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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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8月の終わりに(4)

「8月の終わりに」というタイトルなのに、そろそろ9月が終わっちゃう!
きゃ~! ほんとに早くしないと9月が終わっちゃうったら!




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とうとう花火も最後の2本になった。

「ふたりで1本ずつ、しよ?」

カオルが鋼牙の様子を窺うようにして、そう提案してみた。
ふたりで同時に同じことをする… そういうことをしてみたいというカオルの女心だ。
ところが、鋼牙は、それまでずっと楽しそうに花火をしていたカオルを見ていて、てっきり彼女は花火好きなんだとでも思ったのだろう。

「いや… 2本ともおまえがすればいい」

とツレない言葉を返すのだった。

(ンもう! そうじゃなくって!
 鋼牙とするのが重要なんじゃないのっ)

そんなふうに心の中でもどかしく思うカオルだったが、叫びたくなるのをぐっと飲み込んで「せっかくだから」とか「たまにはいいじゃない」などと当たり障りのないことを言って、鋼牙がその気になるよう努力してみる。
鋼牙にしてみたら、カオルの言いたいことはどうもはっきりとせず、困惑するしかなかったが、それでも彼女のなんだか一生懸命な様子を見ていると、「とりあえずは従っておいた方がいいようだ」ということだけは感じられて

「そうか… わかった」

と最後にはそう答えた。

(よくは解らないが、とにかく花火をすればいいんだな。ならば…)

「する」と決まったのならさっさとしよう。
そう考えた鋼牙は、残っている花火のうちの1本に手を伸ばして、すぐさま火をつけようとろうそくに近づけ…

「ちょーっ! 待って! 待って!」

フライングしようとする鋼牙に、カオルは慌てて腕に飛びついた。

(あぶない、あぶない…)

せっかく鋼牙と同じことができると喜んだカオルだったが、すんでのところで台無しになるところだった。
カオルは安堵とも諦めともつかない大きな溜め息をついた。

(ええい、もうこうなったら、遠回しに言うのはやめ!
 言いたいことははっきりと言わなくっちゃ!)

「あのね、鋼牙。
 あたしはふたり同時に火をつけたいの! そこんとこが重要なの!
 いい? バラバラじゃ意味ないの! わかった?」

物わかりの悪い子供にでも言って聞かせるように、一言一言に重みをつけてカオルは言った。
そして、その迫力に何も言えない鋼牙を無視して話を進める。

「じゃあ、いくよ? せーの、で、火をつけるんだからね?」

そう言われた鋼牙は、ああ、というのがやっとだった。
そして、カオルの

「せーのっ」

という言葉と同時に、ふたりはそれぞれ持っていた花火の先端をろうそくへとかざした。

  しゅーっ

2本の花火にほぼ同時に火がついたかと思うと、やがて小さな火花が生まれた。

  ぱちっ ぱちっ

とても小さな破裂音だったが、カオルにはそれがとても愛おしい音に聞こえていた。
そして、オレンジの光がじいーんと胸の中をあったかくさせるのだ。



とは言え、終焉は突然訪れるもの。



先に灯火(ともしび)が消えたのは鋼牙のほうだった。
あとはカオルの花火の玉が落ちるだけ…
カオルは、できるだけ手を動かさないようにして小刻みに揺れるそれを見つめた。
そして、いつの間にか無意識に心の中で念じていた。

(もうちょっと落ちないで! あとちょっとだけ…)

これが落ちてしまうと楽しい時間が終わるのだ。
じりじりと息の詰まりそうなその間、虫の声は休みなく草むらから聞こえていたはずだが、カオルの耳には全くと言っていいほど届いていなかった。
それに、カオルのうなじにかかる遅れ毛を揺らす風もかなり冷たくなってきていたはずだが、それすらも感じていなかった。
カオルにとっては、思いがけなくも、この夏も切れずに終わると思っていた浴衣を着る機会に恵まれ、しかも鋼牙と花火を楽しむということまでできたのだ。
この時間が少しでも長く続きますように… そんな想いでいっぱいだった。

ところが…

じわじわと確実に大きく成長していた火の玉が、花火の先端から離れていった。
それは、ゆっくり… ゆっくり… スローモーションのように見えた。
そして、ぽとりと地面に落ちて色を失くすと、カオルから思わず深い溜め息がこぼれた。
だが、それは自分のものだけではなかった。
どうしたわけか、カオルの耳には隣の方向からも聞こえてきたような気がしたのだ。

(え?)

カオルは、咄嗟に鋼牙の顔を見た。
が、そこにはいつもと変わらないクールな表情をした彼の顔しかなかった。
カオルの視線に気づいた鋼牙は、まるで何事もなかったかのように、どうした、という表情を見せた。
あれは空耳だったのかしら、とカオルは少なからぬ失望を覚えながら、同時に、何か言わなければ… と焦りを感じた。

「あ、いや… えっと… 終わっちゃったね」

「そうだな」

少しだけしんみりとした声でそう答えた鋼牙。
が、すぐに立ち上がると、

「ここはこのままにしておけばいいだろう。片付けは明日、すればいい」

と言い、さっさと屋敷の中に戻ろうとした。
そして、1~2歩歩きかけたが、後についてこようとしないカオルに気付くと振り返った。

「どうした?」

そう問う鋼牙に、

「あたし、もう少しここにいるよ。だって… そう、夜空を見ていたいの!」

空を見上げたカオルは、笑顔を見せてそう言った。
花火の余韻にもう少しここで浸りたい… そんな気持ちからそう言ったのだ。





カオルは庭の真ん中にいた。
花火が終わって屋敷に戻った鋼牙と別れ、ひとりで星を眺めていた。

(ああ、楽しかったな…)

