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鳴らない鈴(13)
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ジャブ ジャブ ジャブ…
水の抵抗を蹴散らすように、鋼牙は一歩一歩岸を目がけて進んだ。
わずかにグリーンがかった湖水が鋼牙の足元で白い波をつくっている。
ようやくたどり着いた岸辺は、砂というよりももう少し粒度の粗いものだったが、波の作用で角は取れているため、足の裏を適度に刺激して気持ちよかった。
じんわりと温かい岸の温度を感じながら、鋼牙は濡れた髪を掻きあげてぶるんと首を振ると、ダイヤモンドのような水滴が陽の光をきらめかせながら四方に飛び散った。
『よぉ、鋼牙。すっきりしたか?』
湖からあがった鋼牙がいつの間にかカオルのすぐそばまで帰ってきていた。
ハッとしたカオルが顔をあげると、鋼牙の姿を見て、きゃあ、と小さな悲鳴を上げて慌てて目をそらした。
当然のことながら鋼牙は一糸まとわぬ姿である。
『おいおい…
ついさっきまで見てたんじゃないのか?』
ザルバが呆れたようにそう言うと、鋼牙はジロッと睨んだが、すぐに小さく溜め息をついて
「何も変わりはなかったようだな?」
と念を押すように尋ねた。
『大丈夫だ。おまえさんが心配するようなことは何もなかったぞ』
「そうか…」
ザルバの返事に安心した鋼牙は服を着ようとして、カオルが畳んでくれたものに目を留めた。
カオルの女性らしい気遣いにフッと表情を緩めた鋼牙だったが、それを手に取ると黙って身に着けた。
ありがとう、と口に出して言うのは何とも気恥ずかしくてできないのだ。
鋼牙が袖口を留め、コートを除いたひととおりの装備を身に着け終わった頃、カオルは自分の指に嵌まっていたザルバとともに、あの音の鳴らない鈴をおずおずと差し出した。
「あの… これ…」」
まだ顔は赤く染まったままで、気恥ずかしさで鋼牙の顔をまともに見れないらしい。
差し出したカオルの手から、鋼牙はそれらを受け取る。
(これは… 何か思い出したのだろうか?)
鈴を見てそう思いながら、鋼牙はザルバを指に嵌めた。
ザルバの重みを感じることで、すべて収まるべきところに収まったような安定感を感じる。
(さて…)
落ち着いたところで、鈴を摘み上げ、鈴越しにカオルを見た。
「覚えているか?」
訊かれたカオルは少し顔を曇らせ、首を横に振る。
「そうか…」
少なからず期待をしていただけに、落胆の色が声にも出てしまう。
この鈴と同じものを息子の雷牙も持っている。
あれは、雷牙がまだよちよち歩きの頃…
たまたま用事があって屋敷を訪ねて来ていた邪美に、行動範囲の広がったことで雷牙から目が離せない、とカオルが漏らしたことがあった。
すると、邪美は腰の物入れの中をゴソゴソと探り出して、中から小さな鈴を取り出した。
次に、赤い札を一枚取り出したかと思うと、愛用の筆を目の前に立てて何やら口の中でぶつぶつと念じ始める。
そう長くはない呪文を念じ終えた邪美は、想いを封じ込めるように筆を額に近づけたあと、カッと目を見開いた。
そして、その筆で左手にある赤い札をさっと撫でると、筆に描かれた文字がぽおっと白く光り始めるのだった。
その札を今度は鈴にかざす…
すると、札がパッと小さな炎をあげて一瞬にして消え、札の光が移ったかのように鈴が光り始めた。
ニッコリ笑った邪美が、はい、っとカオルに鈴を差し出す。
戸惑いながらカオルが手を出すと、邪美はその手に鈴をコロンと落とす。
チリリン
小さな音を立てて、カオルの掌に鈴が転がる。
指でつまみ上げて小さく揺らしてみると、それはそれは軽やかで美しい音が響き渡る。
「素敵…」
カオルの顔に笑顔が広がる。
「邪美さん、これ?」
「あたしから雷牙へのプレゼントだよ。
術というほどの大したもんじゃないんだけどね、無事に帰っておいで、っていうおまじないを込めて…
魔戒法師の間では、鈴以外にもいろんなものにこのおまじないを施して、自分の子供や大切な人に持たせたりするんだよ」
「へええ」
目の前で揺れている鈴を見ながら、感心したほうに相槌を打つカオル。
が、すぐにお礼を言っていないことに気付いて慌てて礼を言う。
「ありがとう、邪美さん!
雷牙もきっと喜ぶわ」
それに笑顔で応えた邪美は、ふとあることを思いついて、こう言った。
「そう言えば、確かもうひとつ同じものがあるはず…
カオル。あんたにもあげようか?」
そう言う邪美は再び腰の物入れの中を探し始め、カオルの手にあるものとまったく同じ鈴を取り出して見せた。
「え? いいの?」
「ああ!」
それを聞いたカオルはちょっとだけ考えてから、こう言った。
「じゃあ、そのおまじない、私も一緒にやってみてもいいかな? 無事に帰りますように、って…」
身を乗り出すようにして邪美に尋ねるカオルに、邪美は、ははあん、とあることに思い至る。
「そう言えば、あんたにはもうひとりいたねぇ。無事に帰ってきてほしい、大きな子どもがさ」
「そんなぁ、大きな子どもだなんて…」
口ではそう言いながらも、まんざら外れてもいないな、とも思う。
カオルの考えていることがなんとなく邪美にも伝わって、カオルと邪美は顔を見合わせてくすくすと笑い合う。
邪美は筆と札を取り出した。
「じゃあ、いくよ?」
「はいっ!」
こうして出来上がった鈴。
それをさらに、鳴らないように中の玉を固めたのが、今、鋼牙の手の中にある鈴だった。
鈴を見ても何も思い出せないということで、なんとなく気まずい時間が流れる。
が、それをザルバの緊迫した声が破った。
『鋼牙、何かがこちらに向かってくる気配がする! 気を付けろっ!』
それを聞いた鋼牙は、白いコートを素早くつかむと、大きく翻して腕を通した。
その手には赤鞘がすでに握られていて、後ろ手にカオルを庇って、注意深く辺りを窺っている。
咄嗟のことに声も出ず戸惑うばかりのカオル。
ザルバの言う ’気配’ の正体は、敵か? 味方か?
to be continued(14へ)
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コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
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