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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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闇夜の狼(5)

先週は思いも寄らず「お休み」してしまったので、今週は先週の分も頑張らなくっちゃ!
…というわけで、いつもより長い「闇夜の狼」第5話、始まります。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

社(やしろ)の裏手はうっそうとした林となっていて薄暗かった。
なんだか空気もひんやりとしていて、お美津は心細さに身を小さくしながら、庄吉とは幾分離れて従っていった。

「おーい、連れてきてやったぞ、草太! 草太ぁ!」

庄吉は社の奥の茂みのほうへと声をかける。
それまで少し怯(おび)えていたお美津だったが、現金なもので、もうじきあの音弥が目の前に現われるのかと思うと、急にいそいそと髪を撫で上げたりなんぞしつつ、ドキドキしながら庄吉の肩越しに音弥の姿を探した。
庄吉はしばらく草太の名を呼び、出てくるよう声をかけ続けたが、残念ながら茂みはそよとも動かずに、誰も出ては来なかった。

「おっかしいなぁ…」

そう言いながら振り返った庄吉はすまなそうな顔でお美津に謝った。

「草太の奴、どこ行っちまったのか、いやしねぇ。
 おいらたちが来るのがあんまり遅ぇってんで帰っちまったのかもしれやせん。
 どうでしょう? 今から芝居小屋のほうまで行ってみやすかい?」

そう言われて、今すぐ草太に会えないとわかったお美津の顔は途端に曇った。

「ええっ、音弥さん、いないの?」

「へぇ、すいやせん…
 あっ、でも、おいらが相手でよければ、その辺で団子でもご馳走しやすが…」

頭を掻きながら庄吉はお美津の顔色を窺うように尋ねてみた。
がっくりと肩を落としたお美津は、少し途方に暮れていたが、やがて、キッと庄吉を恨めし気に睨むと、

「音弥さんがいないんだったら、しょうがないわ。あたし、帰るわね」

と言うと、くるりと踵(きびす)を返した。
少し歩き出した足取りには、未練など微塵もないことが見て取れる。
お美津にしてみれば、音弥がいないなら、ほんの少しの間でも仄(ほの)暗くて薄気味悪いこんなところに、見知らぬ男とふたりきりでなんぞ居たくなかったのだ。

「ちょ、ちょいとお待ちなせぇな」

手を伸ばして、声をかける庄吉は、おおい、とか、待ってくれ、とか、何度となく声をかけた。

(おめえさんも草太がいいのかい? おいらだって、そうは変わるめぇ?
 いや… おいらは草太よりなんだってできるんだ!
 足も速いし、力もある! 芝居だって、おいらのほうがいくらもうめぇはずだ!
 なのに、どうして草太ばかりがちやほやされる? ほんの少し顔がいいだけじゃねぇか! あんなやつ… あんなやつ…)

草太よりは少し劣るが、それでもかなり男前な庄吉の顔が、だんだん、だんだん醜く歪んでいった。
それまでまっすぐ社の表側を目指して歩いていたお美津が、あと少しで社の林から抜け出る… というところまで来て後ろを振り向いた。
光を背にして立つお美津の顔は暗かったが、その光を透かして見るとお美津が笑っているのが見える。

「また、今度、音弥さんのお芝居を見に行くわ。
 お美津がよろしくと言っていたって、音弥にそう伝えといてね」

それじゃ、と光の中に戻ろうとするお美津の肩に手がかかった。

「えっ」

もう一度振り返ったお美津は、だいぶん離れた場所に立っている庄吉の姿を目で捉えたが、自分の肩には庄吉の手が乗っている。
あっと思う間もなく、庄吉のもう一方の腕がススッと目の前まで迫ってきた。

「ひいっ」

声にならない声をあげたお美津は、人間離れした力で闇に引きずり込まれていった。





場面変わって、稲荷社にほど近い通り。
そこには、音弥の芝居小屋に表れた浪人の姿があり、どこかに向けて足早に歩いていた。
その往来には行き交う人がかなりの数いたが、浪人は誰にも聞こえないほどの小さな声で目的の場所を確認した。

「確かにこの先なんだな?」

『ああ、間違いねぇ。ホラーの匂いがどんどん強くなってきやがるぜ。
 おい、急げよ。どうやら奴さん、次の獲物と一緒のようだ…』

その言葉を聞くや否や、浪人の眼差しは前方をキッと睨みつけると、一目散に駆け出した。





一方、おカオは稲荷社に続く道を駆けのぼると、小さなお社が見える位置まで着いてから、はあ、はあと息を整えていた。

「ふうっ」

少し落ち着いたところで再び駆け出そうとしたところ、お社の脇のほうから誰かが出てきたのが見えた。

(あれは…)

明るい場所にいるおカオの目には、薄暗い場所にいる者の黒い影しか見えない。
おカオは目を凝(こ)らしてその影を注視していたが、そのとき、その影が若い女の声で何か叫んでいるのを聞いた。
一瞬身構えたものの、おカオの耳に届いた声には切羽詰まった様子は少しも感じられなかったので、おカオは少し安心して緊張を解いた。

(あれはお美津さんかしら? どうやら大事はないみたいね…)

が、その瞬間、お美津と思われる影が、神社脇のさらに暗い陰へと飲み込まれていくのが見え、おカオは頭ではなく身体で反応してその場を駆けだしていた。
すると、その脇を何か黒い風のようなものがおカオを掠(かす)めて吹き抜けた。
否(いな)、黒い風と思ったものは人であった。
黒い着流しを来た男が、あっという間におカオを追い越して、お美津の消えた場所へと辿りついていた。

(えっ!?)