大人だけの花火だったから子どもの頃と同じ感覚で、とはさすがにいかなかったが、それでも、ゆく夏を惜しみながら家族のように親しい人たちと興じる花火は間違いなくいい思い出になった。
振り仰ぐ夜空は、半球状にカオルをぐるりと取り囲み、降ってきそうなほど無数の星が瞬(またた)いていた。
そのままじっと見ていると次第に遠近感がわからなくなってきて、くらくらと眩暈のような感覚を覚えるほど夜空が迫って見える。
それはなんだか恐ろしいほどの存在感だった。

カオルは思わず、ブルッと身震いをする。

庭の芝は夜露がすでに降りていて、足袋を履いていないカオルの足先を濡らしてた。
冷たくなった足は感覚が鈍っていたが、それでも、さっきから、履き慣れない下駄のせいで鼻緒が擦れて痛いのは感じていた。

(そろそろ中に入ろうか…)

そう思い始めたとき、予兆もなく、びゅっと冷たい風が吹き過ぎていった。
カオルは、あっと小さく声をあげ、乱れる髪と裾をそれぞれ手で抑えて顔を伏せた。
風はすぐに収まったので少しホッとしたが、代わりに、庭から続く森の奥からザワザワとした木々の葉擦れの音が不気味に響いてきた。
恐ろしげに顔を歪めたカオルは、急に、夜の庭にひとりでいることに心細さを感じて、自分で自分の身を抱いた。

こうなれば、花火の余韻に浸るどころではない。
すでに、先程までの楽しかった気持ちなどは跡形もなくどこかへと消えていた。





一方、屋敷に戻った鋼牙は、夕食の後片付けをしているであろうゴンザの姿を求めてキッチンへと向かった。
鋼牙の気配に振り向いたゴンザは、にこやかに声をかける。
一言二言、ふたりは言葉を交わすと、ゴンザは鋼牙をその場に待たせてどこかへと消えていった。
手持ち無沙汰で待つ鋼牙。
しかし、さほど待たせることもなくゴンザが戻ってきたかと思うと、手にしたものを鋼牙に渡す。
ニコニコとなんだか嬉しそうなゴンザに見送られながら、鋼牙はキッチンを後にした。

ひとりになったゴンザ。
ふと何かを思いついたような素振りを見せると動き出した。
棚から小さなミルクパンをひとつ出してきて、それにミルクを注いで温め始めた。
コンロの前でミルクを眺めながら、ゴンザは鼻歌でも歌っているかのように上機嫌だった。

無声映画のように音もなく繰り広げられたこのシーンで、それぞれの言った言葉や声音、といったものは推測することしかできない。




一方、庭にいるカオルは、というと、

(もう中に入ろう!)

と思いながら、何か恐ろしい化け物でも潜んでいそうな暗い森を見ないようにしていた。
カオルの身体はすっかり冷えて縮こまり、心までも小さく萎んでいた。
痛む足を気にしながら、カオルは屋敷のほうに顔を向けると… そこには、屋敷のほうから歩いて来る鋼牙の姿があった。
手には、ゴンザから渡されたひざ掛けが…

「鋼牙…」

ホッと安心したように表情をゆるめ、カオルは呟いた。
カオルの目の前まで来て歩みを止めた鋼牙が、カオルを見下ろして言った。

「外は冷える。これを…」

ひざ掛けを差し出す鋼牙。

「ありがとう」

カオルは自然と笑顔になり、それを受け取った。
畳んであったひざ掛けを広げ、ふわりと身体を包み込ませると、

「あったかい…」

としみじみそう言い、また鋼牙を見上げて笑った。
そんなカオルに少しだけ柔らかい表情を見せた鋼牙が、

「行くぞ」

と言って踵(きびす)を返して屋敷へと歩き出した。

「あ…」

慌ててカオルが彼の後を追う。
草履のせいで足は痛んだが、いざとなれば鋼牙がいる。

(歩けないと言って甘えたら、鋼牙はどうするだろう?)

そんなことを想像しながら、カオルはうふふと小さく笑った。

屋敷にはすでに煌々と明かりがついていた。
花火の光にも似た暖光色に包まれている屋敷は、それ自体が自分のことを待ってくれているようにも思えた。
テラスから屋敷に入るドアをくぐり、温かく明るい室内に入って、カオルは心底ほっとした。

(あ、そうだ!
 ゴンザさんに何かあったかいものを貰おう!)

そう思いながら、カオルの足はキッチンへと向かうのだった。





ちょうどその頃のキッチンでは…
ゴンザが、甘くて温かいココアをマグカップに注いでいたところだった。


fin
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かなりバタバタしましたが、一応、「終わり」まで書けました。
いやん! 1ヶ月もズレてちゃ、感覚が追いつかない… すっかり秋なのに。
鼻水すすりながら、冷たい素麺を作っているような気分です。
(いや、たとえがちょっと汚いですね… (^_^;))

その冷たい素麺を「食べて!」と勧められるみなさんもお気の毒な気がします。
ごめんなさいねぇ~

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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