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問われる覚悟(4)
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翼が去って静かなときが舞い戻ってきたが、邪美の胸中は、いろいろ去来するものがあってなかなか落ち着かなかった。
そのざわめきが完全に静まらないうちに社の戸の外に誰かが来た気配がして、邪美はハッと目を向けた。
すると、
「邪美法師… 黄花です。入りますね」
と声がかかったので、邪美は肩の力を抜いて
「ああ、どうした?」
と応じた。
がたがたと音を立てて開けられた戸口から黄花が中に入ると、その後ろからは満寿も姿を見せる。
「簡単なものしか用意できなかったんですが… これ、食べてください」
そう言う黄花の手には、握り飯と香の物、そして温かそうな湯気を上げる具沢山な味噌汁の乗った盆があった。
「わざわざすまないね。あんたたちはもう食べたのか?」
黄花と満寿を代わる代わる見ながら邪美が問うと、万寿が
「はい、いただきました」
と答えた。
黄花の手から盆を受け取りつつ、
「そうかい。それじゃあ、ありがたくいただくよ。
すまなかったね、手間取らせて。
ここは大丈夫だから、ゆっくり休んできな…」
とにっこり笑った。
すると、黄花と満寿は表情を固くして互いに顔を見合わせてうなずき合い、やや険しい顔つきで邪美を見た。
それを見て邪美は怪訝そうに眉をひそめて
「何かあったのかい?」
と尋ねた。
「邪美法師… これを…」
そう言って、満寿が何かを差し出した。手紙か何かのようだ。
表書きには
邪美へ
とある。
「…これは?」
うっすらと見覚えのあるその筆跡に、心が騒ぐ。
「さっき、黄花が邪美法師の食事の支度をしている間に、私は我雷法師の家の戸締りを見ておこうと思ったんです。
そのときに、我雷法師の文机がなんとなく目に留まって…
これは文机の抽斗(ひきだし)にありました」
そう言って満寿はさらに手を差し出すので、邪美はゆっくりと手を出し、それを受け取った。
我雷法師の人柄がそのまま表されたような、大らかで迷いのないのびのびとした文字。
そっと文字をなぞるように触れていると、満寿はさらに言葉を続けた。
「抽斗にあったのは、邪美法師宛だけではありませんでした。私宛のも、黄花のも…
翼さんや鈴、他にも何通か入ってました」
それを聞いて、邪美は目を見開き、書簡に落としていた顔を上げて満寿を見る。
満寿の目は潤んでいて、唇を噛みしめていた。
見つめ合う邪美と満寿の横から、黄花が声を絞り出す。
「我雷法師が亡くなったのは私たちにとっては急なことでしたが…
…我雷法師にとっては違ったのかもしれません。
最後まであの方は、私たちにご自分の寿命を気取らせなかった。そんな気が…」
そこまで言うと黄花はくっと顔を伏せ、満寿はそんな彼女の背を優しく撫でた。
邪美はふたりから目をそらし、振り向いて我雷法師を見た。
(あなたという人は…)
こみ上げるものを押し殺しながら、邪美はふたりに言った。
「黄花、満寿。もう休んでおくれ。
しっかり休んで、そして… 我雷法師のことをきっちり見送ろうじゃないか? な?」
ふたりは顔を上げ、潤む目で邪美の背を見つめた。
そして、
「…はい」
と震える声で返事をすると、社を出て行った。
ろうそくの炎の揺らぎ。
味噌汁から立ち昇る湯気。
それ以外は何一つ動きのない状態がしばらく続いた。
が、やがて、カサコソと紙の音が聞こえてくる。
我雷法師の枕元で、邪美は彼女の書き残したものを開いていた。
そこには…
それを読んでいる間、邪美の脳裏には在りし日の我雷法師の姿が浮かんでいた。
快活に笑い、怒り、けれどその怒りは尾を引かず、寄り添い、励まし、導く姿が。
それと同時に、鈴や翼、閑岱の人たちの姿も思い起こされる。
どの顔もとても眩しいくらいのいい顔で、邪美の顔にも柔らかな笑みが浮かぶ。
「邪美へ」と綴りながら、我雷法師は邪美に対して、ああしてほしい、こうしてほしい、といった要求の言葉はなかった。
楽しかった…
ありがとう…
そんな言葉に溢れていた。
そして、要求というにはささやかな、ただひとつの願いが書かれていた。
後悔の ’ない’ 人生などありはしないけど。
邪美、あなたの人生に後悔が ’少ない’ ことを心から願っています。
邪美は、丁寧に手紙をしまうと、深く静かに邪美法師に向かって頭を下げた。
それから2日後の朝、閑岱の里で我雷法師の葬儀が無事に営まれた。
その席上で、次の長が発表された。
長として名前が挙がったのは、里の長老のひとりだった。
人格者としては申し分はない。
だが、その年齢から言って、魔戒法師としての体力や実力の衰えが心配され、閑岱の人々の顔には不安の色が隠せなかった。
少しざわつく中、新たなる長となった法師が前に出る。
「皆の言いたいことはわかっているつもりじゃ。
じゃから、わしは長とは言え、皆の力を借りるつもりでおる!」
そう言って睥睨(へいげい)すると、民の口は自然と閉じられ、その場が静かになった。
「イサカ!」
長の声に、イサカがはっとして顔をあげる。
「ムロイ!」
ムロイと呼ばれた男は訝し気な顔をする。
そして、
「邪美!」
と呼ばれて、後ろの方で腕を組み、大きな木の幹に身体を預けていた邪美は戸惑いの顔を見せた。
予期せずに注目を浴びたことに少し居心地も悪い。
が、それらを気にせずに長は声を張り上げる。
「今呼んだ3名の魔戒法師は、特に、わしの足りないところを補ってもらうことを考えておる。
急な指名で驚かせたと思うが、そのように心しておいてくれないか?」
そう言うと、名前を挙げた3名を順番に見やった。
イサカとムロイはそれぞれうなずいて見せたが、邪美だけは気持ちが揺らいで、曖昧に目を泳がせた。
「もちろん、この3名以外にも里のために皆、力を貸してくれ」
長の言葉に人々の視線は彼に集まり、どこからともなく起こった拍手により、閑岱の長として皆に受け入れられた。
そんな中、邪美はそっとその場を離れて行ったのを、翼は黙って見送っていた。
to be continued(5へ)
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コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
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