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きんのまなざし ぎんのささやき

紙っぺら一枚で(3)

復活した(のか?)PCで、今宵も妄想をお届けしましょう!
さ、さ、また動かなくなる前にポチッと公開しよ、っと。




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「あたし… 怖くなったの…」

カオルは伏し目がちなカオルがそう呟いた。
その声は、震えていた。

「これがもし鋼牙だったら、って…
 チハルさんの立場があたしだったらって、そう考えたら、怖くなって。
 だって、鋼牙はっ」

そう言うと、カオルはがばっと顔を上げ、鋼牙に潤んだ大きな瞳を向けた。

  魔戒騎士だから…
  いつ、ホラーとの闘いに傷つき、力尽きるかもわからぬ境遇だから…

だが、結局それを言葉にはできず、何も言えなくなるのだった。
そして、代わりに、小さく吐息をこぼす。

再び、視線をわずかに落としてカオルは言葉を続けた。

「覚悟はしているつもりだった。
 でも、今日みたいな、誰かの命が消えちゃうかもしれないって場面に遭遇したら、すごく、ものすごく怖くなった…」

そう言うと、カオルの手がきゅっと握られた。
湧き上がってくる不安を押し込めるように、握りつぶすかのように。

そして、言葉を探しながら、また口を開く。

「もちろん、鋼牙に、あたしのこれからの人生を押し付けようって気はさらさらないの。
 これまでみたいに、鋼牙の帰りをおかえりって迎えられたら、それでいいかなぁって…」

うっすら笑みさえ浮かべてそう言うカオルは、きっと本心からそう言っているであろうと鋼牙には思えた。

「でもね…」

ふいに、カオルの表情は固くなり、声も低くなった。

「こんな… こんな紙っぺら一枚のために、鋼牙に何かがあったときに側にいられないのは嫌なの」

感情を抑えるように絞り出された声は、最後の方は揺れていた。
それでも、ゆっくり顔を上げたカオルは涙を堪えて言った。

「あたしはどんなときでも鋼牙の側にいたい!
 鋼牙はこんなものに縛られたくないかもしれないけど、でも… それでも…
 鋼牙の家族である権利をあたしにくれないかなぁ?
 お願い…」

カオルは机に両手をつき、やや前のめりになるような姿勢で鋼牙に訴えた。

「…」




どのくらいの間、無言の刻(とき)が過ぎただろう。
知らず知らず息を詰めていたカオルが、息苦しさのあまり大きく息を吸い込もうをしたとき、静かに鋼牙の口が開かれた。

「これは… 必要ない」

鋼牙の言葉にカオルは息を飲み、大きく目を見開く。
が、すぐに鋼牙は穏やかな口調で付け足した。

「おまえはすでに家族も同然。
 俺にもしものときがあったとしても、おまえが俺の側にいることを妨げることは何もない」

きっぱりとそう言い切る鋼牙に、

「でも…」

と困惑の色が隠せないカオル。
鋼牙は立ち上がると、ゆっくりとカオルに近づいた。
カオルの前で足を止めて彼女を見下ろす鋼牙を、カオルはほぼ垂直になるよう見上げる。
眉尻が下がり、すがるような表情のカオルに鋼牙はわずかに頬を緩め、しっかりと抱き寄せる。

「カオル…」

鋼牙の胸に耳を当てるカオルに、鋼牙の声が彼の身体を通して聞こえる。

「俺たち魔戒騎士は、普通の人間のような死に方はしない」

語られた言葉の絶望的な内容とは裏腹に、鋼牙の腕はカオルをぎゅっと抱きしめ、彼の温かな体温がカオルを包んだ。

「だから、カオルが病院に呼ばれるようなことも、その紙を理由に拒まれることもないだろう」

トクトクと規則正しく刻まれる鼓動を聞き、鋼牙が今生きて側にいることを感じながらも、やはりカオルの不安は収まらない。
もぞもぞと鋼牙の胸に手をつき、少し距離を開けたカオルは鋼牙を見上げる。

