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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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惑わされて(8)

鋼牙さん。
ザルバばかりに喋らせてないで、そろそろあんたも喋んなさ~い!
あとは頼んだからねっ!
いろいろ回収、よろしく…




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

(ははは…)

黒光りするダイニングテーブルに手をついて身体を支え、襲ってきた
かなり大きな脱力感に耐えた。

「大丈夫か?」

鋼牙はそう言って立ち上がると、

「うん、大丈夫…」

と言うあたしを、椅子に座らせた。
そんなあたしを嘲笑するようにザルバが言う。

『なんだ、カオル。
 蒼穹が若くて美人だから、焦ってたのか?』

さっきまで赤かった顔が、こんどは青く変わる。
図星過ぎて何も言い返せない。

『おまえ、まさか蒼穹と鋼牙との仲を疑っ…』

「ザルバ!」

ザルバの言葉を最後まで言わせずに、鋼牙が遮った。

「余計なことをしゃべり過ぎだ。
 いいから、おまえは黙っていろ」

ひどく抑えられた口調だったが、ザルバにくれる視線は、ギンッと
音がしそうなくらいに絶対的な威圧感があった。

『わかった、わかった… じゃ、後は頼んだぞ』

震えあがるような鋼牙の視線を恐れるはずもないが、その後、ザルバは
大人しく黙った。



「カオル…」

一転して、鋼牙があたしに向けるまなざしは少し苦しげで優しかった。

「ははは…
 やだな、そんな顔しないで。

 えっと… あ、ごめんね。
 ザルバの言う通り、ちょっと余計なことを考え過ぎちゃってて、
 勝手にひとりで空回りしてたみたい。

 馬鹿みたいだね…」

「…」

鋼牙は言葉を探しているのか、選んでいるのか、とにかく何かを考える
素振りを見せて黙っている。
この沈黙がちょっと苦しい。



「えっとね、ひとつ話しておかなきゃいけないことがあるの」

気まずい時間に耐え切れず、あたしは、そう切り出した。

「なんだ?」

「うん… あのね…」

いざ話そうとすると、こういうことってひどく言いにくいもんだ。
鋼牙は何も言わずに、あたしの言葉を待っている。
ひとつ大きく深呼吸して、勇気を出す。

「… あのね、2週間くらい遅れているの… 生理が…

だんだん声が小さくなる。

(聞こえたかな、ちゃんと…)

伏し目がちに鋼牙の様子をうかがってみる。
鋼牙は微かに驚きの表情を見せていた。
そしてすぐに、怖いくらいに真剣な表情でこう言った。

「病院へは行ったのか?」

それを聞かれるとバツが悪い。
あたしは小さくなって答えた。

「あ、ううん。
 行かなきゃな、って思いながら、実はまだ…」

すると、鋼牙はすぐに、

「ザルバ!」

と、左手の相棒に声をかけた。

『おいおい、ちょっと待て、鋼牙。
 いくら俺様でも、そんなの判るはずもないだろう?』

ザルバの答えを聞いて、鋼牙は苦々しい顔になる。
が、すぐに、コート掛けのほうにものすごい速さで近づくと、そこから
魔法衣を掴み、サッとひるがえして手早く着込んだ。
そして、あたしの手を掴んで立ちあがらせようとする。

「え、なに?」

訳のわからないあたしが戸惑いながら尋ねる。

「なにって…
 今から病院に行くに決まっているだろう?」

少しイラついた様子で鋼牙は答える。

「え? いいよ、今日はもう遅いから…

 明日…
 うん、明日にでもひとりで行ってくるから」

鋼牙に掴まれている手を引いて、後ずさるように足を止めた。
すると、鋼牙は掴んでいたあたしの手を放し、身体をこちらに向け、
少し怖い顔をした。

「だめだ。
 そう言って、今日まで行かなかったのだろう?

