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きんのまなざし ぎんのささやき

あの子が酔ったら(1)

新年会シーズンに「酔っぱらい」をテーマに書けないかなぁ~ と思っていたのですが、それっきり忘れて今に至りました。(笑)

花見のシーズンも過ぎてしまいましたが、あれこれ理由をつけて、あの子を酔わせてみましょうか。


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まだ明けやらぬ薄暗がりの中。
温かいベッドの中でカオルはゴロンと寝返りを打った。

(ん… ん?)

何か温かいもの… だけど、布団のようには柔らかくないものにぶつかり、まだ眠い目を薄く開けてみる。

「…?」

目の前に見えるものにぼんやりと焦点を結んでいく。

「… えっ?」

あまりのことにカオルの口から驚きの声が漏れた。
慌てて部屋の様子に目を走らせると、そこは彼女の部屋などではないようだ。
ベッドサイドで小さく灯るスタンドの明かりでは詳細な様子はわからないが、部屋の醸し出す匂いというか雰囲気というかは、カオルのよく知っている ’彼’ の部屋であることを伝えていた。

…ということは。
やはり、今、目の前で寝ているのは、’彼’ に違いなかった。

その ’彼’ は、穏やかな顔で規則正しい寝息を立てながら、ぐっすりと眠っている。



(どうして、あたし、ここにいるんだっけ?)

当然のことだが、そんなことを疑問に思い、昨晩のことを必死に思い出そうとしてみる。

(昨日は、確か、出版社の創立50周年の記念パーティに出席したんだったよね…
 少しお酒も飲んだけど、ちゃんとここに帰って来たことは覚えてる!
 うん! 間違いない!

 で、その後は、ちょっと眠いな、と思いながら、お風呂に入りたいなって思って…
 あっ! そしたら、お風呂の中で、急に酔いが回ってきちゃったんだった!
 慌ててお風呂からあがって… それから… あれ? それから、どうしたんだっけ?)

そこまで考えたところで、記憶が曖昧になってきた。
一生懸命思い出そうとするが、自分の部屋に戻った記憶がない。
かと言って、鋼牙の部屋に入った記憶というのも全然ないのだ。
でも、記憶はなくても、カオルが今、鋼牙の寝室のベッドで鋼牙の隣りで寝ているという事実が目の前にある。

(あたしったら、ひょっとして、酔った勢いで鋼牙の部屋に押しかけちゃったんだろうか!?)

そんなことを考えていたが、すぐに考えを方向転換させる。

(違う、違う! そんなことを悠長に考えてる場合じゃない!

 きっと、昨日のあたしは鋼牙にみっともないところを見せちゃってるに違いないもの。
 このまま朝を迎えて、鋼牙と顔を合わせるなんてことは、絶対恥ずかしすぎる!
 できればそんなことは避けたいっ!

 と・に・か・く!
 鋼牙に気付かれないうちに、ここからそっと出ていかなきゃ…)

カオルは目の前で眠る鋼牙を起こさないように、そっとそっと離れようとした。
息をつめ、振動を伝えないよう、そっと、そっと…
なんとかベッドの端まで移動したところで、ゆっくりと身体を起こそうとする。
鋼牙は何の変化もなく、眠り続けている。
ベッドから腰が浮き、最後にベッドについていた右手が離れ、

(よし!)

と安心したときだった。
カオルの右手がガシッと掴まれた。

「!」

驚いて声をあげそうになった口を、カオルは慌てて空いているほうの手でふさいだ。
そして、ゆっくりと振り返る。

そこには、ベッドから鋼牙が上半身を起こしかけながら、カオルの手を掴んでいる姿が見えた。

「こ、鋼牙… あ、あの、起こしちゃった?」

赤くなりながらも、できるだけ平静を装ってカオルは言った。

「…」

だが、カオルの手を放そうともせず、鋼牙は無言のままじっとカオルを見つめていた。
その沈黙に、なんともいえない居心地の悪さを覚えて、カオルは言葉を探した。

「き、昨日の記憶があんまりないんだけど、あたし、きっと押しかけちゃったんだよね?
 えっと、ごめんね…」

「…」

それでも何も言わない鋼牙に、カオルはさらにおずおずと声をかける。

「まだ夜明けまでには時間があるから、あたし、部屋に戻るね。
 そのほうが鋼牙も伸び伸びと眠れるでしょ?

