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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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God be with ye(7)

なかなかの分量になってきましたね、この妄想
まあ、1話1話が短いので、通して読むと「あっ」という間なのでしょうが。
物語もいよいよ佳境に入り、あとは勢いで… って、いつも「勢い」しかないんだった!

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「なかなかタフだな」

粗い息が少し落ち着いたところでホラーは言った。

「それは、どうも。
 自慢じゃないけど、ガキの頃からスタミナにはわりと自信があったんでね」

汗を光らせながら零はニヤリと笑って言った。

「ああ、そうだった…」

ホラーは思わず懐かしむような声でボソリと言った。
が、すぐに慌ててそれを打ち消しでもするかのように声を張り上げて言った。

「だが、おまえがいくら体力自慢であっても、どうやら私の方がいくらか腕前は上のようだ。
 そうやって、いつまで大きな口が叩けるか、なっ」

ホラーは凄い勢いで零に向かって飛びかかると、零も負けじと地面を蹴った。
攻守が何度も逆転しながら息をもつけない攻防が繰り返される。
そんな中でシルヴァは考えていた。

(力も俊敏性もゼロは決してこのホラーには負けていないわ。でも、どうしても攻めきれずにいるのはなぜ?
 まるでゼロの闘い方を知っているかのような… 以前にも闘ったことのあるホラーなのかしら?)

シルヴァはできるだけ昔の記憶を遡(さかのぼ)って考えてみた。
それはそうだろう。ここ最近の零はホラーを取り逃がすようなことはほとんどなかったからだ。
ごく稀にそんなことがあったとしても、必ず追い詰めて、最後には指令を果たしていたから、零に斬られずにすんだホラーはかなり昔… 零がまだまだ魔戒騎士としては未熟なときの相手しかいなかった。

『…』

シルヴァは厳しい顔をして考え続けた。





「おい、シルヴァ? どうしたんだ、さっきから黙って…」

弾む息で零は問いかけた。
いくら切り結んでも決着がつかず、今は、相手との間(ま)を取って睨み合っている状態だ。

『ゼロ。わたし、考えたんだけど…』

「ん? 考えたって何を?」

目の端にホラーを捉えながら、零はシルヴァにチラリと見た。
だが、シルヴァはそれには答えず、大きな声でホラーに問いかけた。

『ねえ、あなた…
 あなた、ひょっとして、オンブルなんじゃないの?』

「オンブル?」

シルヴァの口にした聞き覚えのある名前に、零は記憶を掘り起こそうとする。それはあまり思い出したくもない、かなり昔のこと。

一方、ホラーのほうはというと、その名前で呼びかけられた途端、雷にでも打たれたかのように動きを止めたが、すぐにフッと身体の力を抜き、クククと笑った。

「久し振りに聞いたな、その名前。
 だが、今はそんな名前なんかじゃない。今は、人間を喰らうただのホラーだ」

少し自嘲気味にホラーは言った。

『やっぱり…』

シルヴァの声には、相手の正体がわかった安心感とともに沈痛な響きが入り混じっていた。

「シルヴァ?
 オンブルって… あのオンブルのことなのか?」

零の方は理解できたが、まだ事態を飲み込めずに戸惑いのほうが大きかった。

『ええ、そうよ。彼は魔導具のあのオンブルよ。
 道寺の魔導具だった…』

「ちょっと待ってよ!
 あのオンブルがホラーに? だって、オンブルは…」

動揺する零は、混乱する頭で昔を思い出していた。





銀牙が道寺のもとにやってきたのは、ひとりで生きていくにはまだ難しく、けれども世の中の冷たさについては理解できるくらいの子供の頃のことだった。
その頃の銀牙は、他の大人と同じように道寺も信用できない存在として心を開くようなことはなかったが、それでも日々の穏やかな生活が彼の警戒心を少しずつ溶かしていき、やがて、道寺の元に来る以前の記憶もぼんやりと曖昧になるほどになっていった。

一方、道寺のほうはというと、当時はまだ現役の魔戒騎士ではあったものの、年齢のこともあって闘いの一線からは少し退き、薬を調伏したり、その知識を書物にまとめたりといった暮らしをしていた。
道寺は魔戒騎士でありながら、そちらの腕前もかなりのものだったのだ。
そんな道寺の気掛かりは、自分の鎧の継承のことだった。
子供のいなかった道寺は、とうの昔にそんなことは諦めていたことだった。
だが、身寄りのない銀牙を引き取ったことによって

