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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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あんたにしか(3)

お、お待たせしました!
探り探りで書き続けてます…

多分、きっと、こっち方面で方向は合ってます。
うん… おそらく…

拍手[15回]




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「こいつはすごいねぇ
 これだけの量をよく作ったもんだ。
 食べきれないくらいあるじゃないか」

鈴に夕食に誘われて山刀家を訪れてみると、食卓を見た邪美は感嘆の声をあげた。
かぼちゃやレンコンなど季節の野菜の天ぷらに、アツアツのふろふき大根、ホウレンソウの胡麻和え、ロールキャベツに、ゴマをたっぷり使ったきんぴらごぼう…
久し振りに閑岱に帰ってきた邪美のために、鈴が腕を振るって作ったたくさんのご馳走が並べられていたのだ。

「大したものはないけどさ。好きなだけ食べてね」

まだ少し幼さの残る鈴の笑顔に、邪美も思わず笑顔になる。

「ありがとう、鈴。
 それじゃあ遠慮しないで、ご馳走になるとしよう」

「うん!」

顔を見合わせて笑い合うふたりに、それを脇で眺めている翼の顔もつい優しくなる。

鈴が丹精込めて育てた野菜を愛情込めて料理した品々に、邪美は次々と舌鼓を打った。
両親を早くに失くした鈴は、料理の腕前はなかなかのものだ。
邪美は普段からもよく鈴に誘われて、この兄妹と夕食を共にすることがあった。

「二人分作るのも、三人分作るのも一緒だから、遠慮しないで!」

そう言って誘う鈴だったが、こっそり聞いたところによると、鈴は無口な兄とふたりだけで囲むお通夜のような食卓がどうやら嫌いらしい。
もちろん、邪美だって決してお喋りなほうではないが、翼とは違い、鈴の話をちゃんと聞いてくれるし、相槌だって打ってくれるから、お喋り好きな鈴にとっては翼よりもずっとずっとイイ話し相手だった。
今宵も、久しぶりに閑岱に戻ってきた邪美を交えて、とても会話が弾んでいた。
邪美が鋼牙に呼び出された用件や冴島家の人たちの近況に始まり、我雷法師が最近凝りだしたダンスの話や、日向が里の娘とイイ感じになっているという恋バナといった邪美のいない間にあった閑岱の出来事など、話題はあとからあとから尽きずに出てくるのだ。

そんな楽しい食事が終わると、いつものように邪美と鈴はふたりで食後の後片付けをする。
そして、一緒に仲良く並んで皿洗いをするふたりの後ろ姿を見ながら、熱いお茶を飲む… それが翼のいつもの過ごし方だった。

「あぁ、よく食べた。
 久し振りに食べた鈴の料理がおいしくて、ちょいと食べ過ぎちまったよ」

「えへへ、お粗末様でした。

 ねぇ、邪美。 今日は疲れたでしょ?
 よかったら、うちに泊まっていってもいいんだよ。ねぇ、兄ぃ?」

鈴が振り返って、兄に同意を求める。

「ああ。俺は別に構わんが…」

お茶を飲む手を止めて翼がそう答えると、邪美は答えた。

「ありがとう…
 でも、ずっと家を空けっ放しだったからねぇ。
 やっぱり、今夜は家に帰るとするよ」

その答えが終わると同時に、邪美は最後の茶碗を洗い終えた。

「それじゃ、そろそろ行くとするか…
 鈴、翼、ごちそうさん」

「そう?
 それじゃ、気をつけて帰ってね。
 おうちでゆっくり休んで…」

真っ直ぐに戸口に向かう邪美と一緒に、鈴も後ろをついていく。
邪美が戸を開けると、夜の闇と冷たい空気が襲ってきた。
風に吹かれた髪を手で押さえた邪美は、それでも立ち止まることなく、しっかりとした歩調で歩いていく。
何歩か進んだ後、邪美振り返って戸口に立って見送っている鈴に手を振った。
鈴もそれに応えるように手を振り、わずかな月明かりしかない暗い夜道を歩いていく邪美の後ろ姿を見て、少し寂しいような気持ちを感じていた。

すると、鈴の後に翼が立った。

「鈴、見廻りに行ってくる」

そう言うと、鈴の脇を抜けて外に出た。
そして、邪美と同じようにしばらく歩いたところで振り返る。

「鈴…」

「はいはい、しっかり戸締りしろ、先に休んでていいぞ… だよね?
 わかってるから、早く行きなよ、兄ぃ。
 邪美に追いつけなくなっちゃうよ?」

それを聞いて、慌てて翼が叫ぶ。

「鈴っ!」

「わかってる、って!
 別に俺は邪美を送っていくとか、そんなんじゃない、って言うんでしょ?

 あ、ほら! 邪美の姿が見えなくなっちゃうよ!」

「…」

翼は何も言わずにしかめっ面を作ると、小さな溜め息まじりに、

「行ってくる…」

とだけ言い、足早に邪美の姿が消えそうな濃い闇の向こうへと歩き出した。

「行ってらっしゃい」

兄の後ろ姿にそう呼びかけた鈴は、

「兄ぃったら、もう少し素直になればいいのにさ…」

と呟くと、家に入って戸を閉めた。
そして、兄の言いつけどおりに、しっかりと鍵をかけると、

「さてと…、お風呂にでも入ろうっと!」

と鼻歌交じりに家の奥へと入っていった。




「邪美!」

邪美に追いついた翼は後ろから声を掛けた。
邪美は、フッと笑うと振り返り、

「見廻りかい?」

と何気ない顔で言った。

「ああ、まぁそんなところだ…」

そう返事をした翼が、邪美と肩を並べて歩き出した。
邪美が翼の家で食事を共にしたときには、ひとりで帰る邪美を送るために ’見廻り’ と称して翼がくっついてくるのはいつものことだった。

そう言えば、以前、

「ほんとは、あたしのことを送ってくれてんだろ?」

と冗談めかして言ってみたことがあった。
ところが、翼が

「そういうわけではない…」

と不愛想に否定するもんだから、邪美のほうもつい意地悪をしたくなって、

「おや? ひょっとして照れてんのかい?
 少しはあたしのことを、女だと認めてくれてるんだろう?
 え? ほんとのところはどうなんだい?」

としつこく茶化してしまった。
そんなことをしたら、結末は見えていようというものだ。
案の定、導火線の短い翼は、すぐにすごい剣幕で否定してきた。

「しつこいな! ’見廻り’ だといったら、’見廻り’ なんだ!
 相手がか弱い女ならともかく、おまえなら俺が見送らなくても自分の身くらい守れるだろ!」

その言葉が翼の本心かどうかはともかく、真っ向からそんなふうに言われると、正直言ってあまり気持ちがいいものではない。
そんなことがあった後、しばらくはギクシャクしていたのは確かだが、それでも、夜、邪美が翼の家から帰るときには、余程のことがない限り、翼は ’見廻り’ を一度も欠かしたことはなかった。
そういう翼の武骨な思いやりを邪美は嬉しいと思っていたのだが、感謝の言葉を口にしても、あの男がそれを素直に受け取ることがないこともわかっていた。
だから、邪美はそれ以降、翼が送ってくれることに関してあれこれ言うことはやめることにした。
'ありがとう' を言う、その代りに。

もちろん、邪美の感謝の気持ちが翼に伝わっているのかはわからない。
言わなくても気づいてくれ、というのは女のワガママだ。
だが、邪美にはどうすることもできない。
彼女もまた、こういうことには不器用なのかもしれない。



to be continued(4へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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