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きんのまなざし ぎんのささやき

月の光を集めて(9)

お待たせしました! 2週間振りです!
結構な山場を迎えていたのに、間が空いてしまってすいませんでした。

それにしても…
この2週間のブランクで、自分のテンションをどんなふうに盛り上げていいやらわからなくなっています。
嗚呼、ちゃんとつながるかな? 大丈夫かな…


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しばらく黙り込んでいたサヤがまた口を開く。

「ねえ、零?
 ルピナスって花の名前の由来って知ってる?」

零は黙って首を横に振った。

「ラテン語で、’狼’のことを ’ループス’ って言うんですって。
 ルピナスはすごく丈夫で強い花だから、そのたくましさを ’狼’ に例えたらしいの。
 だから、わたしはここをルピナスでいっぱいにしようと思って…
 ね? 魔戒騎士の帰りを迎えるのに、これ以上ふさわしい花はないでしょ?」
そう言ってきれいに笑ったサヤだったが、すぐに、

「でも… それも無駄になっちゃったのかな…」

と弱々しい呟きをこぼした。
そんな彼女を、零は隣で切なげに見守るしかできなかった。

やがて、彼女の震える唇が歌うような節回しで魔戒語を唱えだした。

  らあかお ぷぢ
   とめがせゆ りおっけ
    やかちば るかるおげつ

 (あなたの無事
   それだけを祈って
    わたしは歌うのです)

細くか弱い声だったが、彼女のこれまでの想いをすべて乗せた歌声は風に乗ってどこまでも届くようにも思えた。
そんな彼女の歌声に、震えるようにルピナスがサワサワと揺れているのを、零は哀し気に見つめていた。

  りくおびさ
   とる りくおびさ
    らあかいなかられむそこゆ
  やかちばちよぢけなきくぐせなつ

 (いつの日か
   そう いつの日か
    あなたにまたあえることを
  わたしはしんじてまちつづけます)

恋人の無事な帰りを祈った彼女の歌声が満月の照らす夜に溶けていき、その美しく哀しい余韻に、思わず零が細く長い吐息を落としたとき、その場の空気が急激にビリビリと震えだした。

すぐさまサヤを後ろに庇い、双剣に手をかけた零は、背後のサヤの声にハッとした。

「零っ、これっ!」

慌てて振り向いた零に、サヤは、手の中の懐中時計を差し出した。
固く閉ざされて開かないはずの懐中時計の蓋の隙間から、毒々しい赤みがかった光が漏れていた。
それを見た零はすぐさまサヤの手からそれを奪い、空中高くに放り投げた。

すると、中空で最高到達点に届いた懐中時計が一瞬動きを止めたかと思うと、パックリと蓋が開き、腐りかかったドス黒い血のようなものが流れ出してきて、それが見る間に一体のホラーの姿を成していた。

『ゼロッ』

「ああ。
 やっぱり、やつはここに隠れていたようだ」

そう。零がずっと追っていて、何度もあの林で取り逃がしていた、あのホラーの姿だった。

息を飲んだまま身動きできないサヤに、零は厳しい声を掛ける。

「なにしてる! さっさと行け!」

その声にハッとしたサヤは、表情を引き締めてその場を駆けだした。
さあ、これで心置きなく目の前のホラーとの闘いに集中できるとばかりに、零は双剣をくるりと回してわずかに腰を落とした。

「今日こそはおまえに引導を渡してやるよ」

不敵に微笑む零に、ホラーも余裕の姿勢を崩さない。

『らーら。るなすいぜろろてむころのっかよがせごあ』
(あーあ。上手く逃げおおせると思ったんだけどな)

「そいつは残念だったな。
 もう諦めなっ」

そう言うなり零は地面を蹴っていた。
渾身の一撃をホラーに叩き込むが、いつの間にかホラーの手にも黒くゴツゴツとした剣が握られていて、零の剣をすんでのところで受けていた。
そのままギリギリと力で押し込むが、ホラーもまた力で零の剣に受けて立つ。
そんななかで、零がホラーに

「あの懐中時計を持っていた魔戒騎士をどうしたっ」

と押し殺したような声で問うた。
それに対してホラーはニヤッと嫌な笑いを浮かべて、

『すっかいしなっけむがも?』
(喰ったに決まっているだろ?)

とねっとりとした声で言った。
そして、ああ、そう言えば、とでもいうふうに

『とるとる。ろめばごるちけのされまえぱあまよ、こりっけかっせ
 かさざいよぜよぶでりざ、とよあそこぬみいしなっけむおい』
(そうそう。俺はどうしてもかえらねばならん、と言ってたっけ。
 たかが人間風情が、そんなこと無理に決まってるのに…)

と続けた。
下卑た笑いを堪えようともしないホラーに、零の顔が憎々し気に歪む。
そして、力の限りホラーの剣を弾くと、後ろにポンと飛びのいてホラーとの離を取った。

青いルピナスの花々を背に、零がすっくと立ちあがる。
その顔には、もはや憎しみも哀しみもなんの表情も浮かんではいない。
満月の青白い光が冴え冴えと冷たく研ぎ澄まされたようなまなざしの零を照らしていた。

「貴様の陰我は、俺が断ち切る…」

そう静かに声を出して言った零が、剣を空へとクロスして突き立てる。
そのままくるりと翻った剣が中空を丸く切り裂いて振り下ろされると、ガシンと重い音を響かせて白銀の鎧が零の身体を覆った。
その波動が一陣の風となり、ルピナスの草原を大きく揺らし、ホラーは一歩後退り、離れた場所で大木の陰に身を潜めていたサヤも顔の前に手をかざした。

月光を受けてほんのり青く光る絶狼は、絶対の力を宿す神のように神々しかった。

絶狼はホラーを見据えるとすっと腰を下ろし、次の瞬間、高く飛んだ。
そして、そのまま双剣を高く掲げて一直線にホラーへと振り下ろす。
ホラーは身体が固まったようにその場を動くことができずに、絶狼の渾身の剣をそのまま自分の剣で受け止めようと顔の前にかざした。

  ギュイーン

と金属同士の擦れる耳障りな音が響き、双方の剣がガッチリと合わさった。
ホラーは必死の形相で振り下ろされた剣を凌ごうとするが、絶狼の剣はビクとも動かない。

『ぐぐぐ…』

苦し気にうめき声をあげるホラーは、とうとう片膝を地面に着いた。
が、絶狼は相変わらず月光を受けて冷たく光る表情を少しも変えない。
焦れたホラーは

『うおおおお』

と雄たけびをあげて、力任せに絶狼の剣を弾いた。
が、それとともに一歩軽々と後ろに飛んだ絶狼は、そのまま双剣をクロスに振り下ろし、ホラーの身体を切り裂いた。

『ぎやあああああ』

ホラーの断末魔が静かな夜に響き渡る。
が、それもすぐに途絶え、塵となり消えゆくホラーの身体を草原を渡る風がくるくると上空へと舞い上げていった。


to be continued(10へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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