きんのまなざし　ぎんのささやき

書きかけのまま、ず～っと放置しちゃってすいませんでした。
というのも、何回書き直しても「今宵の月」がうまく登場させられなくて…

それにしても、ネットって便利ですね。
今夜の月がどんな月かを調べられるだけじゃなく、どこそこの都市では何時頃にどこの空に見えるか？　なんていうこともすぐにわかってしまうとは！

残念ながら、クリスマスの今夜の月は、20時頃には地平線のかなたに隠れてしまったのですが、たまには月を見上げるのもいいですよね！

[26回]

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カオルは喋りたいだけ喋って、もはや十分に満足しているようだった。
こうなれば、鋼牙が言うことは何もない。

ただ…
さっきカオルの言った、「思いもしないことであっという間に自分（カオル）が命を落とすことを考えたことがあるか？」という問いが、鋼牙の中ではまだ少し引っかかっていた。

「俺は…」

ふいに鋼牙が口を開いた。

「おまえがいなくなることなど、考えたこともない。
　いや…
　そんなことは考えないようにしていたのかもしれない」

うっとりと閉じていた目をパッと開き、カオルは、じっと鋼牙を見た。
カオルの瞳は、暗闇の中でもかすかな光を集めてきらりと光っていた。

「人は、いずれ最期を迎える。
　花も木も、人の手で作られた　’モノ’　さえも、やがては色褪せ、朽ちていく。

　いつかは跡形もなく消えゆく運命（さだめ）だというのに、それを画家が描くのはどうしてだ？
　なぜ魔戒騎士は、果てることなき陰我を斬り、ホラーを狩り続けるのだ？」

鋼牙の言葉は　’問い’　の形だったが、それは決して答えを求める口調ではなかった。

（あたしが描くのは…
　大切な　’今’　という時間を切り取って残しておきたいから。

　そして、鋼牙が闘い続けるのは…）

カオルの頭の中にひとつの答えがぼんやりと浮かんだとき、鋼牙は再び話し出した。

「未来のことは、俺にはわからない。
　だが、‘今‘　を大事にすることで、必ず未来につながると信じている。

　だから…
　この先どうなるかはともかく、カオルと過ごす　’今’　このときを大切にしたい…」

そう言うと、鋼牙はそっと顔を近づけ、触れるだけの口づけをカオルの唇に落とした。
しばらくしあわせな　’今’　を共有して見つめ合っていたふたりだったが、フッと鋼牙は窓のほうへ視線を外した。
カーテンを閉め忘れたために、鋼牙の場所からは冷え冷えとした冬の木立と月が見えた。

「さっきまで雲に隠れていた月が出てきた。
　…きれいだ」

今夜の月は三日月だった。
すでに西南西の空から地平に沈みそうで、ほんのしばらくしか見ることは叶わないだろう。
まさに、’今’　しか見ることのできない、月を、鋼牙は愛おしそうに眺めた。

明日のことさえわからないが、間違いなく今の鋼牙はしあわせだ。
そして、カオルも…

カオルの場所からは低い位置にある月が見えないようで、布団から出した顔を伸ばして窓の方を見ている。

「ここからなら、よく見える。
　こっちに来い…」

穏やかな鋼牙の声が聞こえ、カオルのほうに手を差し伸べた。



今宵の月は何を照らす？
ひとりの男と
ひとりの女の
今を優しく照らし出す…

されど、その光は明日まで届かない

明日は明日の月を待とう



fin
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魔戒騎士であるからには、鋼牙さんに、’死’　の影が見え隠れすることは当然あることで、カオルちゃんやゴンザさんは人知れず覚悟しているのかもしれません。
でも、人間誰しも、いつ、どこで、どうなるかはわかりません。
カオルちゃんだって、事故や病気で命尽きることも…

’死’　をテーマに、ふたりがどこまで言葉にして、どこには触れないか…　を考えるのは、実に興味深いことでした。
最後の回はものすごく短くなってしまって、掘り下げ方も今ひとつ浅かったよなぁ、などと反省しきりですが、これはこれで…　ということにいたしました。