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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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あんたにしか(1)

頻繁にアップできない予感しかないのに、また新しい妄想を始めようとする無謀…
しかも単発で終わらない、という無謀…

でも、書いてみたいんです。

1話アップしたら続きを書かざるを得なくなるはず。
そう自分を追い込んで走り出します! 見切り発車、しゅっぱ~つ!



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最初に邪美が感じたのは、ちょっとした ’違和感’ のようなものだった。



北の管轄にいる鋼牙に「おまえに見てもらいたいものがある」と呼ばれて、閑岱の地を留守にしていた邪美。
その邪美が、1週間ぶりに帰ってきたときのことだ。
人里から遠く離れて、獣にしか会わないような山道をずんずん進むと、あるところを境に山の緑がより一層濃くなる。
閑岱の里を覆う巨大な結界を抜けると、そこはもう人界とは異質な場所だ。
目を遠くに転ずると里の入り口が見え、そこに翼と日向との姿を見た。
どうやら、見廻りにでも出ていた彼らが、たまたまここで顔を合わせてそれぞれの状況を報告し合っているような、そんな様子に邪美の目には映った。
邪美の存在に先に気付いたのは、邪美に半分背中を向けるように立っていた翼ではなく、顔を向けていた日向の方だった。

「あ…」

話の途中で後方の何かに気付いたらしい日向を見て、翼も振り返った。
日向が、手を高く上げて邪美に向かって大きく振ると、邪美も表情を緩めて軽く手をあげた。
一歩一歩足を進めた邪美が、日向たちのところまでやってくると足を止めた。

「おかえりなさい、邪美さん」

日向の出迎えの言葉に、

「ただいま」

と邪美が答えた。

「用事はもう済んだのか?」

表情を崩さずに翼が言う。
邪美は、

(相変わらず愛想がない男だねぇ)

と思いながら、

「ああ… まぁね」

と返事を返す。
いろいろ話したいこともあったが、

(詳しいことはあとでゆっくり話せばいいか…)

と思い、この場では当たり障りのない返事をするにとどめた。

「そうか…」

翼のほうも一言そう言ったきりで、これ以上、会話を続ける気はないようだった。
そのときに一瞬、翼の表情に刷毛で引いたような固さが見え、邪美はそれが気になったが、黙っていた。
一方、日向は日向のほうで、会話のまったく弾まないふたりの間にいて、

(このふたりにとってはこれが普通のことなのか?)

と戸惑いながら、居心地の悪さを感じて仕方なかった。
そこで、

「じゃあ、俺、山瀬の谷のほうの見廻りに行ってきますね…」

と遠慮がちに言うと、そそくさとその場を去ることにした。
急ぎ足で立ち去る日向の背中を見て、

「では、俺も行く」

と翼は日向とは別の方向に歩き出した。
が、ふと足を止めると、顔を半分だけ向けて

「邪美、鈴に顔を見せてやってくれ。
 おまえがいなくて、ずっとつまらなそうだったから」

と言った。

「ああ、わかったよ。
 帰ったらすぐに会いに行くとしよう」

そんな邪美の返事を聞くと、翼は真っ直ぐに顔を前に向けて歩き出した。
翼の白いコートの裾から、赤いプリーツが規則正しく見え隠れしているのを見送りながら、

(どことなく、いつもの翼と違うような…)

と、邪美は思っていた。

(しばらく会ってなかったからかねぇ)

翼の態度に感じた微妙な違和感を、邪美はそんなふうに捉えることして、気分を取り直して里へと足を向けて歩き出した。



山刀家に向かう途中、畑の中に人影を見た。鈴だ。
手に抱えている笊(ざる)に、今晩の夕食にでも使うための野菜を収穫しているようだった。

「りーん」

邪美が口元に手を添え、少し大きな声で呼んだ。
ハッとして立ち上がった鈴が、邪美のほうを見てにっこりと笑う。

「おかえりなさーい!」

同じように大きな声で返すと、邪美の方に向かって畝伝いに歩み寄ってきた。
邪美も足を急がせて鈴に近づく。
畑の端でふたりは対面すると、

「ただいま、鈴」

と邪美が言った。

「お帰りなさい。
 ねぇ、今夜はうちに来て食べるでしょ?」

聞かれた邪美は、

「嬉しいねぇ。
 鈴の作るごはんは、うまいから楽しみにしてるよ。
 ところで、今夜は何を作ってくれるんだい?」

と笊の中を覗き込みながら尋ねた。

「ふふふ、それは来てからのお楽しみだよ。

 ねぇ、邪美。兄ぃには会った?
 邪美が帰ってきたって知ったら、兄ぃも喜ぶよ」

「ああ。翼にはさっき会った。
 鈴が寂しがっていたから顔を見せてやれ、って言われたよ」

「なにそれ!
 邪美がいなくて寂しかったのは、兄ぃのくせに…」

鈴が不服そうに言った。

「翼が?」

「そうだよ。
 邪美が出掛けてから、なんだか不機嫌っていうか、イライラしてるっていうか、ずっと様子が変だったもの…」

「へぇ~ 翼がねぇ」

「兄ぃがそんなだから、鈴も困っちゃって、笑うに笑えなかったんだから!」

「そうだったのかい…」

鈴の言葉に、邪美まで困ったような顔になった。
それに気づいた鈴は慌てて、

「でも、邪美が帰ってきたから、兄ぃの機嫌もよくなるよ。
 だから、邪美は気にしないで!」

と取り繕うように言った。

「ああ。
 とにかく、今夜はご馳走になりに行くよ」

「うん。待ってるよ」

ふたりは、それじゃ、と同時に手をあげると別れた。

邪美は再び歩き始めると、さっき会った翼の様子と鈴の話についてぼんやりと考えた。



to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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