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きんのまなざし ぎんのささやき

春のよい(1)

春ってだけで心がウキウキするのは、単純だからでしょうか?
そのちょっとお目出たい頭のまま妄想したら、こんなの浮かんできたんですが…
よろしければ、お付き合いを…


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瞼が重い。
それにも増して、身体のほうも重たかった。

それなのに、ふわふわと宇宙にでもほっぽり出されたような浮遊感を感じている。そんな不思議な感覚…

カオルはどうにかして意識を覚醒させようとしたがどうしようもできず、そのまま深く温かい眠りの中に身を沈めていった…





その少し前。
鋼牙は、仕事を終えて屋敷に戻ると、ゴンザが慌てて出迎えに駆けてくる。

「おかえりなさいませ、鋼牙様」

言葉をかけながら、ゴンザがようやく玄関にたどり着く。
いつにないその様子を怪訝に思った鋼牙が、

「何かあったのか?」

と尋ねた。

「はい、それが…」

情けなさそうに眉を下げてわずかに言い淀むゴンザを従えながら、鋼牙はリビングへと足を向けた。
そして、リビングのドアを開けて中に入ったところで、ゴンザの当惑の原因がなんであるのかがわかった。
ふうっと重い吐息をつく鋼牙の視線の先には…

着ているカーディガンとよく似たバーガンディ色のワインの入ったグラスを持ち、ぽぉっと頬を赤く染めながらユラユラと上体を揺らしているカオルの姿があった。

鋼牙はそんなカオルから視線を外してコート掛けの前まで進むと、脱いだコートをゴンザに手渡した。
それを受け取りながらゴンザは、

「少し飲みたい気分だから、とご用意したのですが、気が付いたらこのような状態でして…
 いえ、量はそれほどお召し上がりになっておりません。
 ただ、お仕事でよほどお疲れだったのかもしれません… 申し訳ございません」

と頭を下げて謝った。
鋼牙はちらりとゴンザに視線をくれて

「気にするな」

とだけ言ってから、気持ちよさそうにしているカオルの前に、テーブルをはさむ形で立った。

「おい、帰ったぞ」

やや低い声でカオルに声を掛ける。
すると、視線の定まっていなかったカオルが、声の主を探してゆるゆると視線を上げて、鋼牙の顔を見た。

「あれっ? こぉーが? いま帰ってきらの?
 おかえりなしゃぁぁぁい!」

若干、呂律が怪しいカオルは、顔をふにゃあっと緩ませて子供のような笑顔を見せる。
そんなカオルに、鋼牙はどきっとしつつ、自然とニヤけそうになった顔を慌てて引き締めた。

「なにが ’おかえりなさい’ だ。
 ほら、それはもう置いてっ! 寝るぞっ!」

威厳を保つよう故意に声を落としてそう言うと、カオルの手からワイングラスを奪おうと手を伸ばす。
だが、それより先に、やだ、とばかりにカオルはグラスを引いて自分の身体で隠そうとする。

「ダ~メッ!
 もうちょっと!」

ぷぅっと頬を膨らませ、甘えたような声のカオルに、鋼牙は可愛くて仕方がないとばかりに目を細める。
だが、それも、次にカオルの口から零れた言葉で一瞬のうちに引っ込んでしまうのだった。

「あっ、そうだ。
 ねぇ、こうが、おかえりなさいのチューは?」

おもわずギョッとするのと、背後に立つゴンザの「えっ」という声とが重なった。
ハッとして後ろを振り返ると、ゴンザが慌てて口を塞ぐのとが同時だった。
そして、ゴンザは、鋼牙と目が合った途端に、自分の耳を両手で塞いでフルフルと小刻みに首を横に振るのだった。
わたくしは何も聞いておりません、とでも言いたいのだろう。
それを見た鋼牙はグッと苦い顔をしたが、そんなことは構わず、カオルが止まらない。

「ね~え~ してくれないのぉ? こぉ~がぁ~」

鋼牙はチッと舌打ちをして、すぐに次の行動に出た。

長い足であっという間にテーブルを回りこんでカオルの横に来ると、さっさとカオルからグラスを奪い取り、1/3ほど残っていたワインをグイっと一気に飲み干して、テーブルにドンと置いたのだ。
そして、カオルの手をグイっと引っ張り上げて立たせると、ふらつくカオルを軽々と横抱きにしていた。

「カオルを連れていく… 片づけを頼む」

ゴンザのほうをチラとも見ずにそう言った鋼牙は、そのまま、リビングを後にした。
後に残されたゴンザはしばし茫然として動きを止めていたが、そのうちにフフフと笑みを浮かべた。
そして、後片付けをしようとテーブルに近づくと、先程、少々乱暴に置かれたグラスを手に取り、割れてはいないか真剣な顔で見分(けんぶん)し始めた。





寝室にたどりついた鋼牙は、ベッドの上にカオルをそっと降ろした。
呑気なことに、カオルはむにゃむにゃと夢の国に旅立っているようだった。
しあわせそうな彼女の寝顔を見下ろしながら、鋼牙ははぁぁぁっと深い溜め息をついた。





真夜中。
カオルはふと目が覚めた。

(喉、乾いたな…)

そう思いながら手を胸元に置いたところ、いつも着ているパジャマとは違う手触りにハッとして、自分の着ているものを見た。
すると、パジャマではなく、カーディガンであることがすぐにわかった。

(あれ? あたし、着替えてない?)

そう思って、記憶を何とか遡(さかのぼ)ろうとして、ぼんやりと思い出した。
(ワインを少し飲んで、いい気持ちになって…
 鋼牙が帰ってきたような…
 う~ん、その後どうしたっけ?)

ところどころ記憶が定かではないが、それならば考えてみたところでしょうがない。
とにかく、とカオルは着替えようと思い、そっとベッドから身を起こした。

「…起きたのか?」

低く少しかすれた声がカオルに呼びかけた。
どうやら隣に眠る鋼牙を起こしてしまったようだ。

「あ… ごめん、起こしちゃった?
 あの、着替えようと思って… それに喉も乾いたし…

 あっそうだ、ひょっとして、鋼牙がここまで運んでくれた?
 ごめんね、大変ご迷惑をおかけしました」

ベッドの上で正座をして、カオルが勢いよく頭を下げた。
だが、その動きでクラッとしたのか、手で目元を覆うのを見て、鋼牙がガバッと布団から跳ね起きた。

「大丈夫か?」

「うん… 大丈夫…」

そう言って、カオルは小さく笑顔を作る。
その笑顔が儚げで、鋼牙の庇護欲を刺激する。
思わず、彼女の頬に手を伸ばし、指の背でそっと撫でる。
鋼牙にじっと見つめられて、照れたカオルがはにかんだ表情を見せる。
すると、鋼牙はフッと笑い、呟いた。

「さっきの酔っ払いとは別人だな」

それを聞いたカオルが心配そうな顔になる。

「え? あたし、何か変なことした?」

「覚えてないのか?
 おかえりのチューをしろ、とせがんだことを…」

「え? やだっ? えええっ? ほんとにぃ!?」



to be continued
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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