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朱(あけ)の誓い(5)
だいぶん溶けてきたとは言え、窓の外にはまだまだ雪山が見えるというのに、ハチがブンブン飛んでる季節を妄想するのはなかなか骨が折れますね。
でもね、それでも妄想はやめられない。楽しい~♪
…というわけで、今宵の妄想劇場のはじまり、はじまり~ °˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°
でもね、それでも妄想はやめられない。楽しい~♪
…というわけで、今宵の妄想劇場のはじまり、はじまり~ °˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°
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明るい庭からの光が差し込む座敷。
よく手入れされて黒光りする柱や、床の間には何が書かれているのかよくわからないが、その迫力だけは十分わかる書の掛け軸がかけられている。
けれども、初めて通された本家の奥座敷を興味津々に眺める余裕などもなく、当主、ジエンの前でゴンザとアンナは身を固くして座っていた。
(なんだか大事(おおごと)になってきたな…)
ふいにこぼれそうになった溜息を飲み込みながら、ゴンザは思った。
目の前に座っていて、こちらをじっと見ているジエンの視線ばかりが、ゴンザを委縮させるのではなかった。
ジエンの隣… 部屋の中央に位置する場所に設けられた、上質ないぐさを編んで作られた円座の存在を、ゴンザは意識していた。
当主のジエンよりも上座に当たるその場所に坐(ざ)するのは、恐らく…
と、そのとき、ゴンザの思考が中断された。
廊下をこちらのほうに進んでくる、遠慮のないドスドスとした足音が耳に入ってきたからだ。
「おお、すまん、すまん。待たせたか?」
豪放磊落(ごうほうらいらく)な声が座敷に響き、その声の主が空いていた円座に、どすんと腰を下ろした。
まるでちょっとした小さな嵐が来たかのようだ。
その嵐は、それまでピリピリとした緊迫していた空気を大きく混ぜっ返すと、さっきまでの空気とは別の緊張感を生み出していた。
「いえ…」
ジエンが能面のような顔をピクリとも変えずにその人物に応じて、続けて言った。
「さっそくですが、闘我様。
これに控える者達が、ゴンザとアンナでございます」
ジエンにそう紹介されて、2人は反射的に手をついて頭を下げていた。
「うむ…
ゴンザにアンナと言ったか… 2人とも、そうかしこまらんでもよいぞ。
さあさ、顔を上げた、上げた!」
魔戒騎士の頂点に立つ牙狼の称号を持つ男から、そんなふうな快活な声がかけられると、2人は恐る恐る顔を上げた。
すると、目の前にいる男は、ゴンザが想像していたのとはだいぶん違っていたことに少なからず驚いた。
先程の言動から見て、野生の熊みたいな大柄で粗野な男かと思っていたのだが、実はわりと華奢な感じで、顔には人懐っこい笑みを浮かべている。
「優しい」というよりは、飄々として掴(つか)みどころのないような印象を持った、どこにでもいそうなごくごく普通なおじさんがそこにはいた。
「実はな、大河… 俺の息子のことなんだが…」
闘我がそう口を開くと、ゴンザはハッと我に返って、ガバッと手をついた。
「大河様を危険な目に合わせてしまって、ほんとにすみませんでした!
でも、アンナのお陰で無事だったんです。本当です!
だから、もしお叱りがあるなら俺… いえ、私ひとりにお願いしますっ」
必死に訴えかけるゴンザに、ジエイは、これこれ、と声をかけようとしたが、すぐに闘我が手で制した。
少し渋い顔で座り直したジエイに、闘我はうっすらと笑みを返して、すぐさまゴンザに向き合った。
「ゴンザ、安心しろ。
大河のことでおまえやアンナを咎めるつもりは毛頭ないのだから…
それよりもおまえに頼みがあるのだ…」
闘我の優し気な言葉で、叱られるのではないと知ったゴンザは心底ほっとしたが、闘我の言う「頼み」というのが何なのか気になった。
そんなゴンザの気持ちがわかったのだろう。闘我は前置きもなく、本題にズバッと踏み込んだ。
「実はな、ゴンザ…
俺は、おまえに執事見習いとして、我が家に来てほしいと思っているのだ…」
「…」
ゴンザは驚いて顔を上げた。そして、口をポカンと開けたまま時間を止めてしまったようになった。
それと反して、隣のアンナの顔が満面の笑みになる。
「ゴンちゃん、やったじゃん!
すごいよ、すごいっ!」
興奮したアンナは、動きを止めたゴンザをゆさゆさと揺さぶって喜んだ。
「えっ、俺…!?」
困惑しながらも闘我の言葉の意味が少し理解できたゴンザだったが、すぐに顔を青ざめさせてジエンの方を見た。
案の定、ジエンはムッツリと不機嫌そうだ。
それはそうだろう。本家には、サトル達兄弟がいた。選ばれるとしたら彼らの方がずっとずっと適任だった。
ゴンザの視線に気づいたシエンは、こほん、とひとつ空咳をして闘我に対して言った。
「闘我様、今一度、お考え直しいただくわけにはまいりませんか?」
口調こそは穏やかだったが、それが却(かえ)って、ジエンが闘我の決定に納得がいっていないことを伝えていた。
ジエンの硬く冷たい口調に肝を冷やしたゴンザは、
「そ、そうです!
わ、私にはそのような大役、つとまるはずがありません!」
と、ジエンの懸念に同調するように言った。
それを受けて、ジエンがさらに言った。
「いえ、勘違いのなきよう申し上げますが、決してゴンザが不出来だと申しているのではありません。
ですが、ゴンザには冴島家にお仕えするにはそぐわない事情がございまして…」
最後は少し言いにくそうな彼に、闘我は、
「ああ、あの痣(あざ)のことか…」
と、とぼけた調子で言った。
「そうでございます。そうでございます!」
ジエンの顔がぱっと明るくなった。
我が意を得たり、といったところか…
。
「ゴンザの身体にある痣は、冴島家にとっては忌み嫌う形。
将来の牙狼たる大河様のおそばに置くには、ゴンザは適した者とは言えますまい…」
ジエンと闘我のやりとりを硬い表情で聞いていたゴンザが、ひざに置いた手をぎゅっと握りしめた。
一瞬、夢見た冴島家入りの夢は、あっという間に消えてなくなるのだなと、観念しようとした。
すると、闘我は
「ゴンザ、その忌まわしき痣を見せてみろ」
とゴンザに向かって言った。
「えっ! ですが…」
そんなものを闘我の目に触れさせては、と戸惑うゴンザに、闘我は
「いいから見せてみろ」
と言った。
その目は真剣で、先程までのヘラヘラしたおじさんの姿はなかった。
牙狼として戦うときの100分の1にも満たないくらいの気迫であったが、牙狼の片鱗を、ゴンザは間違いなく見たと思った。
そんな闘我の気迫に押されながらも、ゴンザは闘我の目を見つめ返した。
そして、意を決すると、無言でうなずき、その痣のある左耳を闘我のほうに向けた。
to be countiued(6へ)
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コメント
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
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