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別に君を(2)

同級生とばったり再会。
懐かしさとともに照れ臭さもどこかにあって…

カオルちゃんと宇佐美くんのコーヒータイム、覗いてみましょう~♪

拍手[9回]



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

カオルと宇佐美は、5分程歩いて、大通りに面した某コーヒーチェーン店に足を踏み入れた。
さすがに北部とあって、ポートシティの夏よりは幾分涼しいものの、夏は夏。
エアコンの聞いた店内に入ると、ふたりはホッと息をついた。

それぞれに好みのドリンクを前にして、向かい合って座ると、宇佐美はドリンクを手にして、

「えーと、15年ぶり? いや16? どっちでもいーや。
 とにかく、再会を祝して乾杯!」

「えっ、こういうときも乾杯するもんなの?」

「ん、変か?」

「うーん、変じゃないかも… ううん、やっぱり変かも?
 ふふふ、ま、どっちでもいいよね?
 宇佐美くんとの再会にかんぱーい」

そう言ってカオルは、差し出していた宇佐美の手のカップに自分のをそっと合わせた。

ふたりとも冷たいものを頼んだので、ごくごくと喉を鳴らして飲み、はぁっと満足そうに息を吐く。

「やだ、なんか居酒屋でビールでも飲んでるみたいじゃない?」

「ははは、そだな?」

ふたりは視線を合わせて笑い合った。

「そう言えばさ、さっき画材を買ったって言ってたけど、おまえ、まだ絵描いてんの?」

宇佐美はカオルの脇にある、画材店の名前が印字されている袋をちょいと指差しながら訊いた。

「あ、これ? うん、描いてるよ。
 ま、描いてるって言っても、美術作品として取り引きされるようなものは少しだけだけど…」

「ふぅん… なぁ、よかったら、それ、中身見てもいい?」

宇佐美は袋を顎で示してみせた。

「いいけど…
 そんな珍しいもんじゃないよ?」

そう言って、カオルは袋を手に取り、中のものをひとつひとつ取り出してテーブルの上に並べた。

「へぇー、油絵の絵の具って、俺らの使ってた絵の具と変わんないだな?
 触っていい?」

「いいよ」

「シルバーホワイト? え、何? 白にはいろんな白があんの?」

「ふふっ、あるよ。ジンクホワイトとか、チタニウムホワイトとか…
 ね、それ匂い嗅いでみてよ」

「匂い?」

訝しい顔をしながら宇佐美はシルバーホワイトと印字された絵の具の蓋を取って、そっと鼻に近づけた。

「うわっ、くっせぇ」

「あはは、だよねぇ。油絵の絵の具ってすっごい臭いのぉー」

「ひでぇな、御月。
 なんか、せっかくのコーヒータイムが台無しなんだけど…」

急いで絵の具の蓋を閉めて、テーブルの上、できるだけ自分から遠くになるように宇佐美はシルバーホワイトを戻した。
すると、

「こっちは、まだ大丈夫かな?」

とカオルは無色透明な液体の入った瓶の蓋を開けた。

「吸い過ぎないでね?」

そう言われるとどきどきするが、理科の実験よろしく、手で煽って匂いを嗅いでみる。
ツーンとするような匂いに

「シンナー?」

と思わずつぶやいていた。
カオルは急いで蓋を閉めてから、

「まあ似たようなもんかな?
 普通の水彩絵の具は水で溶くけど、油彩は文字通りこういった油で溶いて描くんだよ」

と言う。

「こんなところで変な匂い撒き散らしたら営業妨害になっちゃうね?」

肩を竦めてみせたカオルが慌ててパタパタと空中を仰ぐように手を動かす。

「あ…」

漂って来た香りが、宇佐美の記憶を少し呼び覚ます。

「この匂い… 昔、おまえの近くを通るとこんな匂いしてたよなぁ…」

今嗅いだ絵の具だけの匂いでも、オイルの匂いでもなく、それらが微妙に混ざり合って、ほんの一瞬、記憶の中の香りになったようだった。

高校時代。
休み時間に阿佐美たちと楽しそうにおしゃべりしているカオルの横をわざと通って、胸をどきどきさせながら、近くで笑顔をチラッと眺めたときに香ったあの香り…



「えっ、あたし、昔、臭かった?」

そう言いながら、カオルは慌てて腕を自分の鼻に近づけ、すんすんと匂いを嗅いでみた。

「いやいやいや、臭くはなかったから!
 なんかこう、他の女子と違う御月らしい匂いっていうか…
 そうか… 画材の匂いと混じって他にはない匂いになってたんだな」

宇佐美はしばらく、あちこち匂いを嗅ぐような素振りを見せたが、

「あー、もうしねぇ。一瞬だけだったな、あの香り…」

と微妙に残念そうな表情をする。

「宇佐美くん、なんか変態っぽいよ?」

カオルは冗談めかして大袈裟に身を引いてみる。

「あ、ひでぇなー
 でも、確かにちょっとそうかもしんねぇ」

そんな照れくさそうな宇佐美に、カオルは、冗談だよ、と言いながらウフフと笑う。

(楽しい…)

学生のときには同じクラスでもこんなふうに笑い合うことはなかった。
ほんの少しだけ宇佐美が好意を持ち、「好きだ」と思えるほど気持ちも形にならなかった淡い想い。
けれども、今は、あのときよりもずっときれいになったカオルと向き合い、こんなにも楽しく会話して笑い合えている。

(なんだか不思議だ…)

あのとき、ちゃんと自分の気持ちと向き合って、「好き」という気持ちを固められていたら…
今のふたりの関係ももっと違ったものに… 近くて濃いものになっていたのだろうか?

目の前で、ニコニコしているカオルを眺めながら、宇佐美はそんなことを考えていた。



to be continued(3へ) ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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