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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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癒えぬ傷(1)

久々に蒼哭ノ魔竜のDVDを引っ張り出してきました。
どうしてかって?
美佳ちゃんの結婚を受けて、鋼牙さんとカオルちゃんの抱擁が見たくなって… デス!

全編見る時間はなかったので、冒頭とラストだけを鑑賞し、そして、この妄想に至ります。

あっ、ちなみに、蒼哭ノ魔竜にも絡みますが、DRAGON BLOODにも絡みますので、それを念頭にお読みくださいませ。


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月の光のような冴え冴えとした光を放ち、絶狼は、ホラーに最後の一太刀を振るった。
切り裂かれたホラーの傷口からどす黒い血が噴き出すのを、零は鎧の放つ光よりも冷たく冷めきった眼差しで見ていた。
と、そのときふと、ある考えがよぎった。

(ああ、この返り血を浴びれば、この世ともおさらばできるのか…)

それもまたアリかな、などと、ひどく虚脱した中で考えていたのだが、シルヴァにそれが伝わったのか、

「ゼロっ!」

と鋭くその名を呼んだ。
それにハッとしたときには、零の胸元にホラーの返り血が勢いをそのままにぶつかっていたが、ソウルメタル製の鎧に触れるや否やホラーの忌まわしい血は白い蒸気を残して雲散していた。

ホラーの身体が黒い霧と化し消えてしまった後に、ようやく零は鎧を解いた。
もちろん、零の身は無事で息の乱れもなく、汗のひとつもかいていなかった。
まだ、その両手に握られたままの双剣だけが、今しがたホラーとの闘いがあったことを表す唯一の証になっていた。
だが、それも、くるりと手首を返されて見えなくなると、零は自虐的な笑いをふっと浮かべただけで何も言わずに歩き出し、闘いの場をあとにした。



シルヴァは、深い溜め息をついた。

そんなシルヴァに、間違いなく気づいているだろうに、零は何も言わない。

いつもの零なら、パートナーとして共に闘った魔導具を労(ねぎら)う「お疲れさん」という優しい言葉であったり、「あ~、終わった、終わった。いやぁ、お腹すいたな~」という少しおどけたような言葉を口にしたりして、ホラーとの闘いの時間との区切りをつけていた。
けれども、ここ最近の零からはそんな言葉は一切出ていない。
そう、あんなことがあってから…

あんなこと…

零は、少し前に、尋海アリスというひとりの少女に出会っていた。
そして、彼女を… 失った。

彼女を守り切れなかった零が感じているのは、

「黄金騎士、牙狼にも匹敵する実力だと広く認められているこの俺が…」

などという陳腐なプライドを粉々にされた屈辱なんかでは、決してなかった。

また、守れなかった…
自分の身よりもずっとずっと大事にしたいと思った少女の命を、また目の前で失ってしまった底知れない哀しさ、喪失感に、零はただただ打ちのめされたのだった。

それからだ。
零から、感情が消えてしまったようになっていた。
ホラーに対して憎いとも怖いともなんとも感じない。
命のやりとりを行うことに対しての緊張感や高揚感も何もない。
そして、ホラーを無事に斬ることできても、達成感も安堵感もない。
まるで、ホラーを斬る機械か何かのようになってしまっていた。

そんな零に対して、そして、そんな零に何もしてやれない自分に対して、シルヴァは深い溜め息をつくしかなくなっていた。





その知らせが届いたのは、指令を達成した報告をしに、零が元老院に出向いたときのことだった。

「サバック?」

元老院の長い廊下を並んで歩いているレオを、零は振り返った。

「ええ。
 この次の十日夜(とおかんや)の日からの七日間、開催されるそうです。
 もちろん、零さんも出ますよね?」

レオはふんわりと笑いながら答えた。
だが、零はそれにはすぐに答えず、少し考えるように視線を下に向けた。
レオの知る零なら、すぐさま

「出る、出る! もちろんさ!」

と明るく言いそうに思えたのだが、どうやら乗り気じゃないらしい。
レオも笑顔を引っ込めて少し心配そうな表情をしたが、それを深く追求することはしなかった。
すぐに穏やかな顔を作り、

「翼さん… でしたっけ、閑岱の…。あの人、開催地が閑岱だからかなのか、すごく張り切っているって噂を聞いてます。
なんでも優勝者の最有力候補だと前評判が高いらしいですよ」

と言って、素知らぬ振りをした。
詳しいことは解らなかったが、きっと何かがあったのだろう。

普段の快活な零とは違い、まるで自分自身が兄を失くしたときと同じような痛ましさを零から嗅ぎ取ったレオは、自分のときに零からされたのと同じように接しようと思っていた。

つまり、「つかず離れず」ってやつだ。

遠慮して疎遠になるでもなく、親切ヅラしてズカズカと踏み込むでもなく…
シグマのことがあってから、零は、いつだってごく自然にレオに対して優しさを示してくれていた。
自分のことでいっぱいいっぱいだった当時のレオはそのことに気づかず、それに気づいたのは随分経ってからだったが、振り返れば、零のそんな態度が、実にありがたかったと思っていたのだった。



当たり障りのないことを話しながら長い廊下の端まで来たとき、零は足を止めた。
それに従い、レオも立ち止まる。

「見送りはここまででいいぞ、レオ」

「そうですか… ではここで」

「ああ、じゃあまたな」

「はい… あ、そういえば零さん。カオルさんが心配してましたよ。
 忙しくてもちゃんと食べて休んでね、って。
 あと、無茶しないで気をつけて、とも…」

鋼牙が ’約束の地’ に旅立ってしまったために、零がその穴を埋めているのをカオルは知っていた。

「ははは、おかんかよ…
 うん、大丈夫。元気にやってる、って、レオの口からカオルちゃんに言っといてよ」

幾分か表情を和らげてそう言った零に、レオも合わせるように笑顔になる。

「はい、伝えておきます。
 じゃ、零さん…」

そう言って、レオは姿勢を正してペコリと頭を下げた。

「おう、じゃあな」

零はひょいと片手を上げて、レオに別れを告げた。
まだ、いつもどおりとはいかないまでも、零の顔にほんの少し笑顔が浮かんだのを見て、レオはちょっぴり安心した。

零は後ろを振り向かずに歩き去っていった。
その少し弾むように身体を上下させる独特な歩き方を見せる零の後ろ姿を見送りながら、彼がサバックに出てくれるといいな、とレオはぼんやりと思っていた。


to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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