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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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足りないものは…(4)

鋼牙のご帰還。
一見すると無事そうで、でも、裾には血痕が!
ひょえ~、説明が足りませんね!

さてさて、今宵の妄想、スタートです。

拍手[11回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

ひどく疲れているような鋼牙が、カオルの姿を見て、ふっと穏やかな表情に変わる。

「カオル…」

固まっていたカオルが、鋼牙の優しい声にハッとして、心配げな顔で彼を見上げた。
鋼牙はゆっくりとカオルに近づき、そっと彼女の頬に手を伸ばす。
触れた手はところどころ固くて決して触り心地のいいものではないが、とても温かくて、そのことがまた、鋼牙が無事に帰ってきたことを実感させてカオルの心を震わせる。
その鋼牙の手を、自(みずか)らの手で押さえつけ、頬を摺り寄せる。

「よかった… 無事で…」

大きな吐息とともに、心の声が小さく漏れた。
その声を拾った鋼牙は、瞬時、切ない表情を見せたが、すぐに愛おしそうにカオルを見つめ、

「大丈夫だ」

と声をかけた。
すると、その後を追いかけるようにザルバの声がする。

『安心しろ、カオル。
 怪我をしたのは、鋼牙とともに闘ったもうひとりの魔戒騎士のほうだ』

「えっ?」

『大腿部… つまり、太ももをだな、ホラーの爪でざっくりとえぐられちまって。
 ドクドクと血が出て、止まらない、止まらな…』

「ザルバっ」

かなり痛々しい怪我の状況を事細かに説明しようとするザルバを鋼牙が制する。
そうされて初めてザルバも気づいたのか、

『なぁに、大丈夫。
 レオが来てくれて応急処置をしてくれたし、元老院に運び込んだから心配はないさ』

とフォローを言葉を口にする。

「ほんとに?」

やや顔を青ざめさせたカオルに

「ああ、最後までしっかり意識はあったし、レオの適切な処置もあったから問題ない」

と鋼牙は安心させるように力強く言った。

「それならいいんだけど…」

まだ少し不安の残っているようなカオルを鋼牙が穏やかに見つめる。
そのまなざしにほんの少し不安の消えたカオルも見つめ返していたが、カオルはすぐに、鋼牙の後ろに控えているゴンザの存在に気づいてしまった。
急に照れくささを感じて、鋼牙から少し距離を取り、視線をそらして俯いた。

すると、

  くすっ

と鋼牙が笑ったような声を頭上で聞いて、カオルは慌てて目線を上げるが、そのときにはすでに彼は身体を返して歩き出し、コートを脱ぎにかかっていた。
それを見たゴンザはその後ろを慌てて追いかけ、コートに手を伸ばしながら、

「お怪我がないようで何よりでした」

とほっとした口調で言った。

ところが。
その後すぐに鋼牙が、

  うっ

と小さく呻いて、動きを止めた。

「鋼牙様っ」

ゴンザが緊迫した声をあげて、すかさず鋼牙の全身に視線を巡らせる。
鋼牙は左の肩を庇うように身体を折っていた。

「お見せくださいっ」

有無を言わせぬ強い調子でゴンザが言い、鋼牙は素直にそれに従った。
鋼牙から受け取ったコートを、ゴンザがダイニングテーブルに投げるように置いている間に、鋼牙のほうはは着衣に手をかけて開いた。

鍛え上げられた美しい身体が現れた。

見せるために鍛えたのではない、使うために鍛え上げられたそれはほんとうに美しかった。
だが、ある1点を見て、ゴンザも、そして後ろからそっとのぞき込んでいたカオルも息を飲んでしまった。
鋼牙の左の胸から肩にかけての広範囲が、赤紫色に変色していた。

「…骨は折れてない。単なる打撲だ」

緊迫した中に、鋼牙の落ち着いた声が響く。
その声に、幾分ホッとしたようなゴンザ。

「そうですか…」

そうは言っても目は油断なく動かして、そっと手で触れたりなどして患部を観察した彼は、

「少し熱を持っているようですので、あまり、患部を暖めない方がよいかもしれません。本日はシャワーだけで済ませてください。
 あとで、冷却材をご用意しておきましょう」

と言った。

「ああ、頼む。
 …シャワーを浴びてくる」

そう言った鋼牙は、着衣を簡単に整えてバスルームへ向かうべく歩き出した。
が、すぐに、心配そうに見守っていたカオルに目をやると、ポンと頭に手を乗せる。

「大丈夫だ。心配するな」

そう言っておいて、すぐにリビングを出て行った。
その背を見送りながら、カオルは思う。

(心配するな、だなんて… 無理に決まってるじゃない)

と。





鋼牙は疲れを覚えていた。

自分の身体へのダメージはもちろん。
そのダメージを受けたことで自分の未熟さを確認させられたことへの精神的なダメージも負っていた。
そして、ともに闘った魔戒騎士が大怪我を負ったことへのダメージも。
彼が怪我をしたのは、当人の力不足や経験不足といったことが原因をして大きいことに間違いはないが、共に闘っていた仲間として、自分にもっとできることがあったのではないかという反省の念が、どうしたって湧かないわけにはいかなかった。

とはいえ、起きてしまったことを今更考えても仕方がない。
たが、「仕方がない」ということがまた、鋼牙の気分をさらに塞(ふさ)がせていた。

すっきりしないままバスルームを出て、リビングに戻る。
すると、ゴンザが薬箱を手に、

「鋼牙様、お疲れでございましょう。
 寝室のほうで手当てさせていただきますので、横になってお待ちください」

と言って来た。

「そうか…」

鋼牙はすぐにリビングを出て2階にある自室へと向かう。
そして、力尽きるようにベッドに身を投げ出す。

「っつ…」

痛む左肩に右手を置く。
シャツを通しても、そこに熱がたまっているのを感じる。
シャワーを浴びる際も、できるだけ熱い湯を左肩にかけなかったつもりだが、やはり血行がよくなったからか痛みが少し増した気がする。

「ふぅ…」

またひとつ。
無意識のうちに大きな溜息をついてしまっていた。
ぼんやりと天井の1点をじっと眺めながら、思考はまた、今日のホラーとの闘いに引き戻されようとしていた。

そこへ…

  コンコンコン

控えめなノックの音。

「いいぞ…」

疲れの滲んだ声のままに応えると、ドアを開けて入ってきた人物のほうに何の気なしに視線を動かせて、驚きのため、ほんの少し目を見開く。

「カオル…」

そこには、薬箱を手にしたカオルの姿があった。


to be continued(5へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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