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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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どうしようもない染み

零くんの妄想しよう!
…うーん、いつもと同じ展開になっちゃうのかなぁ?


拍手[13回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

『ねぇ、ゼロ。よかったの?』

夕刻の迫る時間。
空よりも一足先に闇に染められてしまいそうな木立の中を歩いていた零が、シルヴァから掛けられた声に足を止めた。
左手を顔の側に持ち上げた零が、

「ん? 何が?」

とわずかに微笑んでシルヴァを見下ろした。
自然なようでいて、でもどこか作り物めいたその表情に、シルヴァは溜息をつきながら答えた。

『何がって…
 鋼牙たちからの夕飯の誘いを断ったでしょ?
 慌てて帰るほどの用事なんてないのに…』

わかりきったことを、と思いながらもシルヴァは黙っていることができない。

「ああ、そのこと…」

零は少し気まずそうにシルヴァから視線をそらし、後方を振り返る。
道の先には、深い森をバックにして鋼牙たちの住む屋敷が見えた。
零を見送るように、玄関脇のライトが暖かそうなオレンジ色の光を放っている。




所用で冴島邸を訪れた零を、鋼牙を初めとしてカオルやゴンザが温かく迎え入れたのが今日の昼過ぎのこと。
そして、冴島家が所有する膨大な文献の中から目的のものを見つけた頃には、陽はだいぶん西に傾いていたのだった。

「助かったぜ、鋼牙。
 ゴンザもありがとう」

謝意を口にしながらリビングに戻ってくると、ソファに座って鉛筆片手に作品の構想を練っていたカオルが顔を輝かせて立ち上がった。
にこやかに零たちの元へと駆け寄ると、

「用事は終わったの?」

と尋ねるカオル。

「ああ。お陰様でいい情報が手に入ったよ」

零もにっこり笑って答えると、

「じゃあ、お仕事はもう終わりね?
 ねぇ、鋼牙。零くんのお夕飯食べてってもらっていいでしょ?」

と言いながらカオルは鋼牙を見て、その後ろに控えているゴンザにもチラリと目線を配った。

「それは構わないが…」

と鋼牙は大きくうなずいているゴンザの気配を読み、零のほうに視線を向けた。すると、カオルたちの視線も必然的に零に集まる。
3人の熱い視線(あ、熱いのは約2名で、残りの1名は通常レベル…)を受け止め、零は一瞬戸惑った表情を浮かべた。
だが、それもすぐに消え、にっこりと微笑む。

「ありがとう、カオルちゃん」

「あっ、それじゃあ、急いで準備しなきゃ。
 ゴンザさん、あたし手伝うから…」

きゃっきゃっとはしゃいでゴンザの手を取ったカオルに

「でもね」

とやや強い調子の零の声がストップを掛ける。

「ごめんね、今日は早く帰ってやらなきゃならないことがあるんだ…
 だから、ごちそうになるのはまた今度ってことで」

眉尻を下げて残念そうな顔を見せる零に、カオルも同じような表情をした。

「そっか、残念…」

けれども、すぐに明るい顔に切り替える。

「用事があるなら仕方がないよね。
 今度来るときはゆっくりしていって?」

「ああ。
 楽しみは次の機会まで取っておくよ」

そう言って零も笑った。





冴島邸を背にして再びシルヴァを見下ろした零は、

「うーん、ちょっとね…
 あそこの居心地のよさが、逆に落ち着かないときがあるんだよね…」

と薄く笑った。



魔戒騎士として揺るぎない強さを持った鋼牙。
その鋼牙が命掛けで守りたいと願い、そして見事に守り切った女性、カオル。
そんなふたりの間にあるのは、強い信頼関係と相手を想い合う深い愛情。
あの場所には、たとえ零が欲しいと望んだとしても、到底手に入りそうもない、温かく優しく穏やかな時間が流れている…

黄金騎士牙狼の称号を継承する鋼牙と、力のうえでは互角だと言われ、また自分自身でも引けをとらないと自負している零であったが、再会するたびに鋼牙から感じる風格、絶対的な安定感といったオーラは、彼自身の経験や鍛錬の賜物(たまもの)というだけでなく、彼を陰で支えるカオルの存在があるのは疑いようもない事実だった。

(それがちょっと羨ましいっていうか、妬ましいっていうか…)

零の顔が切なげに歪む。
消したくても簡単には消えてくれない染みのような想い。

(けど… そんなことは、あいつには絶対言いたくないけどね)

と思うと、思わずくすっと笑いが漏れた。

『ゼロ?』

シルヴァが気づかわし気に声を掛ける。

「さて、と…
 帰ろうぜ、シルヴァ。俺たちには俺たちの帰る場所があるだろ?」

そう言ってウインクした零が、実に魅力的な笑いを浮かべて歩き出そうとしたそのとき、

「零!」

と呼びかけられて振り返った。

そこには、つい今しがた別れたばかりの鋼牙の姿があった。
大きなストライドで屋敷の方からゆったりと歩く鋼牙は、じきに零の前まで来ると足を止めた。

「どうした、鋼牙?」

鋼牙が追って来た理由に心当たりのない零が尋ねると、鋼牙は手に持っていた紙袋を目の前に持ち上げて、

「これを持っていけ」

と、零の手に渡した。

「これは?」

そう言いながら、中身を覗く零に、

「ゴンザがおまえに渡せと…
 大したものではないが、腹の足しにはなるだろう、と」

と鋼牙は答えた。
袋の中身は、バゲットにローストビーフやらレタスなどを挟んだものがいくつか入っていた。
それを見た零は、鋼牙に、

「やった!
 ゴンザにサンキュ、って言っといて!」

と笑顔を見せた。

「ああ」

とこちらも頬を緩めた鋼牙だったが、すっと穏やかな表情を引っ込める。

「零…」

「ん?」

声を掛けたもののほんの少し言いよどむような表情を見せてから、

「何かあれば、また来い…」

とだけ言った。
そんな鋼牙を、零はしばらくの間、じっと見た。
そして、ふっと鼻で笑ってから

「おまえもな…
 俺の助けが必要なら、いつでも呼べよ?」

と冗談めかして、そう言った。
それを聞いた鋼牙は、ふっと目を伏せてから、再び零と視線を合わせる。

「ああ、わかった。
 そんなことのないよう、腕を磨いておく」

と応じた。

  ニヤッ

目線だけで言葉にしないまま何かを交わすふたり。

「じゃあな」

零はもらった紙袋を持った手をちょいと上げ、

「ああ」

と鋼牙も短い返事をする。
くるりと踵(きびす)を返した零は、そのまま、一度も振り向かず帰っていった。
その姿をしばらく見送った鋼牙もまた零に背を向けると、真っすぐに屋敷に戻っていった。




鋼牙と別れた零の足取りは軽かった。
先ほどまで感じていた心の靄(もや)が晴れたような気分だ。

何も具体的なことは変わらない。変わっていはいないのに、だ。
けれども、

(黄金騎士があいつでよかった…
 あいつの朋友(とも)でよかった…)

そんな想いがじわじわと零の心に大きく膨らみ、零は前を見つめて、胸を張って歩き続けるのだった。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


やっぱり切ない系か…
と思いつつ、鋼牙さんとの友情っぽいものも忍ばせて…

男の友情って、なんかいいですよね…
何も言わなくてもいいよ… っていうカオルちゃんの愛とはまた違った関係性。
はぁぁぁ、いーなー

さてさて。
それにしても、零くんがゴンザさんの作るおいしいディナーにありつけるのはいつになるんでしょうね?
近い将来だといいけれど。
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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