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きんのまなざし ぎんのささやき

おまえのせい(14)

お~ もう8月になってる!
月日が経つのは早すぎる…

だらだら続いているこの妄想に、最後までお付き合いしてくださる人が何人いるか不安ですが、ご興味があれば、続きをどうぞ!


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カオルは鋼牙を見上げていた。
ベッドに投げ出されたカオルにまたがる形で、鋼牙はカオルを見下ろしている。
それは、少し息苦しいような沈黙の時間だった。

カオルの髪は放射線状に白いシーツの広がり、鋼牙を真っ直ぐに見る目にはこれから起こるであろうことへの恥ずかしさの入り混じった期待と、その中にほんのひとしずくだけ不安のようなものがエッセンスとして混じっているようで、何とも言えない艶っぽい魅力があった。

ふと、鋼牙の目に、カオルの姿に重なるようにセクメトの姿が浮かんできた。
鋼牙が牙狼剣を振り下ろした直後、その強い波動を受けたセクメトの髪は風を受けたように美しく四方へとなびいた。
まるでスローモーションのように倒れていくセクメトの表情には苦痛などなく、オリトを苦しめていた自分の陰我を終わらせることのできる安堵と喜び、そして、オリトとの別れに対する切ない哀しみがわずかに見え隠れした美しい顔をしていた。

もちろん、カオルとセクメトは、顔も、持っている雰囲気もまるで違う別人だ。
そしてだぶって見えた彼女たちが置かれていた(る)状況も全く異なっている。
それなのに、一瞬ふたりがシンクロして見えたのはどうしたことだろうか。
ひとつだけあるとすれば、どちらも鋼牙を信じ、その身をすべて彼に委ねようとする心情が、唯一の共通点であると言えた。



セクメトの姿が浮かんだことで、鋼牙の意識は ’あのとき’ へと引き戻される。

もちろん、鋼牙は、セクメトを斬ったことに迷いはなかった。
仮に、時間が逆行して、あのときの状況に再び遭遇することになったとしても、鋼牙は同じようにセクメトを斬っただろう。
何度も、いや何十回引き戻されたとしても、間違いなくそうすると自信を持って断言できた。

だが、もしもオリトの置かれた状況に鋼牙が陥ったとしたら、果たしてどうだろうか?
セクメトを斬ることに迷いはなくても、オリトと同じ道を歩まない、と言い切れる自信が鋼牙には…



そういえば、かつて、鋼牙を阻止するために魔戒樹がカオルの幻を見せたことがあった。
あのときは、カオルの姿をした幻を斬ることに迷いながらも、ザルバに助けられてなんとか絶(た)つことができた。
それは、本物のカオルは自分の夢を実現させるためにがんばっている、生きているんだ、と思えばこそできたことでもあった。

だが。

 もしもカオルがすでにこの世にいなければどうだったろう?
  生きて再び巡り合える可能性がゼロだというならば…

そのとき、鋼牙が道を踏み外さない保証はどこにもなかった。

セクメトのことを除けば、技量も心意気も素晴らしい魔戒騎士であるオリトですら道を誤ったのだ。
だからこそ、鋼牙も彼と同じ轍(てつ)を踏むことは、十分考えられる。
オリトと鋼牙とは、大した違いはないのだ。魔戒騎士であり、人間であり、愛する者がそばにいる(た)…
そう思うと、鋼牙の中に、どうしようもない深い悲しみが沁みこんでくるのだった。





カオルは、鋼牙にとって特別な存在だ。

彼女がいればこそ、鋼牙はホラーと闘い、人間を守りたいと強く思うことができるのだ。
彼女がいればこそ、どんなに困難な局面であっても、必ず無事に帰るのだと諦めない心を持ち続けることができたし、彼女がいればこそ、傷つき疲れきった身体や、心無い仕打ちに打ちひしがれそうになった心が温かく癒されたりもした。

そして、そんな彼女だからこそ、失ったときのダメージを考えると計り知れなかった。
カオルを失うかもしれないと考えるだけで、まったくの平静でいられなくなる自分に戸惑いを覚えてしまう。
最高位の牙狼の鎧を受け継ぎ、魔戒騎士として誰よりも強くあろう、そして正しくあろうと思っている自分が、滑稽なくらい動揺するのだ。
それもこれも…

「おまえのせいだ…」

鋼牙は眉間に皺を浮かべて口を尖らせるようにして呟いた。

「えっ?」

驚いて聞き返したカオルは、そこに、傷つきやすい少年の顔をした鋼牙を見た。
カオルの視線に気づき、すぐにハッとした鋼牙は、どうにか大人の顔を取り戻そうとしたがうまくいかない。
仕方がないから、鋼牙はベッドから降りて窓辺へ向かうと、カオルに背中を向けた。

