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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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月の光を集めて(10)

怒りの刃(やいば)叩きつけて! と、ばかりに、ホラーを一刀両断した零。
陰我を斬った零がこのあと迎えるのはつらく哀しい時間なのか…
どうか、その目でお確かめくださいませ。

2019/02/21 追記:
一度「fin」としたのですが、あとから1文付け足しました。
詳しいことは、あとがき部分に記載していますので、ご確認ください。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

  ガシャン

腹に響くような重たい金属音を残して絶狼の鎧が解かれ、その衝撃に耐えるために自然と全身に力が入っていた零は、小さく息を吐くと、それとともに身体の強張りもスッと抜けていった。

あいかわらず静かに降り注ぐ満月の光の下で、何事もなかったかのようにルピナスの花々は優しい風に吹かれて揺れていたが、つい先ほどまで闘いの場であったところにふと目を留めた零は、ゆっくりとそこへと歩み寄った。
そして、とあるところで足を止めると、その場に落ちていたものを拾い上げた。零が拾い上げたもの… それは、あの懐中時計だった。
闘いの影響なのか、零が見たときよりもずっと傷が増えていた。

零とホラーとの闘いを見守っていたサヤが、隠れていた大木の陰からそろりと現れた。
零はサヤを振り返ると、真っすぐに近づいていき、そして、サヤの目の前に懐中時計をぶら下げた。
サヤは一瞬哀し気な目を零に向けたが、すぐに懐中時計を見つめた。
ゆっくり差し出された手は細かく震えていたが、零がその手の中に懐中時計をそっと落とすと、その重みに少し手を下げつつもサヤはしっかりと受け取った。

手の中の懐中時計をじっと見つめるサヤの手は、もう震えてはいなかった。
受け取ったほうの手とは反対側の手で愛おしそうにそっと懐中時計を撫でるサヤの顔には、うっすらと笑みさえ浮かんでいた。

「ダイキ… おかえりなさい…」

サヤの小さく、けれどもとても澄んだ声が呟くと、それまで気丈だったサヤの目がみるみるうちに潤んでいくのが見えた。

零はそれを黙ってみていた。
わずかに、ほんのわずか少しだけ、痛ましそうな目をして。

やがて、懐中時計を撫でていたサヤの手が止まり、竜頭をそっと押した。
傷だらけではあったものの、懐中時計の蓋はパチンと小さな音を立てて開かれた。
すると、突如、不思議なことが起こった。
ルピナスの花を大きく揺らすようにザアッと一陣の風が吹き、目のくらむような真っ白な光に辺りが包まれたのだった。
零とサヤは髪を吹き乱されながら咄嗟に顔を背けたが、すぐに目の前の光景にハッとした。

青白い月光のもとで、まるでさざ波が立つように、そこにあるルピナスの花が一斉に開花していったのだ。
一面のルピナスの花が、月の光を集めて青く輝く。
それは、まるでダイヤモンドで縫い込まれたようにキラキラと輝く青い絨毯のように美しかった。

不思議なことはそれだけではない。
咲き誇るルピナスの花畑の真ん中に、ひとりの青年が佇んでいたのだ。
その姿は判然とはせず、ぼぉっとゆらめく陽炎の中にいるように儚いものだった。

「ダイキっ!」

サヤが驚きつつもその青年の名を呼んだ。
すると、青年は心底ほっとしたような穏やかな笑みを浮かべた。
そして、おもむろに口を開くと、声にならない声でサヤに呼び掛けた。

  ただいま…

零にはそんなふうに見えたが、サヤの目にはどう映っているだろう。
そんなふうに考えていたら、ふと何かに零は思い当たった。
すぐに、左手のグローブにはめ込まれた魔導具に対して小さく声を掛けた。

「シルヴァ?」

すると、シルヴァは、

『ほんの少し、彼に力を貸しただけよ』

と何でもないことのように、けれども少しだけ優しい声音で答えたのだった。
ザルバやシルヴァのような優れた魔導具には、死者の心情を受け取り、それを可視化させる力があるのだった。

