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きんのまなざし ぎんのささやき

今宵の月(2)

巷は、クリスマスだ、イルミネーションだ、と華やいだ雰囲気だというのに、どうしたことでしょう…
雪のように降ってきた妄想が、そんなロマンチックなイメージからかけ離れた、とても暗いものなんです。
う~ん、ごめんなさい!

そうそう、この先をお読みになる前にお断りをしておきます。
ここ最近、身近な人や親しい人を失くされた方は、ツライ内容かもしれません。
もし、ちょっとでも気分を悪くしそうだと感じましたら、すぐに「回れ右!」でお願いいたします。




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カオルは会場の中ほどに座っていた。

地を這うように続けられる僧侶の読経。
そして、むせるほどの線香の香り。
前方にはたくさんの白い花に囲まれた若い女性の遺影が見える。
その遺影を取り巻くように中央付近だけにピンク色の花が飾られていて、写真の中で眩しいくらいに笑っている彼女の若さと美しさを引き立てていたが、逆に、それが一層、親族や列席者の悲しみを誘っていた。
カオルは、膝の上でハンカチを強く握りしめた。

ただ…
カオルにとっては、写真の中の彼女とは面識がない。

視線を少しずらすと、祭壇の一番近い場所に喪主の姿が見えた。
以前、カオルが初めての絵本を出版するときに、担当として世話になった大村だった。
大村は、絵本の締切間際に原因不明の昏睡状態に陥った(ということになっている)篠田のピンチヒッターとして、誠実で粘り強く、絵本の完成までカオルをサポートしてくれた人である。

その彼の妻が、昨日、不慮の事故で急逝してしまったのだった。



昨日、なんとなく朝から気分が悪かった大村の妻は、昼過ぎに、頭痛と吐き気のため早退することにした。
その帰宅途中に、彼女は夫に電話を入れていた。

「なんだか気分が悪くって… 会社、早退してきたの」

「そうか。 風邪かな?
 とにかく、あったかくして寝ていろ。
 今日はできるだけ早く帰るようにするから…

 気をつけて帰れよ」

「うん」

短い会話だったが、彼女は、電話の声から夫の愛情をちゃんと感じ取り、笑って電話を切っていた。

その後、自宅の最寄駅に着き、彼女は電車を降りて駅の階段を上った。
ところが、階段の中程まできたときに、急に身体の右側半分に力が入らなくなったのである。
後から判ったことだったが、どうやら、それは脳梗塞による運動麻痺のようだった。
あ、っと思ったときには、彼女の身体はバランスを崩し、まるで人形か何かのように階段を転げ落ちていった。
すぐに駅員が119番に通報し、彼女は救急搬送されて医師による処置が施されたが、打ち所が悪かったのか、とうとう彼女は目を覚ますことなく、そのまま天国へと旅立ってしまった。

「気をつけて帰れよ」

彼女は夫から聞いた、その最後の言葉どおりに、家に帰ることはできなくなった。



今朝、たまたま出版社に電話をした際に、大村を襲った奇禍(きか)を耳にしたカオルは、通夜だけでも参列したいと思い、こうして出向いてきたのだった。
故人とは直接会ったことがないとは言え、打合せの席での世間話として、大村の口から妻の話が出ることもあった。

「ちょっと天然なヤツでねぇ~
 信じられないドジをすることもあるんですよ。

 でも、明るくて前向きで…
 彼女といると元気が出てくるんです。

 あぁ…
 なんだかそういうところは、御月先生と似ている気がするなぁ」

照れ臭そうに笑いながら言っていた大村のことを、カオルは思い出していた。
カオルにとっては、ほんの少ししかない彼女の思い出だったが、写真の中のしあわせそうな笑顔の彼女を見ていると、なんとも言えず悲しい気持ちになる。

(彼女との楽しい思い出がたくさんある大村さんは、きっと、すごくすごく悲しいんだろうな…)

じっと哀しみに耐え、気丈に参列者の応対をしている大村の姿を見ながら、カオルの胸も塞(ふさ)がるばかりだった。




冴島家の玄関に、黒塗りの車が滑り込んできた。
どうやらカオルが帰ってきたようだ。
リビングにいた鋼牙は、ドアが開いたので視線をやると、そこにはゴンザが顔を少し曇らせて立っていた。

「ただいま戻りました、鋼牙様」

「ああ… ご苦労だったな」

主従が短い言葉を交わしていると、当然、顔を見せるはずの彼女が、なかなか姿を見せなかった。

「カオルは?」

溜まらず聞いた鋼牙に、

「はい…
 疲れたから休む、と仰って、ご自分のお部屋に真っ直ぐ向かわれました」

とゴンザが沈んだ声で答えた。

「そうか…

 おまえも疲れただろう。
 もういいから、ゆっくり休むといい。
 俺も、じきに寝る」

元気のないゴンザの様子を ’疲れ’ からくるものと思った鋼牙は、ゴンザを気遣ってそう声をかけ、手にしていた書物をパタンと閉じた。
すると、ゴンザはなんだか去り難そうにして、もじもじしている。
すぐにそれに気づいた鋼牙は視線をあげてゴンザに尋ねた。

「なんだ?
 何か言いたいことでもあるのか?」

すると、ゴンザは小さくうなづいてから言った。

「カオル様のことなのですが…
 お帰りの車の中では、終始、無言でいらっしゃいました。
 故人とは直接のお知り合いではないそうなのですが、感受性の強いあの方のことです… ’死’ というものに触れて、少々気持ちが沈んでいらっしゃるようでございます」

「…そうか」

ゴンザの言葉に、鋼牙の返事もトーンが落ちた。

「お出かけの前にサンドイッチなど軽めのものを召し上がったきりですので、カオル様はお腹が減っていらっしゃるだろうと思うのですが、何もいらないとのことで…
 でも、夜中にお腹をすかされることもございましょう。
 よろしければ、お夜食などをご用意しておこうかと思いますが、いかがいたしましょうか、鋼牙様?」

ゴンザはそう言うと、主の反応を窺うべく、じっと鋼牙を見つめた。

「そうだな…
 疲れているところをすまないが、用意してやってくれるか、ゴンザ。

 あとで、俺が持っていこう」

そんな鋼牙の返事を聞いて、ゴンザの顔はふわっと明るくなった。

「かしこまりました。
 只今、ご用意いたしますので、しばらくお待ちください」

そう言うと、ゴンザはキッチンへと消えていった。
リビングに残された鋼牙は、再びゴンザが夜食を手に戻ってくるまでの間、ひとりで考えに耽(ふけ)ることになった。



to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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