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きんのまなざし ぎんのささやき

あなたの白いその肌に(1)

いよいよ梅雨入り…
じとじと、じめじめの季節を前に、妄想で最後の晴れ間をお送りできるかな?




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ダイヤモンドのようにきらめいて飛び散る水飛沫(みずしぶき)。
今日も暑くなりそうな予感をさせるそんな太陽のもとで、カオルは庭の木々に水やりをしていた。

「カオル様ぁっ」

屋敷のほうから掛かった声に、カオルはホースの先端について手元のコックをカチリと握り、水を止めてから振り返った。
バルコニーの向こうに見える、ベランダに出るフランス窓から顔を覗かせたゴンザがこちら側に足を一歩踏み出した格好で声を張り上げていた。

「ちょっと、買い物に出てまいりますっ」

「はーい!」

にこやかに返事をして、行ってらっしゃいの意味を込めて手を振るカオル。
ゴンザはそれにニコニコとしてうなずくと、ガラス戸を閉めて姿を消した。

カオルは再び目を庭のほうに戻すと、目を閉じて大きく息を吸い込んだ。
少し青臭いようななんとなく甘く感じられる空気が、胸にいっぱい入ってきた。
目を開けると、水やりしたお陰なのか庭の緑がくっきりとクリアに見え、暖かな陽光と少し冷たいそよ風がカオルの肌を撫でている。

「きっもちいい~」

両腕を万歳するように上にあげ、全身で自然からのプレゼントを受け取ったカオルは、よし、と気合をひとつ入れて、再び水やりの続きを始めた。




庭の片隅に小輪のバラがこぼれんばかりに咲いていた。
そこに風が通ると、甘い香りがカオルの元へと運ばれてくる。
カオルは顔を近づけて、胸にいっぱい香りを吸い込んで楽しんでいたが、よく見ると、どうやらバラは満開を過ぎ、外側の花びらが茶色く変色して手で触れるとハラハラと散ってしまった。

このままでは、咲き終わりの花のために負担がかかって株が弱ってしまう…
昨年のちょうど今頃、ゴンザがそう言って手入れをしていたことを思い出したカオルは、屋敷へと走り、園芸用のハサミを持って戻ってきた。

「えっと、確か…」

カオルはゴンザの行動を思い出してみる。
そして、一枝一枝、カオルなりに見極めながらハサミを入れていった。



いったいどのくらいそうしていただろう。
ハッと気づくと、カオルの足元には切られたバラの枝が小さな山がいくつかできていた。
ひとつのことに夢中になると時間を忘れて没頭するのは、大人になった今でも治らないらしい。
自嘲気味に笑ったカオルが、切り残された枝を見つけて、

(これで最後にしよう…)

と手を伸ばした。
すると、その瞬間、屋敷からジリリリンと電話の音が聞こえてきた。
ハッとして手を止めたカオルは、今、ゴンザが不在であることと、この屋敷にかかってくる電話の十中八九が鋼牙からであることを頭に浮かべて、振り返りざまに駆けだした。
そのときに、左腕にちょっとした痛みが走ったのを感じたのだったが、意識はすぐに電話へと向けられてしまい、カオルはそのまま走り続けていた。

先程ゴンザが顔を覗かせていたフランス窓から屋敷に飛び込むと、明るい外からのギャップで一気に視界が暗く感じる。
一瞬クラッと眩暈のような感覚を覚えて、慌てて壁に手をついた。
それでも、なんとか電話に飛びつくと、カオルは

「もしもしっ」

と電話の向こう側に呼び掛けた。
すると、一拍置いてから、鋼牙の声が聞こえてきた。

「…カオルか?」

耳元で聞こえる彼の低く響く声に、またもや別の意味での眩暈を覚えるカオル。
電話越しだというのに、何なの? この破壊力…

「ゴンザは?」

心の中の動揺をなんとか押し隠し、カオルは答える。

「ああ、ゴンザさんは今、買い物に行っていていないの。
 何? 伝えようか?」

「そうか…」

それならと、鋼牙は、昼には帰らず、夕食にも間に合わないかもしれないので、自分の帰りを待たずに先に食べておくようにということをカオルに言った。

「そう、わかった…
 じゃあ、気をつけてね」

そう言ったカオルの声に含まれている寂しさを敏感に感じ取った鋼牙は、

「ああ。できるだけ早く帰るようにする」

と、カオルを労(いた)わるように優しい声で答えた。

「うん、待ってる…」

少し甘えたような声で、カオルがそう思わず言うと、鋼牙は電話の向こう側でフッと笑ったような様子だった。

「えっ、何?」

驚いてカオルが訊き返すと

「だから…
 待たないでいい、と言ったんだが?」

と鋼牙。

「あ、そうか…
 じゃあ、待たないけど、待ってる!」

そう言い直すカオル。

「ああ」

カオルの言いたいことを汲み取った鋼牙は、一言だけそう言うと電話を切った。



夕食を終え、寝る頃になっても鋼牙は帰ってこなかった。

「鋼牙、遅いな…」

窓の外を見ながら、カオルはぽつりと呟く。
寂しいわけではない。ただ、鋼牙の身を案じていた。

できれば、起きていて鋼牙を待ちたいと思いながらベッドに入り、眠気覚ましに本を手に取った。



その夜遅く、鋼牙が屋敷に帰ってきた。
コートを脱ぎ、ザルバを引き抜き台座に戻すと、鋼牙はカオルの元へと急いだ。
部屋の明かりは落とされていたが、ベッドサイドのスタンドは煌々(こうこう)と点(つ)いていた。
近づきながら、そっと彼女の名を呼ぶ。

「カオル…」

見ると、カオルは小さな寝息を立てて眠っていた。
シーツに投げ出されている手には、読み止(さ)しの本が…

鋼牙は少し残念そうにフッと表情を緩めると、本を取り上げようとして手を伸ばした。
そっと取ったつもりだったが、何か感じるものがあったのかカオルが気づいて目を開けた。

「鋼牙…」

取り上げた本をサイドテーブルに置いていた鋼牙が、呼びかけられて、カオルに優しいまなざしを向けた。

「すまない、起こしたか?」

気遣う鋼牙に、カオルはううんとゆっくり首を横に振る。


to be continued
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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