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いちばんの存在(2)
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涙と汗でぐしょぐしょになる妃に、落ち着いてくださいませと声をかけるものですから、カオルンは必死に泣き止もうと努めます。
ですが、それは逆効果で、ひっくひっくとしょくりあげることでどんどん呼吸が苦しくなってきました。
(はぁっ… はぁっ… ひっく… はぁっ、はぁっ、はぁっ…)
カオルンの周りで慌てる者たちの顔さえよく見えなくなってきました。
(だめっ… がんばらなきゃ… この子が… この子が…)
「気をしっかり!」
「お妃様っ! お妃様っ!」
朦朧とする妃に、皆、必死で呼びかけます。
と、そのとき!
バンッ
部屋のドアが乱暴に開け放たれました。
あっと振り返るとそこにはこの国の王、コーガの姿が。
その後ろでは
「なりません、コーガ様! コーガ様っ!」
と執事ゴーザンが腕に必死にしがみついて引き戻そうとしていますが、王はピクリとも動きません。
あまりのことに室内にいる者は目を大きく見張ってぴくりとも動けず、声もあげられませんでしたが、「あたしゃこの手で一万人の赤子を取り上げたよ」というこの国いちばんの取り上げ婆(ばばあ)のタムタム婆(ばあ)が曲がった腰をしゃんと伸ばして声を張り上げました。
「何をしておる、ここは女しか入れん。
妃のことは我らに任せて、さっさと出ていかれよ」
泣く子も黙る国王相手に、タムタム婆は睨むようにして言います。
かくゆうコーガもこのタムタム婆に取り上げられた赤子のひとり。
彼女にとっては、庶民の子も王家の子も関係がなく、どの子も等しくかわいい坊やみたいなものでした。
けれどもコーガも引き下がりません。
「タムタム婆。そこで苦しむのは俺の妻だ。
妻のつらいときに俺はそばにいてやりたい」
コーガの堂々とした言葉にタムタム婆は顔をしかめます。
「何を言う。出産は古(いにしえ)から女だけで行うもの。
男のおまえさんが出る幕などないわ」
ふんと鼻を鳴らすタムタム婆に、コーガは
「男の俺では何もできないのは百も承知!
だが、それでも俺はそばにいてやりたい。
痛みもつらさも感じることはできないが、苦しむ妻を励まし、寄り添っていたいのだ」
と言うと、周りの静止も聞かずにカオルのそばにずんずんと近づいていきました。
「カオルン…」
コーガは彼女の手を取り、ぎゅっと握りしめました。
すると、目を閉じていたカオルンが荒い息の中で朦朧となりながらも目を開けました。
「コー… ガ…?」
「カオルン、大丈夫だ。ゆっくり、ゆっくりと息を吐け」
コーガは、呼吸に合わせるように彼女の髪をゆっくりと撫で始めました。
すると、ぼんやりしていたカオルンの目に少しずつ力が戻り、鋼牙の手の動きに合わせようと呼吸を整えだしたのです。
「いいぞ、大丈夫。おまえはひとりじゃない。
苦しいかもしれないが、俺も、ここにいる者たちみんなも、全員がこの子を迎えるためにできることはなんだってしてやるつもりでいるんだからな」
カオルンの目はまた潤みましたが、涙は流れることなく、彼女は小さく、でも力強くうなずきました。
そんなやりとりを見ていたタムタム婆は、はぁっと大きく溜息をつきました。
「前代未聞じゃ。
男が、しかもこの国の王たる者が出産の場に立ち会うなんぞ…」
そんなことを小声でぶつぶつと言っていましたが、カオルンが「ううっ」と痛みに呻くと途端に顔つきを変えてふたりに向かって言いました。
「どうやってもこの王様を出て行かせることはできないみたいだねぇ。
しょうがない、このままお産を続けるしかないと腹をくくることにしようか。
さあ、いよいよ本番じゃ。
お妃様、婆(ばあ)の合図で、思いっきりいきんでくだされ?
じゃが、声はできるだけ抑えて。そして、できるだけ長ぁぁぁくいきんでくだされよ?
ほれほ~れ、もうじき頭が見えそうじゃ。
いきますぞ? それ、ふぅぅぅん… ふぅぅぅん…」
タムタム婆はゆっくりと長く息を吐くように声を掛け始めました。
それに合わせてコーガもカオルンの腕をさすりながら、
「がんばれ… カオルン… がんばれ…」
と息を詰めながら小さく声を掛けています。
カオルンはコーガの手をぎゅうううっと握りしめて、痛みの波に押し負けないように必死にいきみ始めました。
息の続く限りいきみ、息が続かなくなると、はあ、はあと呼吸を整えてまたいきみます。
それを何回も続けるうちに、体力も気力もどんどん削られていきました。
(これでもう無理かも… はぁっ、はぁっ…
ふぅぅぅん… はぁっ、はぁっ…
これで最後…
ふぅぅぅん… はぁっ、はぁっ…
もうこれでほんとに最後よ…)
そう思いながら、周りに励まされているうちに、足の間に大きな塊が盛り上がる様なそんな感触があり、タムタム婆がひときわ大きな声をあげました。
「ストップ、ストップじゃお妃様。
はっ、はっ、と呼吸を整えなされ」
それを聞いたカオルンが、えっ、と訊き返そうとすると、また、何かまた足の間で動いた感触がしました。
そうしているうちに、
「ふぎゃあああ」
赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのです。
「ゆっくり… ゆっくり… 呼吸を整えて…」
足の間にまだ何か挟まっているような感覚があったのが、やがて、ずるっというかぬるっというか抜けていったように思うと、カオルンの視界にようやく赤ん坊の姿が見えてきました。
(あぁ、生まれたのね…)
そう思うのと同時にタムタム婆が
「ちょっと待っていなされ。きれいに拭いて差し上げるでのう」
と言いながら手をせっせと動かしています。
そして、カオルに向かって皺だらけの顔でにっこり笑うと
「ほぉれ、元気な男の子。王子様のご誕生じゃ」
と言って、カオルンの胸の上に王子をそっと乗せてくれたのでした。
まだ、身体の色は紫がかっていて、瞼も腫れぼったく、とてもかわいいというには無理のなる姿でしたが、小さいながらも温かくて、一生懸命泣いている赤ん坊の重みにカオルンの胸はいっぱいになりました。
感極まっているカオルンの頭を、コーガがそっと撫で、カオルンははっとしてコーガを見上げます。
ほっと安堵しているように穏やかな表情を見せるコーガに、カオルンは言いました。
「コーガ、私たちの赤ちゃん、生まれたよ」
疲れ切って汗びっしょりで、笑顔をつくるのもしんどそうなカオルンでしたが、コーガの目にはこの上もなくしあわせに満ち溢れて美しく見えました。
「ああ… カオルン。よかった… ありがとう…」
切れ切れに紡がれた彼の言葉に、カオルンはすごくうれしそうににっこりと微笑むのでした。
その笑顔にはしあわせだけでなく、どこか自信にも満ち溢れて見えました。
to be continued(3へ)
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コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
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