「ほんとに?
 鋼牙の側にいることを、どんなときでも邪魔されたりしない?」

不安そうな表情のカオルの頬に、鋼牙の温かい手が添えられる。

「ああ」

カオルを安心させるようにきっぱりと断言された言葉だったが、カオルは

「でも…」

と不安の滲む声で続ける。

「家族同然かもしれないけど… でも、あたし、家族じゃないんだよ?
 それでも大丈夫なの?」

年齢的にはいい大人だというのに、少女のように不安を募らせているカオルに、鋼牙は愛しさがこみ上げてきて、こんな状況だというのに嬉しくてたまらない。

「カオル」

鋼牙の優しい呼びかけに、

「ん?」

とカオルはわずかに眉をあげて応える。

「俺はどんなときでもおまえの元に帰ってくるよ。
 無傷でホラーを倒したときも、そうでないときも…

 おまえが、俺にとってそういう存在であることは、零たちも知っていることだし、それに、すでに元老院にも届けている」

そんな鋼牙の言葉を聞いて、

「へっ?」

とカオルは目がテンになった後、

「えええーっ!」

と叫ぶように声を張り上げた。

「届けって… え? 元老院って… うそ…」

放心したようなカオルに、

「嘘などは言わない」

と心外だとばかりに、少し憮然とした表情で鋼牙は言った。

「そんなこと、あたし、ひとつも知らされていないけど?」

と、今度はカオルのほうが唇を尖らせる。

「別に大したものでもない。
 有事の際の連絡先がどこかといったことだけだ」

「なにそれ」

カオルは盛大に眉をひそめる。

「なにそれ、とはなんだ」

鋼牙も負けないくらい眉間に深い皺を刻む。
なんとなく険悪な空気が流れる中、

『おいおいおまえら…』

と呆れたようなザルバの声が割って入ってきた。

『黙って聞いてりゃ埒があかねぇな』

そんなふうに言われて、鋼牙とカオルはじろりとザルバを見る。

『鋼牙、おまえは相変わらず言葉が足りねぇな?』

と芝居がかったように溜め息をつくと、カオルに呼びかけた。

『カオル… おまえのような普通の人間には俺たちの世界のドライな部分は理解に苦しむかもしれないが、ま、そんなところなんだとスルーしてくれ。
 ただな、おまえさんの言う ’紙っぺら一枚’ で対応がころっと変わっちまう人界のルールと違って、俺たちの世界では事実こそが重要視される。
 そんな中で、カオルは鋼牙にとって特別な存在だと届け出た。
 それは、おまえが思うほど軽くないんだぜ?』

「なら、なんであたしには何も言ってくれないの?
 一言くらいあってもいいんじゃない?」

そう言いながら、カオルは鋼牙をチラッと見る。
それに気づいた鋼牙が、ほんの少し眉をひそめ、カオルの視線からそっと逃れる。

『おまえさんも知ってるだろ?
 鋼牙がどんな男なのか…
 まあ、そこは察してやってくれ』

それを聞いたカオルはちょっと考えて、複雑な顔をする。
そう、まるで、にやけそうになる顔を必死に抑えるような、そんな顔だ。

『さ、あとはおまえたちで仲直りするなり、…(ごにょごにょ)…するなり勝手にやってくれ』

そう言うと、ザルバはそれきり黙って意識を閉ざした。




「鋼牙…」

上目がちにカオルが鋼牙を見る。

「そばにいていいんだよね? どんなときも…」

何度もした質問をダメ押しとばかりにもう一度繰り返して期待を交えたように鋼牙の答えを待つカオルに、鋼牙は、ふっと表情をゆるめる。

「だから言っているだろう?
 たとえおまえから来なくても、俺はおまえの元に必ず帰る、と」

そう言って、鋼牙はカオルの腰をやや強引に引き寄せる。

「…うん」

恥じらいを含んで目を伏せるカオルに、鋼牙は彼女の顎をすくいあげると熱い唇を落とした。
チュッというリップ音とともに唇が離れた後、ふたりの視線が絡み合い、言葉ではないもので互いの想いを探り合った。
そして、また、引き寄せ合うように唇が触れ合うと、深く官能的な刺激を惜しげもなく与え合う。

そのとき、机の上の婚姻届けがハラリと床に落ちた。

紙っぺら一枚で結ばれる関係よりも熱く深いものを、鋼牙とカオルは自分たちの五感で感じ、受け止め、これから先も繋げていくことになるのだろう。
それが、このふたりの誓いの形なのだ。


fin
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あああ… こんな展開で正解なんだろうか?

書きあげた今、ちょっぴり不安に思っています。
途中、雲行きが怪しくなったり、出てくるとは思ってなかったザルバが登場したり、といった想定にないことが起こってひとりでヒヤヒヤしておりましたが…

うん、いい!
これはこれで、ひとつの妄想の形なのだ!
…と自分に言い聞かせることにいたします。

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も8年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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