相好を崩す。

「それはようございました。
 隠し味のおかげですかな?」

「隠し味?」

「はい」

それ以上何も言わないゴンザに、カオルは目だけで、それは何? と尋ねた。
すると、ゴンザはフフフと笑ってから、内緒話でもするように口元に手を添えて声を潜めた。

「…塩です」

「塩?」

目を見開き、カオルが瞬きを繰り返す。

「ほんのひとつまみ塩を入れました」

「へぇ~」

信じられないような顔をして、カオルはまた一口ココアを口にする。

「う~ん、お塩の味、わからない。
 でも、おいし~い」

そんな会話をしながらココアを飲んでいる間、ほっこりと身も心も温まって、ゴンザの言うように気分が少し軽くなったのをカオルは感じていた。



美味しいココアとゴンザの心遣いに癒されながら、最後の一口を飲み干そうかというところで、どこから飛んできたのか、一枚の羽根がひらりひらりと舞い降りてきた。
カオルは慌ててカップを置くと、その羽を受けるように手のひらを前に出した。
  ふわり

とカオルの手に乗るかのように見えた羽だったが、まさに手に触れるか触れないかのところで羽が光に包まれ、噴き上げるように白銀の光を放つ文字が中空に浮かび上がった。

「ひゃあ」

びっくりしたカオルが声をあげるが、ゴンザは険しい顔でカオルのそばに駆け寄り、その浮かび上がった文字に目を走らせる。

「ゴンザさん、これ…」

「レオ様からの知らせです」

(やっぱり…)

「で、なんて書いてあるの?
 ゴンザさん、読める?」

心配そうに尋ねるカオルに、ゴンザは文字から目をそらさずに大きくうなずく。
「ええ、なんとか…
 詳しいことはわかりませんが、書いてあることは2つ…」

読み違えないよう、ゴンザは何度か文字を追ってから口を開いた。

「鋼牙様は無事ということ。
 そして、帰りは明日の未明になるということです」

それを聞いてカオルは力んでいた身体から力が抜けた。

「よかった… 無事なんだね、鋼牙…」

「はい。
 安心して休んでください、と最後に書いてあります」

「そっか… ほんと、よかった…」

そう言うと、カオルから笑顔がこぼれ、それを合図にしたかのように、中空にあった文字がさらさらと空気中に溶けるように消えていった。
それを目で追いながら、

「安心しました。
 本当にようございました…」

と呟くゴンザに、カオルはうんうんとうなずいていた。



カオルはまどろみの中にいた。
けれども、何やら会話する音や近づいてくる足音に意識が浮上し、閉じていた瞼をぼんやりと開けた。

(あれっ?)

自分が今いる場所が冴島邸のリビングで、分厚い上質な毛布に包まれていることに気づいて昨晩の記憶を手繰り寄せる。

(レオくんとお夕食食べて、鋼牙からの呼び出しにレオくん、慌てて出てったんだよね… 鋼牙!)

はっとしたカオルが慌てて毛布をはねのけて起き上がると、それと同時にリビングのドアが開けられて、入ってきた人物とばっちり目があった。

「鋼牙!」

カオルはソファから飛び起きて、鋼牙のそばまで駆け寄ろうとした。
が、すぐにそれに気づくと、びくりと身体を強張らせて足を止めた。

カオルが目にしたのは、白いコートの裾に飛び散っていた血痕だった。


to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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