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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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いちばんの存在(1)

あのシリーズが三度(みたび)帰ってきました!
合言葉は、そう! 「メルヘ~ン!」

拍手[3回]



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ここはサエジーマ王国。
国の中央に位置する城では、ここで働く人々が固唾を飲んでその一瞬を待っていました。
ある者はうろうろと無意味に歩き回り、ある者は神に祈りを捧げ、ある者は磨き上げてピカピカになった窓を意味もなく磨き続け、ある者は心ここにあらずでハサミを動かした結果、必要以上に庭木を刈り込みすぎてしまったり…
そして、この国の王にして最強の騎士でもあるコーガはというと、執務室で国の内外からあがってきた膨大な報告書の類にに目をやりながらも、その内容がちっとも頭に入ってこずに、何度も同じ箇所を読み返していました。
だが、とうとう諦めた王は、報告書を机の上にバサッと放り投げて、目頭をぐいぐいと揉むのでした。

『待つ身はつらいな、コーガ。
 さすがのおまえさんも、こればっかりは自分の思うようにはいかないしな』

王の左手にはまる魔導輪バルザが同情するように声をかけます。
王はバルザを見やり、ふうっと深く息を吐きました。

「…何かわかることはないか?」

わずかに眉尻を下げて王はバルザに問いかけます。

『う~ん、そうだなぁ…』

バルザは目をカチリとつむり、神経を研ぎ澄ませました。
しばらくののち、はっとしたような表情に変わるとこう言いました。

『カオルンの気がかなり乱れているな。
 そして、少し弱ってもいる… 無理もない、昨日の朝からずっと痛みに耐えているんだからな』

それを聞いた王は、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がりました。

「カオルンは大丈夫なのか?」

心配のあまりやや苛立たし気にバルザを問い詰める王。

『太古の昔から出産は命がけの行為だしな…
 だが、女性はなかなかにたくましいか… おいっ、コーガっ!』

バルザの言葉の半分も聞かないうちに王は駆け出し、執務室を後にしました。




この国の王コーガがカオルンを妃に迎えて丸5年。
国民の期待を集める中、ふたりの間にはなかなか子宝に恵まれなかったのは過去のことです。
国民の期待はカオルンを苦しめ、追い詰められた彼女が城を飛び出したりもしましたが、そんなこんなを経たのち、カオルンに懐妊の兆しが見え、国中あげて歓喜に沸いたのは半年前のことでした。
もちろん王自身も妃の懐妊を喜び、それまで以上に彼女を気にかけ、ゴーザンにも十分注意するよう毎日のように命じました。

そんな日々を超えた昨日。
朝食を共にして、さあ、これから執務に行ってくると王が食卓を離れようとしていたときでした。
カオルンが急に表情をわずかに歪めたのです。
それにすぐ気づいた王は、

「どうした?」

と声をかけます。
カオルンはすぐに笑顔をつくりました。

「ううん、なんでもない。
 ちょっと食べ過ぎたのかな、なんだか少しお腹が…」

そう言ったところで、再び彼女の顔が痛みに歪みました。
すぐさま王は彼女のそばに寄り添い、気遣わし気にカオルンの顔を覗き込みます。

「大丈夫か?」

そう言ってから王はゴーザンのほうを振り向きました。
ゴーザンは大きくうなずいてから、

「始まったのかもしれません。すぐに手配いたします」

と言うと礼もそこそこに慌ただしく出て行きました。
ゴーザンのやることに抜かりはなく、いつこの日を迎えようともすぐに対応できるように部屋も人員も手配済みであったので、すぐにカオルンは出産のために用意された部屋に運び込まれました。
部屋に入る前にカオルンは心細そうな表情で王に手を伸ばしました。

「コーガ…」

王の胸もずきずきと痛みましたが、見送るしかできません。
手を取り、反対の手で愛おし気にカオルンの髪を撫でてから、

「大丈夫だ、皆、ついている。
 俺はそばにいてはやれぬが、心はおまえのそばに…」

と言うと、そっとこめかみに優しいキスを落としました。





まる一昼夜。
規則正しく来る痛みに、カオルンは耐え続けました。
初めのうちは我慢できるくらいの痛みだったものが、だんだんと痛みの強さが増し、痛みが来る感覚も短くなってきて、その時が来るのが近づいているのはわかります。
けれども、いったいいつまでこの痛みが続くのかわからないまま、食事を取るのも睡眠を取るのも難しくなってくると、カオルンの体力はもとより精神力の方が持たなくなってきました。

(コーガ… はぁ、はぁ… いったぁぁぁい… はぁ、はぁ… たすけて… ううっ…)

朦朧(もうろう)としながら、カオルンはそばにはいないコーガにずっと助けを求めていました。
そして、とうとう泣き出してしまいました。

「ひっく… ひっく… ううう…」

そばに控えていた医者や侍女たちは必死に声をかけます。

「カオルン様、大丈夫ですよ。泣かないでくださいませ!」

「お妃様、呼吸を楽にして! お子様まで苦しくなってしまいますよ」

カオルンとて子どもの命がかかっているのですから、泣きたくないのです。
それでも、どうしようもなく涙が出てしまうのでした。

「うっく… コーガぁ… ううう…」


to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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