零はシルヴァの返事にフッと表情を和らげ、サヤとダイキのつかの間の逢瀬を見守った。
が、ダイキの姿は一瞬、大きく揺らぐと、すぐにスウッと音もなく消えていった。
それを見たサヤは、ハッと小さく息を飲んだが、すぐに儚げな笑顔を浮かべて、懐中時計を胸にしっかりと抱き寄せた。

『あの魔戒騎士。
 ホラーに喰われてしまった後でも、ここに帰ってきたかったんじゃないかしら。
 だから、彼女のいるこの場所が見えるところに身を潜めていたのかもしれないわね…』

零に聞こえるだけの小さな声でシルヴァが呟く。
零はそれに肯定も否定もせず、黙ったまままっすぐに前を見ていた。

ダイキの姿が消えた後には、月光にキラキラと輝く満開のルピナスの花畑の光景が、ただ静かに、美しく広がっていた。





どこまでも青い空。
はるか上空を飛ぶ小さな鳥の影。
降り注ぐ柔らかい日差しに、頬を撫でる優しい風。

目の前に広がるルピナスの花畑を見渡しながら、3年前に出会ったサヤという女性との思い出がよみがえっていた。
大きく深呼吸をひとつしてから、零は、花畑のそばに建つ小屋へと近づいた。

だが、その小屋は一目で誰も住んでいないであろうことは明らかだった。
窓ガラスのところにはベニヤ板が張られ、入り口には大きな南京錠がぶら下がっていた。
それを見た零もシルヴァも何も言わず、ただ黙っていた。
零は、小屋に背を向け、再び花畑のほうへと振り返った。

すると、林を抜けてひとりの男が犬を連れて歩いてくるのが見えた。
男のほうも、零がいることに気づいたようだが、歩みをとめずに、ゆっくりと近づいてくる。

「やあ、こんにちは」

近くまで来た男は、顔の下半分が髭で覆われた、がっしりとした図体をしたクマのような男だった。
豪放快活な雰囲気のその男に、零も

「こんにちは」

と返事を返した。

「いやあ、今年もきれいに咲いたなぁ」

男は零に並ぶように立ち、花畑を見渡した。

「ほんとに。すごくきれいだ…」

零もそう答えて、もう一度ルピナスの花を見下ろす。
そして、男に尋ねた。

「ここへはよく?」

「まあ、そうだな。
 こいつが山歩きが好きでね。
 天気がいいときにたまに、って感じかな」

と、足元でルピナスの花の匂いをクンクン嗅いでいる犬を、男は顎で指しながら答えた。

「それじゃ、ここにいた女性のことを…」

そう言いかけて、零はすぐに、

「あ、いや… なんでもないや」

と言って話を中断した。そして、にっこりと人好きのする笑顔を見せて、

「俺、もう行きます。それじゃ…」

と別れを告げて歩き出した。
ズンズンと脇目も振らず、斜面を降りていく零の背中を、男はなんとなく見送った。
そして、零が言いかけてやめたことをぼんやりと考えた。

「女性、ねぇ…」

そう呟きながら、男は視線をググッと小屋の方へと向けた。
そして、あるものに目をとめて、ああ、と呟いた。

小屋の陰になる辺りに、小さな墓があった。
ありあわせの木切れで作ったような粗末な墓標が立っているだけの、小さな墓だった。



そう、あれは3年ほど前。
男が初めてここに来て、ルピナスの見事な花畑を見つけたときのこと。
その花畑の片隅で、眠るように息絶えている老婆の姿を見つけたのだった。
深く刻まれた顔や手の皺から見て、相当な高齢のように見えた。
だが、その顔には少女のようなあどけない無垢な笑顔が浮かんでいた。