その男の動きに驚きを覚えながらも、おカオは懸命に走った。
黒い着流しの男は、社の脇で足を止めると、両足を開いて腰を落とし、抜刀する素振りを見せた。
ようやく男のそばまで来たおカオは弾む息のまま、男の向こう側にあるものを覗こうとした。

「見るなっ!」

短く鋭い緊迫した浪人の声が耳に届いたが、おカオは構わずそっと覗いた。
そして、

「あっ」

と暗い林の中の光景に目を見開いた。
そこには、人のようで人でない者がこちらに背を向けて、お美津と思わしき身体に覆いかぶさるようにしてむしゃぶりついていた。
辺りには、生臭い血の匂いが充満し、振り向いた人ならざる者の口はぬらぬらと血で濡れていた。

『アユガ、ロナレバ?(なんだ、おまえは?)』

おカオの聞いたことのない言葉でしゃべるそいつは、口元を手で拭い、薄暗い中でギラギラと光る目をこちらに向けていた。
まるで地獄絵図のようなその恐ろしさに、おカオは2~3歩後退(あとずさ)るとその場にクタクタ尻餅をついた。
言いつけを守らずに見なくてもいいものを勝手に見て腰を抜かしたおカオに、浪人は

(だから言ったのだ…)

と少し呆れた眼差しを向けたが、すぐさま目の前に敵を睨みつけた。

「おまえだな。近頃若い女子(おなご)ばかりを喰らっていたホラーは…」

それを聞いた ”ホラー” と呼ばれた者は、ニタアと笑うと立ち上がった。

『ガッカマ、ゴルツム?(だったら、どうする?)』

挑発するように顎をクイっと上げ、ホラーはそう言った。

「ホラーは斬るっ」

静かにそう言った浪人は、ホラー目がけてスススッと走り寄った。
袈裟掛けに振り下ろされた刀身を避け、ホラーは大きく脇に飛びのいた。
四足になって着地したホラーは、

『ボロ、ロナレタユバナサリシチサリ(ほお、おまえさんは魔戒騎士かい)』

と呟くと、ジャンプ一番、手近な木に手をかけて猿のようにスルスルと登っていった。
その姿はあっという間に黒く茂る梢へと消えていく。
そして、ザザッ、ザザッと梢から梢へと飛び移っているかのように、浪人の前後左右の木の上から数枚の葉っぱと音だけが降ってくる。
浪人は油断なく剣を構え、視線だけを右に左にと走らせていた。
やがて、その音がしなくなり、辺りを薄気味悪い静けさだけが広がっていった。

(この隙に…)

おカオはまだ思うように力の入らない足を懸命に動かし、じりじりと後退しようとした。

『ロッコ、トオヌツネノルナトルガア(おっと、その娘も美味そうだな)』

木の上から不気味な声がしたかと思うと、浪人の後ろにある木からホラーの手がぎゅうんとおカオに向かって伸びてきた。
どうやら、このホラーは腕を自在に伸ばすことができるらしい。

「いやぁっ」

悲鳴をあげ、来ないでとばかりに手を突きだして顔を背けるおカオへとホラーの手はぐんぐん近づく。
と、浪人はその場にしゃがみ込むと強く地面を蹴って跳躍した。

  ズザンッ

鈍い音がして、おカオは、自分の近くに何か重さを持ったものが落ちたのを感じる。

  ギャアアア

耳障りなホラーの叫びが空気とおカオの身体を震わせる。
しばらく耳を両手で塞いで恐怖に震えていたおカオだったが、やがて自分の身がなんともないことに気付くと、恐る恐る目を開けてみた。
すると、おカオの足のすぐ先に、ホラーの腕と思われるものが斬り落とされて落ちていた。

「ひいいっ」

おカオはバタバタと手足をばたつかせて、切り落とされたその腕から慌てて離れた。

「さっさと行け!」

怒ったような浪人の声が響き、おカオはハッとした。
浪人は息を弾ませることなく静かに立っていた。
だが、視線の先はホラーの腕が現れた方角の木の一点を睨んでいて、剣術などには詳しくないおカオにもその張り詰めたような並々ならぬ闘気のようなものが感じられて、思わずブルッと身震いした。

「この人、強い…」

そう思ったおカオは、なんだか少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
自分の足の感覚を確かめるようにゆっくり立ち上がると、これなら大丈夫と確信して、社の表側を目指して走り出すのであった。
そうして、一目散に駆けたおカオは社のそばに立つ大きな杉の木のところまで来ると、その背後に回り、背中を幹に預けて弾む息を整えた。
このまま一気に階段を駆け下りていけば、お登勢さんたちのいるところまではすぐそこだ。
けれども、とおカオは浪人のことが気にかかる。

