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きんのまなざし ぎんのささやき

月の光を集めて(8)

そろそろ物語の核心に近づかないと行けません!
ええ、ええ、ホラーを逃がしてばかりの情けない零の姿ばかりをお見せしていたのでは、あまりに彼が気の毒ですから。

はてさて、いつになったら、かっこいい零の姿をお見せできるでしょうね。
うん、がんばれっ、自分!


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「ねぇシルヴァ?
 この懐中時計からホラーの気配はしないかい?」

零はそう言うと、懐中時計に向けてシルヴァを突き付けた。
シルヴァは無言のまま、集中してホラーの気配を探るが、やがて小さく息を吐き、

『大丈夫よ、ゼロ。
 少しもそんな気配は伺えないわ』

と答えた。

「そっか…」

呟くように返事をした零は、無意識に顎をさすりながら何事かを考え始めた。
やがて、顎を触っていた手の動きが止まり、顎から手が降りていくを見たシルヴァは

『どうするの、ゼロ?』

と尋ねた。
ゼロの瞳はまだ迷っているふうではあったが、口から出て来た言葉ははっきりしていた。

「サヤのところに行くよ」

そして、その言葉を言い終わると、ふわりと宙に身体を投げ出して、高い木の上から一気に地上へと降り立った。





  カツ、カツ、カツ…

静けさを破って、窓ガラスを叩く小さな音が鳴ったので、ランプの明かりのもとで本を読んでいたサヤが、ハッとして顔を上げた。
真っ暗な窓の外に、今さっき聞こえた音を鳴らしたと思われる手が白っぽく浮かびあがるように見えた。

こんな夜更けに誰だろうと訝(いぶか)しく思ったサヤは、眉をひそめ、用心しながらそろそろと窓に近づいていった。
すると、それまで見えていた手が引っ込んで、その代わりに人の顔がにゅっと出て来た。
それを見たサヤは思わず、

「きゃっ」

と小さく悲鳴をあげたが、すぐに窓の外から声が掛けられた。

「俺だよ、俺。涼邑零だ」

厚みが均等ではない窓ガラスの向こう側で、少し歪んで見える零の顔がにっこりと笑った。
それを見たサヤは、緊張で跳ね上がっていた肩を、はぁっという安堵の吐息とともに降ろした。
そして、その足で玄関へと向かうと、鍵を開けてゆっくりとドアを開けた。

「こんばんは」

戸口には先程見たのと同じ、笑みを浮かべた零の姿があった。

ここが人里離れた場所で、夜もとっぷりと更けていて、しかも、つい最近会ったばかりの相手だということなんか全てをついつい忘れてしまうほどに、ごく自然に零は佇(たたず)んでいた。
彼以外では許されないような、懐にすっと入り込む人懐こさに、サヤは戸惑いを通り越して、なんだか可笑しく思えてしまい、笑っていた。

「クスクス… こんばんは
 どうしたの? 何か用?」

そんなふうに笑いながら迎えたサヤだったが、ハッと息を飲むと、すぐに強張った顔になった。

「ひょっとして、またホラーが現れたの?」

そう言って辺りを警戒するサヤに、零は意識してゆったりとした口調で答えた。
「うん、それもあるんだけど…
 あのね、実は、あなたに見てもらいたいものがあって来たんだよ…」

何かしら、というふうに少し身を乗り出したサヤに、零は懐から懐中時計を取り出してた。
シャラシャラと鎖が音を立てて解(ほど)けていったそれは、サヤの目の前で、ブランブランと揺れていた。
その揺れが徐々に収まるのと反比例するように、サヤの目が大きく見開かれていく。

「これ…」

掠れた声が、やっとというふうにサヤの口から零れた。
その様子を、零は黙って見ているが、その顔にはもはや笑みは浮かんでいなかった。
だが、そんな零の変化にも気づかないサヤは、震える手で懐中時計に触れようとした。
が、あと少しというところで、スッと遠ざけられて、それに触れることは叶わなかった。
そこで、初めて弾かれたように零の顔を見たサヤが、

「それ、どこで手に入れたの?
 これを持っていた人のこと、何か知っているの?
 ね、お願い! もっとよくそれを見せてちょうだいっ!」

とものすごい勢いで叫んでいた。

顔から笑みの消えた零は、まっすぐにサヤを見て言った。

「これは、そこの林の中で拾ったんだよ。
 あなたはこれに見覚えがあるんだね?」

そう言うと再びサヤのほうにそれを差し出し、サヤが広げた彼女の手のひらにゆっくりと置いた。
ずしりと感じた重みに、わずかにサヤの手が下がる。
ああ、と声にならない声が彼女の口から洩れて、サヤは手の中の時計を震えながら確かめた。
そして、

「これは… ええ、そう… 多分、間違いないわ…
 私がダイキに贈ったものよ…」

と目を潤ませながら、そう言った。
そして、おもむろに竜頭(りゅうず)の部分を押して蓋を開けようとしたが、零がそうしたときと同じように蓋は開かなかった。

(あれ?)

サヤの表情に疑問符が浮かび、カチャカチャと何度も試みている彼女に向かい、零は

「開かないみたいなんだ、それ…」

とだけ言った。
そして、

「もう少し、それについて教えてくれないかな?」

と言った。





さっきまで掛かっていた雲が消え、空に月が輝いていた。
今宵の月は満月だ。
昼間というほどではないにしろ、白く明るい光が、ようやく5~6割の花が開いたルピナスの花畑を照らしている。

「ダイキは私のとても大事な人なの。そして、魔戒騎士…
 ある日、彼に番犬所からの指令が届き、この地から旅立っていったわ。
 その旅立ちの朝。私はこの、父が遺した懐中時計を彼に託したの…」

ルピナスの花畑を前に、サヤは零に語りだした。
サヤの目は、ルピナスの花を見ているようでいて、もっと遠いところを見ているようだった。




「ダイキ… 必ず戻ってきてね?」

「ああ、当たり前だ。
 寂しがり屋のお前を、いつまでも一人ぼっちにしておけないからな」

「ほんとだよ?」

すがるようにダイキを見つめるサヤ。
ダイキはそんなサヤを安心させるように穏やかに笑って、大きな手をサヤの頭にポンと乗せる。

「俺が約束破ったことあったか?」

ダイキに至近距離で覗き込まれたサヤが、頬を少し赤らめながらも首を横に振った。

「ううん…」

そんな健気なサヤに、ダイキは一層優しい笑顔を見せ、頭に乗せていた手を彼女の頬に降ろす。

「サヤ…」

ホラーの前では勇猛果敢なダイキが切なげに彼女の名を呼び、そっと触れるキスで唇をふさいだ。
そのキスを目を閉じて受けていたサヤが、唇からダイキの温もりが無くなったのを感じて、そっとまつげを震わせて目を開けてみると、そこにはすでに彼の姿はなく、彼のマントが林の木々の中に消えていくのがチラリと見えただけだった。


to be continued(9へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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