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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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おまえのせい(2)

匂い、音、光の加減など、ほんのちょっぴりエッセンスとして書き添えたら、読み手様の頭ン中では勝手にイメージが膨らんでくれるはずですよね?

なんとなく、ソレっぽい雰囲気…
伝われ~! 伝わるんだ!

アトハ、オネガイシマス!  (  ̄3 ̄)~♪


拍手[31回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「それでは、カオル様。
 留守中のこと、よろしくお願いします」

ゴンザはお茶のカップなどが乗ったトレイをキッチンまで運んできてから、そう言って出かけて行った。

実は、鋼牙がリビングを出ていった後、あとはやっておくから、と言うカオルに対して、そういうわけにはまいりません、とゴンザが答えるものだから、すったもんだのうえ、

  キッチンまで運ぶのはゴンザ
  そこから先はカオル

という役割分担で話がついたのだった。
どちらかがスッと折れれば話は早いのだが、こういったやりとりもなんだか楽しく思えるのだ。
カオルとゴンザの仲がいいからと言えなくもないが、’鋼牙が帰ってきた’ ということで、ふたりともなんとなく心が浮き立っていたのかもしれない。

ゴンザが出掛けて、キッチンにひとりとなったカオルは、

「さてと…」

とキッチンを見回した。
広さはそれほどでもないが、オーブンやグリルなどひととおりの設備は整えられており、いつでもきちんと整頓されているキッチンだ。
そのくせ、人を寄せ付けないような潔癖さというのもなくて、まるでゴンザの人となりそのままといった感じを受け、カオルの好きな場所のひとつでもある。

カオルが立ったシンクの目の前には庭が臨める窓があり、木立を抜けてきた乾いた風と柔らかい陽射しがカオルの前髪をかすめていく。
腕をまくり上げたカオルは、青い小花の模様がかわいらしいティーカップやソーサーをトレイからシンクに移すと、スポンジを使って丁寧に洗い始めた。
この屋敷で使っている食器はひとつひとつがかなりお高いものらしいので、冴島家に厄介になった当初、カオルが洗い物を手伝うときにはかなり緊張したものだった。
そんなカオルを見て、ゴンザが言ったのはこんな言葉だ。

「カオル様。
 こういったものは、この色が好き、形が好き、模様が好き… と、どこかひとつ好きなところがあれば、おのずと大事に扱えるものでございます。

 それでも所詮は割れ物でございます。
 壊れるときには壊れてしまうのですから、どうかお気になさらず…」

確かに、好きなものに対しては、自然に優しくなれる…

カオルは、カップのひとつひとつを
慈しむように洗った。
顔には思わず笑みが浮かんでいる。
手の中のカップももちろん好きだったが、誰よりも大事な人が長い仕事を終えて帰ってきたことが堪らなく嬉しかったのだ。
鼻歌でも口ずさみたくなるくらいの上機嫌のうちに、あっという間に洗い物は終わった。
キュッと水を止めたカオルは手を拭こうとして、ふと動きを止めた。
驚いたことに、いつの間にか背後に来ていた人物に、腰のあたりを抱かれたのだ。
驚いてビクリと身体が震えたが、カオルの髪に顔を埋(うず)めるようにしたその人の香りと感触は、’あの人’ 以外に考えられなかった。

「どうしたの?」

「…」

背中の人は何も答えず、じっとしている。
ただその息遣いが、カオルの右耳の辺りに感じられた。
カオルの鼓動が少しずつ速くなるのを感じながらも、それを悟られないように、

「あ、わかった!
 喉が乾いたとか?」

などと、わざと無邪気に尋ねてみる。

「…」

今度も無言だったが、かすかに首を横に振ったのが感じられる。
カオルは濡れたままの手からポタリポタリと雫を落としながら、どうしたものかと考える。
すると、

「…眠れない」

耳のすぐそばで声がした。
カオルを痺れさせてしまうあの声だ。

「どうして?」

多くを話そうとすると声が震えそうになるので、カオルはそれしか言えなかった。

「久し振りにおまえの顔を見たから…」

そう言うと、カオルを抱き締めていた腕に力がこもった。
鋼牙の口から聞かれる言葉は少ないのに、彼の気持ちがカオルには痛いほどに伝わる。

  カオルが欲しい…

いや、それだけじゃない。
カオル自身もまた、鋼牙を強く求めているのだと感じていた。
けれど、それを素直に認めることがカオルは恥ずかしかった。

「あの… 鋼牙、ちょっとだけ待ってもらえる?
 このカップだけ拭いてしまいたいから…」

少しの間だけでいいから時間稼ぎでできるように、そう言ってみる。

「…わかった」

少し不満に思っているのか鋼牙の声は微妙に硬くなったが、カオルから身体を離すと2~3歩後ろに下がって、黙ってカオルを見つめた。
鋼牙の身体が離れて少しほっとしたカオルは、

「すぐ、済むから…」

と言うと、洗ったものを丁寧に拭きあげては、戸棚の中の定位置に戻す、という作業に移った。
その間ずっと、鋼牙はカオルの姿を目で追っていた。

  緩やかにウェーブしている艶やかな髪…

    伏し目がちな黒い瞳を縁取る長い睫…

  しなやかな指先…

    少し開きかかっている桜色の唇…

カオルはできるだけ鋼牙のほうを見ないようにしていたが、鋼牙の熱っぽい視線が注がれていることは痛いほど感じる。

(そんなに見ないでよぉぉぉ)

祈るような気持ちで黙々と動いているうちに、とうとう最後のカップとなってしまった。
それをわざと念入りに拭きあげて戸棚に片付けると、布巾を広げて布巾掛けに戻し…た… かどうかというタイミングで、鋼牙はつかつかとカオルのそばまでやって来た。

「もういいな?」

カオルの真上から押さえつけるように尋ねると、返事も聞かずに性急なキスが降ってきた。
つい今の今まで、飢えたような鋼牙の視線に晒されていたカオルは、このうえもなく敏感になっていた。
そんなところに、さらに剥き出しの欲望を示すようなキスをされたのでは、まるで感電でもしたかのような強い衝撃を受けるというものだ。

「…んふ …んん」

何も考えられないまま、しばらくされるがままとなった。
そして、ようやく鋼牙が離れたときには、カオルの身体はくたりとなり、自分の足では立っていることができないほどになっていた。
心をどこかに奪われてしまったようだった。
鋼牙にもたれるようにしているカオルの身体の重みは、鋼牙にしあわせを感じさせたが、それと同時に、突き上げるような気持ちを抑えられないほどにしていた。
もちろん、気持ちを抑えようなどとは思っていない。
カオルは、鋼牙にとって、ただひとりのかけがえのない存在なのだ。

鋼牙はすぐさまカオルを横抱きに抱えると、キッチンを後にして自室へと向かうことにした。


to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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