(あの浪人さん、いくら強そうだからと言って、あんな化け物相手に一人で大丈夫かな…)

そんな心配が心に浮かんだとき、林のほうがパァッと明るくなった。

「えっ、何?」

不審に思ったおカオは杉の大木の陰からそっと顔を覗かせてみると…
そこには金色(こんじき)に輝く光がホラーと対峙(たいじ)していたではないか。
あまりのまばゆさに、おカオは目がくらみ、手をかざして光を遮ってみる。

「あれは… 犬? ううん、狼!?」

全身を金色の甲冑のようなもので覆われたそれは、大きな耳をピンと立てて鋭い牙を剥き出しにした、不動明王のような怖い顔をしていた。
その姿に、おカオは圧倒的な強さを感じたが、どうしたことが恐怖心はそれほど覚えなかった。
ホラーを相手に闘っているからだろうか?
それとも、その闘い方が堂々としていて、姑息なところが少しもないからだろうか?

おカオはいつの間にか ”逃げる” ということが頭から消えてなくなり、ホラーと金色の狼との闘いを食い入るように見つめていた。



to be continued(6へ)
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拍手[15回]

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無題
はじめまして 今晩は いつも読み逃げさせて頂いています
実のところここまで届いていませんかここにコメントさせていただくことにしました
なにしろ 牙狼ははまるのは2回目(間隔があいてるので)二次創作はここ最近でどっぷりはまらせて頂いており 2012年から読み始めているので先が長く届いておりません
飛ばして読めばと思うのですが 読みたいものが多く...
すみません 暫く出没させて頂くご挨拶だけでも思い書き込んでいます
読んでいて楽しくて またコメントさせて頂くかもしれませんが よろしくお願いします(笑)
夕月 2017/03/17(Fri)22:58:44 編集
Re:無題
はじめまして、夕月様!
読み逃げ、全然構いませんよ。
ただ、コメントいただけると間違いなく「書く元気」をもらえますので、お時間のあるときでいいので、一言いただければ有頂天になること間違いないです!

さて…
2012年の妄想からずっと読んでいただいているみたいで、すごくありがたいなぁと胸を熱くしています。
読み手のみなさん全員が同じような時期にこのサイトを知り、常に最新作をチェックしているわけではありませんので、おのおののペースで読み進めていただいて構わないですよ。
というか、むしろ、「新しい読み手様がいるんだ!」「面白いと思ってもらえて、順番に読んでくれてるんだ!」と思えて、また違った喜びを覚えます。
そんなわけで、「これ、面白かった!」などと思える作品がありましたら、こっそり教えてもらえると嬉しいです。
そこからまた、新しい妄想が広がるかもしれませんから!
【2017/03/18 22:54】
無題
はじめまして!selfish様。いつも楽しくお話読ませて頂いております。初期の頃から、毎回楽しくて。
今回の闇夜の狼。時代劇凄く面白いです。 ワクワクドキドキしながら読んでおります。 鋼牙さんが、ガロが出てきました。 これからどうなるのか楽しみです。
ガロって、いつの時代でも合いますよね。そういう世界観ですもの。浪人の鋼牙さん、絶対に合いますよね。

…(お住まいの地区が限定される記述がありましたので、勝手ながら割愛させていただきました)…

selfish様のお話楽しみにしてますね。 selfish様にコメントが出来てとっても嬉しいです。ずっとコメントしたかったのです。 やっと思いが叶いました。 すいません、長々と。それに読みにくくて。
黄純 2017/03/18(Sat)14:00:46 編集
Re:無題
黄純様、はじめまして! 初コメントありがとうございます!
わたしもコメントいただいて、とっても嬉しいですよぉぉぉぉ!

時代劇、アリですかねぇ? アリですよねっ!
MAKAISENKI でも異色の回「妖刀」がありましたから…
実際に撮影となるとロケーションやら衣装やらカツラやら、とんでもなく大変なのでしょうが、その点、妄想はいいです!
好き~なように衣装が着せられ、好き~な場所で、表情で、声で、… フフフ、たまりません!

selfish の脳内妄想が少しでも伝わればと、勢いだけで書き散らしている作品ばかりですが、それを読んだ黄純様も、ご自分の脳内劇場でお好きなように映像化していただければ幸いです。
もしよろしければ、「こんな鋼牙さんを想像しながら読みました」とか「この後のカオルちゃんがこうだったらいいのに…」とかなんでもいいので、今後もお気軽にコメントしていただければなぁ、と思いま~す♪

あと、最後になりましたが、黄純様のコメントの中にお住まいの場所に関する記述がありましたので、そのまま公開するのは問題があるかなと思い、その部分を伏せるような形といたしました。
勝手なことをして申し訳ないですが、「ぜひ、そのままの形で公開してください」というご希望がもしもありましたら、そのようにいたしますのでお知らせください。
【2017/03/18 22:16】
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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