 お邪魔してごめん。
 あの、ゆっくり休ん…で…」

カオルが最後まで言う前に、鋼牙は掴んでいた手をグイッと引き寄せた。

(あっ!)

突然のことにカオルは踏ん張ることもできず、バランスを崩してベッドのほうに倒れ込んだ。
だが、そんなカオルを鋼牙は当然のごとく、しっかりと抱き止めた。

至近距離となった鋼牙に、カオルは思い切って尋ねてみた。

「ねぇ、何か怒ってるの?
 それとも、寝ぼけてる、とか?」

先程からの鋼牙が無言である理由を、カオルはそんなふうに解釈したらしかった。

「いや…」

一言だけ否定の言葉を口にしたが、それ以上はまたダンマリだ。
その代わり、鋼牙はカオルをさらに抱き寄せたかと思うと、カオルの髪に顔を埋めた。

そうしながら、鋼牙は昨晩のことを思い出していた。



カオルが帰宅したのは、夜中近くだった。

「先に寝ててくれていい」

カオルはそう言って出掛けたが、ゴンザはなんとなく待っていたようで、

「ちょうど今、戸締りをして寝ようとしていたところです」

などと言いながら、カオルの帰りをパジャマ姿で出迎えた。
少し酔っているとはいえ、ゴンザの心遣いにちゃんと気付いたカオルは、

「遅くなってごめんね…」

と謝りながらも、寝ずに待っていてくれたゴンザに嬉しそうな顔を向けた。
そんな玄関ホールでのやりとりを、書斎にいた鋼牙はなんとなく肌で感じていた。

戸締りをチェックしたゴンザはそのまま部屋に下がっていき、2階の自分の部屋に行ったと思ったカオルが、程なくして、階下に降りてきて風呂に入った気配がした。

その後しばらくの間、書物を読み続けた鋼牙は、ちょうど区切りのよいところまで読んだところでパタンと書物を閉じた。

(さて、寝るか…)

革張りの肘掛け椅子に手をかけ、フッと立ち上がったその時だった。

  カタン…

微かな物音が鋼牙の耳に聞こえた。
それは、風呂場のほうから聞こえてきたようで、

(カオルが何か落としたのか?)

と思った程度の小さな音だったが、なんとなく気になった鋼牙は、書斎を出たその足で風呂場のほうに向かった。
すると、風呂場に続くドアが少し開いていた。

「!」

なんとなく嫌な予感が鋼牙を襲い、知らず知らず早足になる。
ドアのそばまで来ると、

「カオル? 入るぞ!」

と形式的に声をかけ、返事を待たずにドアの内側を覗いた。
すると、ドアのすぐ内側に、洗面所の縁に手をかけてうずくまるカオルの姿を見つけた。

「どうした?」

鋼牙はすぐにカオルの肩に手をかけながらひざまずき、カオルの顔を覗き込んだ。

「なんか急にお酒が回ってきちゃったみたいで…
 う~、クラクラする…」

目を閉じてしかめ面をしながら、カオルは何かに耐えるようにじっとしていた。

「吐きそうか?」

鋼牙が尋ねると、

「ううん、それは大丈夫そう。
 ただ、目を開けていられないという… か…」

と、とうとうペタリと腰を下ろしてしまい、洗面所にもたれかかるようにした。
放っておいたら、このままここで寝てしまいかねない感じだ。

(やれやれ…)

鋼牙は心の中で溜め息をつき、

「こんなとこで寝るな。 風邪をひくぞ」

と声をかけたが、

「うん…」

と返事をしたきりで、カオルが動き出す様子はなかった。

「仕方がない。
 部屋まで連れて行ってやる」

鋼牙はそう言うと、カオルをひょいっと抱き上げた。



to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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