「この子に鎧を継承させることができたなら…」

と、一縷(いちる)の望みが芽生えたのは否定できない。

その日、道寺は幼い銀牙に遊びの延長線上のような剣の稽古をしていた。
遊びのはずがどんどんエスカレートしてきて、いつの間にか道寺は子ども相手にしては厳しい手を仕掛けてしまった。
ハッと気づけば、銀牙の軽い身体はすっ飛ばされ、地面をコロコロと転がされていた。
ところが、銀牙は泣くことも喚(わめ)くこともしなかった。
汗にまみれ、泥にまみれながら、悔しそうな目をして道寺を睨み、歯を食いしばって立ち上がるのだ。
そんな姿に、自分の望みが単なる夢で終わらないかもしれないという希望も湧いてくるのを、道寺は止めることができなかった。

そんなことが何度となくあり、少し銀牙が大きくなった頃、

「父さん、俺に剣を教えてくれ」

と真剣な顔で切り出してきた。
それまでの道寺は、ただ「静香を守ってやれ」ということだけは言ってきたのだが、銀牙の中で強い父への憧れや可愛い妹への愛情が大きく成長した末、真剣に剣を学びたいという言葉となって出て来たのだと思った。

その日を境に、銀牙が遊びで剣を振り回すことはなくなった。
稽古の間は、道寺と銀牙は父子ではなく、師と弟子。
しかも、銀牙はとてつもなく貪欲な弟子だった。
道寺が口にし、身体で示した教えを、面白いほどにグングンと吸収していく。
いつぞやなどは、あまりに夢中になり過ぎて、体力を消耗しきってフラフラになってしまったほどだ。
半ば意識が朦朧としながらもそれでも剣を構えようとする銀牙の強い気持ちに、道寺は内心、舌を巻いた。

「今日の稽古はこれまで」

そう道寺が言った瞬間、銀牙は膝から崩れるようにしてその場に大の字に倒れこんだ。

「銀牙!」

物陰から心配そうに見ていた静香が銀牙に駆け寄る。
そんなふたりから少し距離を取り、子どもたちの姿をぼんやりと眺めていた道寺に、オンブルが話しかけてきた。
『道寺よ。この少年、なかなか見込みがあるのではないか?』

「おまえもそう思うか?
 実は、真剣にあの子を仕込んでみようと思っているのだ」

『おいおい、まさか本当に魔戒騎士にさせる気か?
 たとえ騎士の子であっても鎧が召喚できるとは限らないというのにか?
 あの子は騎士の子ですらない。ただの人間の子だぞ?』

「わかっている。
 だが、’誰かを守ることのできる力’ をあの子は欲しがっている。
 その一途な気持ちに、こちらも応えんわけにはいかんだろう?」

『そうか…』

そんな会話を交わしていると、息の整ったらしい銀牙が起き上がり、こちらに向かって言った。

「父さん! 静香と一緒に小川まで行ってくるよ!」

そう言って、静香の手を引いて元気よく駆け出した。

「おい、すぐに帰って来い! じきに晩飯だぞ!」

道寺の叫ぶ声に「わかってる!」と叫び返す声は、もうずいぶん遠ざかっていた。

「まったく… 銀牙は疲れというヤツを知らんのか…」

呆れたように呟く道寺の声が、妙に嬉しそうに聞こえた。

『さっきはあんなふうに言ったが…
 道寺よ。案外、魔戒騎士になれるかもしれんな、あの少年』

そう言ったオンブルの声にフッと笑いだけを返した道寺の目は、今はもうほとんど見えなくなってしまったふたりの姿を追い、どこまでも優し気で温かな父性を色濃く滲ませていた。





だが…
誰が鎧を継承できるのか… こればかりは魔戒騎士の一存で決めることなど叶わないのだ。
銀牙の身体も大きくなり、道寺の背をようやく追い越した頃に、道寺の鎧は道寺の遠縁の若者が継承することに決まってしまった。
その鎧の継承に合わせて、道寺の相棒とも言える魔導具オンブルもまた、道寺の手を離れることになった。
その決定の日から別れまでの間、道寺が言葉もなくオンブルを優しく包むように握りしめる姿を、銀牙は何度となく目にするのであった。



to be continued(8へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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