 俺が送ってってやる。
 だから、今日のうちに行くんだ」

鋼牙の有無をも言わさぬ気迫に、普段だったら、カッとなって反発したく
なるんだけど、今日のところは渋々ながら従う。
こうでもしなきゃ、またずるずると先延ばしにしそうだと、自分でも
認めているから。

「わかった…」

こうして、鋼牙に送ってもらう恰好であたしは病院に行くことになった。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


病院からの帰り道。
夕方から夜へと向かう美しいグラデーションを見せている空を、あたしは
鋼牙の運転する車の助手席からぼんやりと眺めている。
鋼牙は、と見ると、ハンドルを握り、真っ直ぐ前方を見つめていた。

知らず知らずのうちに視線が下を向く。
膝の上に置いたかばんの持ち手を握る手に力が入る。


「ごめんね、鋼牙。
 心配させたうえに送ってもらったのに、間違いだったなんて…」



そうなのだ。
病院で受診した結果、あたしは妊娠していないことがはっきりとした。

「御月さん。
 ホルモンバランスが崩れて生理不順を起こす女性は多いですよ。
 無理なダイエットや強いストレスなど思い当たることはありませんか?
 そういったもので、ホルモンバランスは崩れてしまいますからね」

担当してもらった医師が言い含めるようにそう話していたのを思い出す。



ハンドルを握ったまま、鋼牙は言った。

「俺に謝ることはない。

 それより、謝るのは俺のほうだろう?
 すまない、カオル…」

あたしは少しびっくりして、鋼牙のほうを向いた。
鋼牙はそんなあたしをチラリと見て、すぐに前を向く。

「ストレスの原因を作ったのは… 他ならぬ俺なのだろう?」

「…」

どうしよう。
そうだ、とも、違う、ともすぐに返事ができない。
そのあたしの沈黙をどう解釈したのか、鋼牙は言葉を継いだ。

「いつでもそばにいてやれたらいいのだろうが、それは俺にはできない」

「わかってるよ… それは、ちゃんとわかってるからっ」

そんなことは望んじゃいない、という気持ちが、ついつい声を大きく
させた。

鋼牙は魔戒騎士だもの。
指令と言われれば、何を置いても出かけていく。
それは仕方のないことだと、とうの昔に割り切っている。
そうでも思わないと、魔戒騎士のそばにはいられない…

あたしの言葉を聞いて、鋼牙は少し優しい顔になる。

「すまない… それから、ありがとう。
 いつでも笑って送りだしてくれることを、ほんとうに感謝している。

 うまく言えないが…
 ひとつ言えるとすれば、俺の帰る場所はいつでも決まっている、と
 いうことくらいだ」

そう言うと、鋼牙はウィンカーを点滅させた。
鋼牙の言葉にドキドキしながら、見つめるあたしの視線を避けるように、
鋼牙は、大きく右にハンドルを切る。

夕闇の迫る街並みがどんどん窓の外を流れていく。
鋼牙の顔は、白い大きなコートの襟に半分隠され、辛うじて見える部分も、
闇の中に溶け込みそうになっている。
対向車線の車とすれ違うたびに照らされる横顔が、少し照れて見えるのは
気のせいだろうか。

「鋼牙の帰る場所って、ゴンザさんの待つお屋敷ってこと?」

少し意地悪して聞いてみる。

「…」

鋼牙は何かを言いかけて、諦めたような顔を見せた。
そして、黙って左手をあたしのほうに伸ばすと、あたしの手を握った。

これで理解しろ、ということだろうか?

  くすくす…

(仕方ない。
 今日のところはこれで引き下がってやるか…)

あたしは、もう片方の手を鋼牙の手の上に乗せ、サンドイッチするように
包み込んだ。

「ゴンザさんがご馳走作って待ってるね。
 早く帰ろう、鋼牙」

外はすっかり夜の帳(とばり)が下り、ヘッドライトの光がなければ、
どこをどう走っているのかもわからない。
だが、やがて、屋敷の明かりが見えてきた。
明るくてあったかい明かりだ。

ここのところ、いろいろなことに惑わされて、ずっと不安なまま暗がりを
彷徨っていたようなあたしも、今なら道しるべとなる光がはっきり見える。



鋼牙…
あたしの帰るべき場所も決まってるからね。
迷いそうになったら、また、手を引いてね。
ちゃんと、あたしが帰れるように…
お願いだよ?



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


ふ~っ
無事、終わりましたか?
ちゃんと回収できたでしょうか?

妊娠したかも… というシチュエーションでなんか書けないかな、と
いうことで、シリアスな話になるのかな? と思っていたのですが、
いざ書き始めてみたら、途中、カオルちゃんが変な妄想しまくって、
安っぽいコメディになってしまいました。 (苦笑)
カオルちゃんもそれだけ精神状態が不安定だった、ということで、
ひとつご理解くださいませ。

鋼牙さんにカオルちゃんのフォローを頼んだつもりでしたが、やっぱり、
あの男、甘い言葉のひとつも言えやしませんでしたね。
ダメダメですね。


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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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