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きんのまなざし ぎんのささやき

闇夜の狼(6)

ようやく、時代劇を書くのが楽しくなりつつあります。
…と言っても、時代劇らしい描写はあんまりありませんが。

さてさて、戦闘シーンですよ、戦闘シーン。 …ああ、苦手だぁ


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片腕を失ったホラーは、もう片方の長い腕を鞭(むち)のようにしならせて、金色の狼の注意を逸(そ)らそうと右から左から打撃を加えた。
狼のほうはそれを造作もなくひらりと飛びのいたり、剣で受け流したりして実に落ち着いていた。
ホラーのほうは攻撃を仕掛けているにも関わらず、じりじりと後退していっている。

 クッ

苦し気に歪むホラーの顔。
確実に一歩一歩前進していた狼はふいに立ち止まると、剣を構えて腰を落とした。
険しい顔がより険しくなり、相手を睨みつける。
ホラーへと今まさに最後の一撃を加えようかというとき、その緊迫した空気を小さな悲鳴が震わせた。

(なに?)

鎧の下の浪人は初めて動揺し、注意を目の前のホラーに残したまま、視線だけを悲鳴のした方向に素早く転じた。
そこには、先程逃げたはずの娘が大きな杉の木の根元に立ち、しきりに足を動かしているのが見える。
どうやら、何かを振り落とそうとしているようだ。
娘の背後は明るい午後の日差しがあり、森の中にいるこちら側からは影絵のように見えていた。
その黒いシルエットの下の方、娘の足首あたりに何かゴツゴツとした塊がへばりついていた。

(あれは…)

『さっきおまえが切り落としたホラーの腕だ!』

鎧の左手の甲からザラザラとした人間の声とは違う声が飛んだ。
そこには、浪人姿のとき、男の腰に揺れていた根付けにそっくりな骸骨のような意匠のものが鎧と一体になった状態であった。

(ホラーが休みなく攻撃してきたのは、あの娘に忍び寄るための目くらましだったか…)

浪人がそう考えていると、その隙を突いてホラーの腕が狼の顔面を襲った。
間一髪、それを交わした狼だったが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。
狼の頬を掠めてさらに後ろへと伸びていったホラーの腕が、背後にある木の枝を掴み、それをグイッと引き寄せたのだ。
すると、その反動でホラーの身体のほうが木の枝へと引き寄せられるようにして物凄い勢いで突っ込んできた。
狼はそのホラーをよけきれずに、身体の正面でまともにくらってしまった。
よろよろとよろけた狼は、ブルンと首を振る。
ホラーは大きな高笑いをあげた。

「バッバッバッ、ヲガユチカア、ナサリシチン(ハッハッハッ、油断したな魔戒騎士よ)」

一瞬カッとなり、鬼のような形相になった浪人に、厳しい声が飛んできた。

『まずは目の前の敵に集中しろ!』

その的確な助言に、浪人は瞬時にして気持ちを静めた。

「承知!」

ホラーをギンと見据えると、金の鎧がまばゆい光を放って流星のごとく駆け抜けた。
泡を食って逃げ出そうとするホラーを金色の光は逃さなかった。

 ズバッ

ホラーの身体が袈裟掛けに断ち切られてまっぷたつに割れた。

 ギェェェェェ

震えが来るような断末魔の叫びを残して、ホラーの姿が黒煙のごとく消えていく。
ホラーを斬った後の ’残心’ の状態にある浪人。
が、すぐに叱咤するように声が飛ぶ。

『鋼之進! 娘の方だ!』

それを聞いた浪人はうむ、とうなづくと、鎧を解除して、すぐさま娘の元に走った。




「やだっ、もう! 離れてよぉ! やだったらやだ!」

おカオは落ちていた小枝を手に、自分の足を掴んでいる不気味な手をこづいていた。

 ザザッ

おカオの前に駆け付けた浪人に、おカオは顔をあげる。
口が少し開き、目尻に涙を滲ませて見上げる姿は、幼い少女のような印象を覚える。
が、しかし、浪人のほうは、そんなことどうでもいい。

「手をどけろ」

と素っ気なく言うと、すっと刀を抜いた。
まだ林の内側で薄暗いというのに、その刀身は光を集めて冷たく輝いた。

「!」

息を飲んだおカオは身じろぎもできずに固まる。

(も、もしかして、あたし、このお侍に斬られる!?)

目をぎゅうっとつむり、

(おとっつぁん、親不孝ばかりしてごめんなさい! おカオは、おカオは… いやぁ、死にたくないよぉ!)

とブルブル震えた。

浪人の手の中で刀がクルリと方向を変えられる。
逆手に握られたかと思うと、剣はまっすぐにおカオの足にしがみつくホラーの腕に突き刺さった。
すると、ホラーの腕がパッとおカオの手から離れ、あっという間に細かい黒い粒子に変化してバラバラと剥がれ落ち、剣にまとわりつくようにして立ち上ったかと思うと、空中に飛散して消えていった。



胸の前で手を固く握りしめ、目をつむりぶるぶる震えていたおカオだったが、どこかを斬りつけられたような痛みもなく、その反対にホラーの腕に強く握られていた足首が軽くなったと感じて、恐る恐る目を開けた。
さっきまで不気味な腕にまとわりつかれていたところには、今はもう何もない。
おカオは足を前に出したり、後ろにひょいっと上げたりしてみて、ようやく自分が自由になったことを実感した。

「大事ないか?」

無愛想な声が頭の上から降ってきた。

「あ、はい。大丈夫みたい…」

そう言って顔をあげると、浪人はすでに歩き出していた。

「あの、ちょっと…」

慌てて呼び止めるおカオに、浪人は足を止め、ほんの少しだけ顔を向けた。

「ここで見たことはすべて忘れることだ…」

何の感情も込めずにそう言うと、浪人はまた歩き始めた。

「あっ、待って! 待っ… 痛っ」

浪人の後を追うつもりで駆け出そうとしたおカオは急に感じた痛みに顔をしかめて、その場にへたり込んだ。

その様子に気付いた浪人は、このまま放っておこうかどうしようか逡巡したが、仕方がないと諦めにも似た思いで溜め息をつくと、くるりと踵(きびす)を返した。

「どうした?」

おカオのそばに膝をついて、おカオの顔を覗き込む。

「さっき、あの気持ち悪い手に掴まれていたところがキリキリと痛むの…」

おカオはそう言いながら、足首と膝との中間あたりを手で擦(さす)っている。

「見せてみろ」

相変わらず優しさのひとかけらもない声だったが、おカオは素直に従った。
おカオの手がどけられたので、浪人はそっとおカオの着物の裾の端をつまみ、少しめくった。

「ちょっと、そんなにめくんないでよっ!」

おカオは裾を抑えて、浪人に噛みつくように抗議した。

「…(ムスッ)」

誰がおまえなんか、とでも言いたそうに不機嫌な顔をした浪人だったが、今度は少し遠慮しながらおカオの足を見た。

(これは…)

驚きの表情で黙り込む浪人をよそに、おカオは不満そうな声をあげた。

「やだ、なんか黒くなってる。痣(あざ)になっちゃったのかなぁ。
 それに、ちょっと熱を持ってるみたい…」

おカオの足には1寸(約3cm)に満たないくらいの黒い痣があった。
その形は例えるなら、炎。
静かに燃えるその形からは、内に秘めた怪しげな不気味さが感じられた。



to be continued(7へ)
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