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きんのまなざし ぎんのささやき

闇夜の狼(8)

あらまあ、もう4月ですね。
梅の香りで始まったこの妄想話ですが、世間ではもう桜の時期なんですね。
こんなに長くかかるとは思ってませんでしたが…

それでは、生ぬる~い(へへへ…)時代劇牙狼の続きをどうぞ。




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そして、四半時(約30分)後。
難しい顔をして町医者は帰っていった。

おカオの熱の原因が判然としないのだ。
不思議なことに、おカオの足にあった ’正鵠(せいこく)の印’ は今は影も形も見えない。
こうなると、町医者にわかることは何もない。
栄養のあるものを食べさせ、静かに休んでいるように、と月並みなことを言うしかなかった。

『ま、わからなくても当然だな…』

帰っていく町医者の背を見送りながらザルバがつい小さな声で呟いたが、鋼之進がチラッと睨んで黙らせた。
鋼之進は稲荷社でザルバと交わした言葉を思い出していた。

『恐らくあの娘、一昼夜は熱でうなされることになるだろうよ。
 ただ、熱さえ引けばあとは特に身体の不調もないだろうな』

だが、もちろん ’正鵠(せいこく)の印’ が消えることはない。
おカオの命が尽きない限り、一生ホラーに付きまとわれることに…
そして、そうであればおカオの命もそう長くはない。

鋼之進は眉をひそめ、厳しい顔になる。
3寸(約9cm)ほど開いている襖(ふすま)の隙間から、隣室をチラリと見る。
おカオが玉の汗をかき、つらそうに熱にうなされ床に就いている。

そうこうしていると、帰る町医者を玄関先まで見送りに出ていたゴン造が戻ってきて、鋼之進の前に座った。
町医者が帰ったことでもあるし、このままここに居続けるわけにもいかないと思った鋼之進は、ゴン造に辞去の挨拶をする。

「某(それがし)の役目もどうやら終わった様子。
 そろそろ失礼つかまつる…」

左脇に置いてあった刀を手に取ると、立ち上がろうと腰を上げる。

「ああ、そうですかい? このたびは本当にお世話になりやした…
 ところで、旦那…」

玄関へと向かう鋼之進の後ろをついてきたゴン造が鋼之進に話を振る。

「今晩、行く当てがねぇんじゃありませんでしたかい?
 なら、どうでしょう。ここはひとつ、あっしに任せてもらうというわけには?」

「ん?」

何事かと足を止めた鋼之進が、ゴン造を振り返った。

「いえね、商売柄、この辺のことは大概あっしの耳に入ってくれんでさ。
 空きのある長屋のひとつやふたつ、あてがねぇこともねぇんでさ」

思いもしなかった申し出に驚いた鋼之進は、

「確かに行く当てなどござらぬが、どこぞの軒下にでも潜り込む故、心配ござらぬ。
 そのような気遣いは…」

と口ごもる。

「いやいや、おカオが世話になったんだ。このくれぇのことはなんということもねぇ。
 ですが、旦那、いくらあっしでもさすがに今晩から… という無理は言えねぇや。
 そういうわけで、ひとまず今晩は家(うち)に泊まってくんなせぇ」

そう言って、鋼之進の出方をゴン造は窺った。

「…」

鋼之進は少し考えを巡らせていたが、

「それでは、今晩だけは親分の言葉に甘えさせていただこう。
 これからのことは、また明日… ということでいかがか?」

と答えた。
それを聞いたゴン造は、うんうん、と肯いてから、

「へい。それじゃあ、決まりだ!」

と威勢よく宣言すると、いそいそと部屋の用意を始めた。





『おい、いいのか?』

ゴン造のいなくなったときにザルバが声をかけてきた。

「別に今晩一晩世話になるくらい、どうということはないであろう?」

『そりゃあそうだが…
 一番面倒がないのは、あの娘を斬っちまえば済む話だと…』

「ザルバ!」

ザルバの言葉を遮る鋼之進。

「今すぐにどうこうというわけではなかろう?
 それよりもザルバ…」

鋼之進は何事かをザルバに頼んだ。
鋼之進の言葉を聞き、ザルバは少し驚いた。

『鋼之進、おまえ…
 …わかった、やってみよう』

てっきりザルバから少なからず反対されると思っていた鋼之進だったが、殊の外(ことのほか)あっさりとした返事が返され、ザルバの意識はこの場から離れて別の世界へと帰っていった。
人間の住むこの人界(じんかい)とは別の闇の世界へ…

鋼之進は窓のそばに歩み寄ると、窓の外に目をやった。
浅葱(あさぎ)色の水をゆっくりと流れる水路が見えた。
春の光をきらきら反射して眩しい。
その水路を荷を乗せた船が往き、水路にかかる倉橋の上を江戸の住人が行き交っている。
決して豊かではないかもしれないが、それでも懸命に生きている人々たち。
その顔はみな生き生きとして、春の日差しに負けないくらい輝いていた。

鋼之進はこれからの… いや、すでに始まっているホラーとの闘いに闘志をたぎらせて空を仰いだ。



冴島鋼之進。
どこから来て、どこに流れていくのかは誰も知らない。
この男が江戸に来てから、江戸の闇夜に金の狼が疾駆するという噂が密やかに語られることになる。
だが、それはもう少しあとになってからのこと。



fin
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なんだか、最後はおカオちゃんの出番がなく寂しい展開になってしまいましたが、これにて時代劇牙狼!カン!(←拍子木)終了にてございまする~ カン、カン、カンカンカンカンカン…(←拍子木)

ゴン造親分さん、鋼之進さんのことを信頼するに値する男とどこかで思い込んだようで、長屋の世話をする気のようです。
おカオちゃんの熱が下がって元気になったら、また威勢よく浪人さんと丁々発止してほしいなぁ~
…なんて、夢のようなことを思いながら、しばし余韻に浸ります。
最後までこの生ぬるい時代劇牙狼にお付き合いいただきまして、ありがとうございまする~



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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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