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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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癒えぬ傷(3)

いよいよサバック!

ところで、鉄の剣を振るった翌日っていうのは、あの屈強な魔戒騎士たちでさえも筋肉痛になるんなんですかね?(←どうでもいい、か…)


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翼の挨拶に場が盛り上がったところで、サバックのルールの説明に続き、初戦の対戦相手が発表された。
各自、自分の相手がわかると、静かに闘志を燃やす者、雄たけびをあげて自分を鼓舞する者、対戦相手の様子を探るように、そわそわと落ち着きなく周囲に目を配る者など、雑然とした雰囲気になった。

そんな中、レオは零を振り返る。

「零さん、俺、なんだかドキドキしてきまし… あれっ?」

レオはさっきまで隣にいたはずの零の姿が見えなくなったことに気づいて、慌てて周囲をキョロキョロと見渡した。
こんなとき、長身であることは利点である。
人よりも頭ひとつ抜きんでているから、レオは、わりとすぐに零の姿を見つけることができた。

零の背中は、大勢の魔戒騎士の波を縫うようにスイスイと抜け、小さくなっていき、レオが声を掛ける間もなく、じきに消えていった。

「零さん…」

思わず、寂しそうに顔が曇らせて、レオは呟いていた。
そんなレオに横から声が掛かった。

「おい、どうした?」

その声にハッとしたレオが振り返ると、翼がすぐそばまでやってきていた。

「あ、いえ…」

そう言って視線を伏せて言葉を濁したレオだったが、すぐに意を決して顔をあげて答えた。

「零さんのことなんですけど… なんだか少しおかしいんです。

 いつもみたいな明るさがないっていうか…
 笑ってるけど笑ってないっていうか…
 すいません、なんかうまく言えないんですけど」

そう言って困ったような顔を見せるレオに、翼も眉をひそめた。

「零が?」

「何かあったのかもしれません…」

沈痛な面持ちで零の去っていった方向に目を向けるレオに、翼もその視線を追いかけ、今はもう見えない零を思うように目をすがめる。
そして、静かに口を開いた。

「魔戒騎士であるならば、時として、苦い思いもする… つらい別れもある…
 それは、仕方のないことだ」

そう言うと、翼はレオの肩にトンと手を置いて、目を向けた。

「だが、俺の知っている涼邑零って男は、あの冴島鋼牙にも勝るとも劣らない一流の魔戒騎士だ」

だから、大丈夫…
言葉にはしなかったが、そんな思いが翼の強いまなざしから伝わってくるようだった。
翼と目を合わせていたレオは、最初こそ戸惑ったように視線を揺らしていたが、やがてその目に少しずつ力が戻ってくる。
それを捉えた翼は、大きくうなずき、

「奴の心配より自分のことだ。
 みっともない試合を見せないよう集中することだな」

と言うと、フッと笑った。





いよいよサバックの試合が始まった。
鉄製の剣を振り回しての力と力がぶつかり合う試合は、どの対戦も十分な見ごたえがあった。

そんな中での零の第一試合…
それは、少々ハラハラした展開になった。
というのも試合の30分前になっても、零が姿を現さなかったからだ。

「ああ、何してるんでしょう、零さん…」

そわそわと落ち着かないレオは、試合会場がばっちり見える観戦場所の最前列でキョロキョロと辺りを見回した。
その隣で翼は黙って目を閉じている。
そんな翼へ、思わず焦る心をぶつけるレオ。

「んもう、翼さん、こんなときによく落ち着いていられますねっ!」

そんなレオに、翼は少しも動じず、

「落ち着け、レオ。
 おまえがいくら焦ったところでどうしようもないだろう?」

とため息交じりに言う。

「そんなこと言ったって…

 俺、やっぱり、その辺、見てきます!」

レオはじっとしていられなくなって、その場を離れようとした。
だが、そのとき、

「おい、来たぞ!」
「ほんとだ! ようやく現れたか!」
「遅ぇーぞ! まったく何やってたんだか…」

というようなざわつきが一角から沸き起こった。
その騒ぎの方へとレオが目を向けると、そこにはゆっくりと歩いてくる零の姿が見えたのだった。

このとき、試合開始のわずか5分前。

すぐに審判が、零のサバックでの獲物である鉄の双剣とボディチェックを行うと、ウォーミングアップする余裕もなく、試合開始の時間となってしまった。

「大丈夫かな…」

無意識に零れるレオの呟きには何も言わず、翼はじっと零の試合を見つめていたが、ほんの少し表情を険しくした。
翼の目には、零が迷っているように映ったからだ。
それはレオも感じたようで、その後は息を飲むようなかたちで試合の行方を見守っていた。

案の定(じょう)、試合開始後の序盤は、零の防戦一方だった。
そんな零の消極的な受けの態勢に勢いがついたのか、対戦相手が

「はっ、涼邑零ってのは、案外手応えの無ぇ奴なんだな?」

とか

「おいおい、ちったぁ歯向かってくんねぇと、俺の強さが引き立たねぇじゃねぇかー」

とか調子のいいことを言いだした。
けれども、零は、そんな挑発に乗ることはなく、相手の剣を巧みに躱(かわ)すばかり。



だが、それが ’あるとき’ を境に零が一変した。

対戦相手の渾身の一撃を、零が真っ向から受け、剣を合わせたまま力勝負の様相になった時のことだ。
相手が何やらボソリと零に囁いたように見えた。
すると、その一言に零の目が見開き、やがてニヤリと口元に笑みが浮かんだかと思うと、これまでは何だったのかと思えるほどに、零が一方的に攻めだしたのだ。

ガシーン、ガシーンと重たい鉄の剣がぶつかり合う音。
一本一本は小振りながらもそれなりに重いはずの鉄の剣が、驚くほどの速さで振るわれていくと、あっという間に形勢逆転。
相手が玉の汗を掻きながら、じりじりと追い詰められていった。

そして、最後は、対戦相手の剣がポーンと中空に弾き飛ばされ、茫然となった相手の左頬に、チョイと申し訳程度に傷をつけて零の勝利が決まったのだ。

  うぉー

観客から大きな声が沸く。
その中で、レオは大きく安堵の息をついていた。

「はぁーっ、よかった…」

さすがに、零が負けるとは思わなかった… いや思いたくなかったが、ひょっとしたら、という思いがあったことも確かなのだ。



審判に腕を上に挙げられ、勝利者として宣告される零を見ながらレオが脱力していると、隣で翼が静かに言った。

「何を言ったんだろうな?」

「えっ?」

レオは翼の発言の真意が掴めずに訊き返した。

「零が反撃する直前、相手の魔戒騎士が何か囁いただろ?
 それを聞いて、零が変わった…
 あれはいったい、何と言われたんだ?」

そう言われればそうだ。




to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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