その後、警察のほうでも老婆の死因や身元を調べたようだが、彼女には何の外傷もなく死因に不審な点はなかったし、氏素性も一切わからなかった。
そんなわけで、引き取りてもいない老婆の遺体は、この地に埋葬されることになったのだ。
発見されたときにしっかりと抱きしめるように持っていた懐中時計とともに…

「なあ、コテツ。
 さっきの青年は、あの婆さんと何か関係があるのかなぁ?」

男は、犬の頭を撫でながら、今ではもう見えなくなった零の姿を思い起こしていた。

男が老女の遺体を発見したのは、零がホラーを斬ったあの夜の翌日であったことは、誰も知らないことだが事実だった。





その頃。
林の中を歩く零に、シルヴァは声を掛けた。

『ねぇ、ゼロ?』

「なあに?」

『よかったの?
 あの男にサキのことをちゃんと聞いとかなくて…』

「別にいいんだよ、シルヴァ」

シルヴァの心配をよそに、零はサバサバとした調子で答える。

『でも… 気にならないの? 彼女のこと…』

なおもそう尋ねるシルヴァに、零はにっこりと笑いかけた。

「いいんだって。
 サヤがあれから心穏やかに暮らせているのか、それとも、そうでないのか…
 彼女の人生に俺がこれ以上関わり合う必要はないんだから」

『ゼロ…』

シルヴァの憂いを帯びた声も、零はスルーした。
そして、明るい声で言うのだ。

「さあ、シルヴァ。今日はどっちに向かえばいい?
 道案内、よろしく頼むよ?」

そう言われたシルヴァも、ようやく気持ちを切り替える。

『ふふふ、任せて!』



(ホラーを狩るのが魔戒騎士。
 それが、俺の成すべきこと…)

余裕のある笑みを浮かべた零は、初夏の緑輝く林の中を漆黒のコートの裾を翻しながら、次の闘いの場所へと向かうのであった。



Fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


ルピナスの花の名前の由来が ’狼’ だと知ったときから、ずっと、何らかの形でぜひお話にしたいと願っていました。
花と言えば、K田監督。(ひまわりとか使われてますね)
なので、ルピナスを取り上げたこの話も、なんとなく自然に零くんの話になっていました。

だいたい ’切ない話’ 担当の零くんですが、零くんの ’男っぽさ’ がやっぱり好きなので、切ないだけにもしたくないなと、いつも葛藤しちゃいます。

どうですか? あなたはどんなふうに受け止めましたか?
いつもながら、のらりくらりの気ままな妄想でしたが、少しでもお楽しみいただけたなら嬉しいです。


2019/02/21 追記:
一度「fin」としたのですが、「ホラーとの闘いの翌日に老女の遺体が発見された」という記述を追加させていただきました。

また、本編に書き忘れた(というか入れるべきタイミングがなくなってしまった)シーンがありますので、もったいないからちょいと書き留めておきます。

それは、レオからの2回目の調査報告のシーンでした。
ホラーとの闘いの後にでも淹れようかな… と思っていましたが、すっかり忘れていました。
ま、今となっては、入れずにおいたほうが、サヤとの別れがサラッときれいに終わってよかったかなと思ってます。

---------- 書き忘れたシーン(ここから) ----------

そんなところに、また、空の彼方からレオの便りが届いた。

  零さん、遅くなりました。
  サヤという魔戒法師の存在が、ようやく確認できました。
  ただし、僕が見つけた人物は、零さんのいう魔戒法師とは別人の可能性が非常に高いです。
  というのも、僕が見つけたのは今から50年以上も前の古い記録だったからです。
  恐らく、これ以上の調査は意味がないと思われるので、僕のほうの調査はここで止めます。
  もし、また何かあれば連絡ください。

『どういうことかしら?
 あのサヤって女は、魔戒法師ではなかったってこと?』

いぶかし気に呟くシルヴァに、零も

「さあね、なんとも言えないな」

と答えるだけだった。
サヤが本当に魔戒法師だったかどうかは、今となってはどちらでもいいと、零はそう思っていた。

---------- 書き忘れたシーン(ここまで)----------

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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