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きんのまなざし ぎんのささやき

誰も知らない(8)

なんか少しだけゴールが見えてきた気がします。
それが幻でないことを祈りつつ、忘れないうちに書かないと!
スルリと記憶からなくなってしまうその前に…


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「それを訊いてどうする?」

翼から返って来たのは意外な答えだった。
どうしても言いたくないようだ。

「どうって…」

答えに困った邪美は、そう言ったきり黙るしかなかった。
それを見た翼は、これでこの話は終わりだ、とばかりに、

「ここにいては身体が冷える。
 火のそばに行って、あったかい味噌汁を食おう」

と断定的に言って、歩き出した。

「…そうだね」

そう言って邪美も翼に大人しく従った。



ふたりが焚火のそばまで戻ってくると、薪がだいぶん燃え尽きていて火が小さくなっていた。
翼は急いで薪を足した。
大きくなった火を囲むようにしてふたりは座った。
そして、我雷が持たせてくれた握り飯とともに、翼のこしらえた味噌汁を空っぽの胃に落とし込んだ。

こう見えて翼はなかなか料理がうまい。
両親がなくなったとき、まだ幼かった妹の面倒をみたのは兄の翼だ。
鈴が大きくなった今では、家事のほとんどを鈴がしてくれるようにはなったが、昔は、掃除や洗濯はもちろん三度三度の食事もすべて翼が作ってきた。
しかも、真面目な翼のことだ。
どんな家事も完璧にできるようになるまでに時間はかからなかった。
だから、時間さえ許せば、鈴にも負けないくらいうまい料理が作れるのだ。

「おいしいね…」

「そうか。
 口に合ったのならよかった」

そんな会話を交わしながら、ふたりは穏やかな食事の時間を過ごした。

腹が満たされ、焚火の炎をぼんやり眺めているうちに、邪美は眠気を覚えた。

「なんだか眠くなってきたよ。
 そろそろ寝ようとするかね?」

と言って立ち上がった。

「そうだな…」

そう言いながら、翼の方は火のそばを離れる素振りを見せない。

「あんたは寝ないのかい?」

歩き出そうとする足を止めて邪美は翼に尋ねた。

「…俺はもう少ししてから寝ることにするよ」

「…」

邪美は何か言いかけたが、結局、

「そうか…」

と言って、先に小屋の方へ引き上げた。



邪美は布団の中で、小屋の天井を見ていた。
あれからどのくらい経っただろうか。
案の定、いくら待っても翼が小屋に戻ってくる気配はない。
いろいろ考えていたが、

(待つのは性に合わないね…)

という結論に達して、布団から這い出した。



外に出てみると、小さくなった焚火の火に照らされて、翼の横顔が見えた。
どうやら座ったままの姿勢で眠っているようだ。

軽く眉をひそませた邪美は、気配を殺してそっと翼に近づいた。
だが、翼の間合いに入ると、翼はパッと目を開き、邪美のほうを見た。
そして、邪美の姿を認めると、少し安心したように身体に入っていた力を抜いた。

「邪美…
 どうした? 眠れないのか?」

そう言いながら、翼は少し眠そうにまばたきをした。

「あんたこそ、どうしたのさ。 こんなとこで眠っちまって…
 里に帰ったら、またすぐに仕事だろ?
 横になって休まないと疲れだって取れやしないよ?」

邪美は悲しそうな顔をしてそう言った。

「それは…」

翼が答えられないでいると、邪美はまた口を開いた。

「あんたは閑岱を守る白夜騎士なんだよ?
 あたしなんかの面倒をみたせいで具合でも悪くされたら、鈴にも里のみんなにも合わせる顔がないよ…」

そう言った途端、翼は即座に否定した。

「そんなふうに言うな…」

「え?」

「そんなふうに言うんじゃない、と言ったんだ」

「何の話だい?」

話の見えない邪美は、再び翼に尋ねた。

「’あたしなんか’ などと言うもんじゃない。
 おまえだって俺と同じだ…
 閑岱の者にとっては、おまえも大事な仲間なんだ」

「…」

面と向かってそんなことを言われることに慣れていない邪美は戸惑った。

「それに…」

歯切れ悪く、翼は言葉を続ける。

「俺だって、いつも立派な魔戒騎士なわけではない。
 どうしようもない ’男’ になることだってある…」

「?」

翼の言っていることがどういうことなのかと邪美が考えていると、翼は少し苛立ったように言い放った。

「好きな女とふたりきりでいて、平静でいられる自信などない、ということだ!」

そう言うと、ぷいっと邪美から顔をそらせた。

「な…?!」

まさか翼の口からそんなことを聞くことがあるとは思っていなかった邪美は、正直驚いた。
これまでも、邪美に言い寄る男がいないこともなかったが、心底自分に惚れているのかどうかぐらい、すぐにわかるというものだ。
この女をモノにできたらラッキー、くらいにしか考えていない底の浅い男たちの愛の言葉などでドキドキしたりしたことなど一度もない。

それが、今はどうだ。
ドクドク波打つくらいの鼓動がものすごく近くで鳴っているように思えた。
カ~ッと顔が熱くなり、空気が薄い気がする。
一瞬、コクリュウダケの毒のせいかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

すると、そんな邪美の異変に翼が気付いた。

「どうした、邪美!
 苦しいのか?」

腰を浮かしかけた翼に顔を覗き込まれた邪美は

「なんでもないよ」

と言って、くるりと背中を向けた。
珍しいこともあるもんだが、今の邪美は翼の目を正面から受け止めることができなかった。
だが、そんなこととは知らない翼は、

「なんでもないことはないだろう?」

と心配そうに近づいた。

「なんでもないったら!」

そう言って、邪美は駆けだした。
が、すぐに後を追いかけた翼に手を掴まれる。

「どうしたんだ、邪美?」

振り向かされた邪美は恥ずかしくて顔を伏せる。
それでも邪美の気持ちに気付かない翼が、

「つらいのか?」

と顔を覗き込もうとするから、邪美は思い切って言った。

「ち、違うんだよ。
 なんだか恥ずかしくて、あんたの顔が見れないんだ!」

そう言われた翼は一瞬たじろいだが、まさかと思いながら、そろそろと邪美の様子を窺った。
顔を赤らめた邪美は、ほんとに恥ずかしそうで、その様子に翼はハッと胸を衝かれる。
翼は、邪美をぎゅっと抱きしめた。

(そろそろ観念したほうがよさそうだ。
 もう… 止められない…)


to be continued(9へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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