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きんのまなざし ぎんのささやき

紙っぺら一枚で(2)

新型コロナに怯えつつ…
ブルーバックになりゃしないかとPCを気遣いつつ…
今日も妄想できる喜びをそっと噛みしめて。


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「…」

婚姻届けを間にして、鋼牙は無言でカオルを見つめる。
その彼の反応に、カオルは息を潜めながら尋常でないくらい速く大きくなる自分の鼓動を感じていた。

やがて、

  ふぅぅぅ

とわずかに視線を落としてから長く深く息を吐いた鋼牙が、再びひたっとカオルに視線を戻して口を開いた。

「どういうことだ?」

やや低めの声で問われたその言葉を聞いたカオルは、ひゅっと喉の奥で息を詰まらせた。

カオルは想像していたのだ。
カオルからの結婚の申し出に対して、鋼牙からは驚きなり、喜びなり、とにかく何らかの感情がこぼれるものと踏んでいた。
けれども、鋼牙の冷静な、そしてどこか無感情でもあるかのような反応は、鋼牙にとっての自分の存在というものの意義というか価値というかが、カオルが思うほど重くはないのかもしれないということを示しているように思えたのだった。
目の奥がジンと熱くなった。
泣いてしまいそうになるが、手をぎゅっと握りしめ、きゅっと下唇を噛んでそれに耐える。
そして、大きく深呼吸をすると、意識的にゆっくりと喋りだした。

「実は、今日ね…」





仕事の打合せが終わったカオルは、交差点で信号が青になるのを待っていた。
すると…

  キキキーッ

という耳障りなブレーキ音。
ビクリと大きく肩を跳ね上げさせて、カオルはすぐさま音のした方向を見ようとした。
だが、その動きよりも前に、グシャ、とも、ガシャ、ともいうような、大きな衝突音が聞こえ、目を向けた先の横断歩道を歩く人たちに向かって車が横滑りに突っ込んでいくのが見えた。

その瞬間、その場の音という音が一瞬かき消えたような気がした。
すべての人が動きを止まった気がした。
けれども、不自然な方向に突っ込む車と、その車に弾かれるように飛ばされる人だけがコマ送りで動いているようだった。

呼吸すら忘れ、大きく目を見開いたまま動けなくなったカオルだったが、

「いやーっ」

というすぐ隣にいた若い女性の声に、身体の拘束が解かれ、ハッとした。
叫び声をあげた女性が、道路上に倒れている男性に向かって一目散に駆けていくのを見て、条件反射のようにカオルもまた彼女を追って走っていた。

男性の近くまで来た女性は、そこで糸の切れた人形のようにぺたりと座り込み、信じられないものを見るように横たわる男性に視線を彷徨わせてから、

「カズ…キ?」

と震える手で彼の頬に触ろうとした。
だが、その手をカオルはそっと止める。

「っ!」

驚いた彼女がカオルを振り返る。
驚きと、なぜ止めるのか? という若干の不満が入り混じった彼女に対して、カオルはできるだけ穏やかに、でもきっぱりと言った。

「無闇に触れちゃ駄目だよ… 頭、打ってると思うから…」

そう彼女に言ってから、掴んだ彼女の手を両手で暖めるようにぎゅっと握る。
そして、

「今、あの人が救急車を呼んでくれてるみたいだから…」

と、前方で電話をしている人のほうをチラっと見て、

「すぐに来るから、救急車…
 それまで、彼を励ましましょう?」

と噛みしめるように言うと、固く目をつむって小さく唸っている男性に対して、

「もしもし、聞こえますか?
 もうすぐ救急車来ますからね!
 それまで頑張って!」

と声を掛けた。
それを見て、オロオロしているだけだった彼女も少し落ち着きを取り戻したようで、

「カズキ? 聞こえる?」

と震える声で倒れている彼に向かって呼びかけだした。

「ねえ、どこが痛い?
 大丈夫だからね?
 もうちょっと頑張って!」

思わず彼に取りすがって揺さぶりたくなるのを、カオルの手を握りしめることでこらえながら、彼女は苦しそうに呻(うめ)く彼に懸命に声を掛けた。




事故は、右折しようとした車が直進しようとした車に接触し、接触されたほうの車が横から押される形で横断歩道に突っ込んだものだった。
横断していて巻き込まれた人が3名。
そのうち1名は左足首を捻った程度の軽傷、1名は右腕を骨折しているようだが意識ははっきりとしており、カズキと呼ばれた男性が一番重症だった。
また、車のほうには同乗者はなく、運転していた2名にも大きな外傷はないようだった。

救急車は、程なくして現場に到着し、カズキが一番に搬送されることになった。そして、カズキの彼女だというチハルが彼とともに同乗することに。
だが、まだ、動揺し不安の残るチハルは、カオルにぜひ一緒に来てくれないかと懇願した。

「あたしひとりじゃどうしたらいいかわからない…
 ご迷惑だとは思うんですが… お願いします、一緒に来てもらえませんかっ?」

そんなやりとりの後、カオルはこくんとうなずいて、彼女に付き添うことを承諾した。
幸いなことにカズキの受け入れ先はすぐに決まり、無事に病院に着いた。

女性は、チハルといった。
カズキとは1年ほどの付き合いだとのことだった。

「どうしよう… もしもカズキが死んじゃったら…」

慌しく医師や看護師が走り回るのを、カオルたちは何もできずにただ不安に駆られながら待つしかできない中で、チハルの頭の中は悪い方へと傾いていく。
小刻みに身体を震わせながら、弱々しくそう呟くチハルの手を握りしめ、カオルは、

「先生もスタッフの人もみんな頑張ってるから…
 カズキさんを信じよう? ね?」

と声を掛けた。
すると、そこへ、カズキの処置の担当をするという医師がカオルたちに声を掛けてきた。

「ニシオカカズキさんのご家族の方でしょうか?」

チハルは、飛び跳ねるように立ち上がると

「はい! あ、いえ、家族ではないんですが。
 えっと、その… つ、付き添いの者です。
 あの、カズキは大丈夫なんでしょうか?」

と前のめりに尋ね返した。
すると、ああ、と気まずそうに医師の顔が曇った。

「まずは、怪我の状態を確認するため、レントゲンなどの検査を行っているところのですが、恐らく、その後、手術を行うことになります。
 で、申し訳ないのですが、当病院の規定では、ご家族以外の方にこれ以上の詳しいご説明などはできないことになっています」

「そんな…」

「ちなみに、あなたはニシオカさんのご家族の到着がいつ頃になるかご存じですか?」

「いえ…」

チハルの表情がどんどん暗くなる。

「そうですか…
 では、ご家族が到着されましたら、怪我の状態や手術についても説明させていただきます。
 今は患者の処置を優先させたいので、わたしはこれで…」

「…はい」

力なくチハルが返事をしたのを確認すると、医師に意識はすぐにカズキのほうに向いたらしく、足早に処置室のほうへと戻っていった。

あとに残されたチハルはがっくりとうなだれて、力なくベンチにすとんと腰を落とした。
悄然としたチハルに、カオルは掛けることを見つけられず、ただ寄り添いながら背中をさすることしかできなかった。


to be continued(3へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も8年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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