ベッドの上で身体を起こしたカオルは、何かあったの? と聞きたかったが、その気持ちをグッと堪(こら)えた。

(たとえ尋ねたところで、この人は何も答えない、言おうとはしない…)

冴島鋼牙とはそういう男だと、カオルは知っていた。
だから、わざと明るい声で鋼牙の背中に反論した。

「んもう!
 なんでもかんでも、あたしのせいにしないでよね!」

それを聞いて、窓の外を睨むようにしていた鋼牙の顔が、ふっと和らいだ。

「すまない… なんでもないんだ。 今の言葉は忘れてくれ」

まだカオルのほうには顔を向けなかったが、ずいぶん柔らかい声で鋼牙は言った。

「そう…」

カオルは少しだけ安心して答える。

「ねぇ、鋼牙…」

カオルは続けて呼びかけてみた。

「なんだ?」

いつものような優しい声音に戻っている鋼牙に、カオルは反応を窺うようにおずおずと訊いてみた。

「今夜はひとりでいたい?
 それともあたしがそばにいてもいい… のかな?」

鋼牙はゆっくりと振り返り、カオルをしばらく見つめていたが、やがて落ち着いた足取りで近づき、ベッドの端に腰を降ろした。
カオルへと伸ばした手が一瞬躊躇したが、彼女の頬にそっと触れてきた。

「…不安にさせたか?」

少し心配そうな表情で尋ねる鋼牙に、

(そう言う自分のほうが不安そうなくせに…)

とカオルは思いながら、クスッと笑って首を横に振った。

「ううん。
 ただ、鋼牙がどうしてほしいのかな、って思っただけだよ。
 鋼牙の望むようにしてあげたいだけ…」

カオルが落ち着いた声でそう言うと、突然、
悪戯っぽく笑って

「眠れないなら、子守唄でも歌おうか?」

と言った。
こういうカオルの屈託のない明るさが、いつだって鋼牙をひどく安心させてくれるのだ。
こうなると、あまりの愛おしさに、鋼牙はいつものポーカーフェイスが保てなくなる。
鋼牙は手荒くカオルを抱き寄せると、少し泣きそうな、それでいてとても嬉しそうな顔を彼女の髪に埋めた。

「ああ、子守唄でもなんでも歌ってくれ」

「え、子守唄でもなんでも、って…
 それって適当にあしらわれてる感じがして、なんか気分悪いんですけど!」

カオルは怒ったように口を尖らせた。
そして、手加減なく(いや、ほんとはかなり手加減しているのだが)ギリギリと荒っぽく抱きしめる鋼牙に向かって、

「ちょっ、鋼牙…
 この体制、苦しいんだけど…」

と非難めいた言葉を吐いた。
すると、鋼牙は抱き締めていた腕の力をゆるめ、
カオルの身体の何カ所かに軽く触れた。
カオルにしてみれば不思議なことだったが、重心を崩されたかと思うといつの間にか
ベッドの上に押し倒されてしまっていた。
それはまるで、巧みなマジシャンの仕掛けたトリックに綺麗に引っかかってしまったような感覚で、気付けば鋼牙と
至近距離で見つめ合っていた。

「俺のそばから離れるな」

いつになく真剣な目の鋼牙に、カオルは少女のようにドキドキした。
こんなにストレートな言葉を言う鋼牙を、カオルはあまり知らない。

「うん…
 鋼牙も、離さないで」

少女のように無垢な目をしたカオルに、鋼牙は想いを新たにする。

「離すものか」

至近距離だったふたりの距離が、だんだん近づき、やがてゼロになった。





鋼牙の前を去ったオリトだが、その足でまっすぐ番犬所に出頭した。
怪我の治療にも厳しい詮議にも、オリトは素直に応じ、大人しく従った。
ところが、ある日を境に、番犬所の監視の目を潜り抜けてオリトは姿をくらましてしまったのだ。
もちろん、すぐに探索の手は伸ばされたが、とうとう彼の行方はわからないままとなった。

ただ…
最後にオリトを見た者は言った。
彼は、どこか哀しげな影を持っていたが、それでもしっかりと前を見据えて歩いていた、と。





時に、人間は、愛する者のせいで脆(もろ)くもなり、愚かにもなる。
だが、愛し合うふたりの未来がどうなろうとも、互いを信じ、手を取り合うことで強くなれるはずだ。
そして、愛する者を失くした者も、いつかはその哀しみを乗り越え、立ち上がるときがきっとくる。

よりよい自分に変わろうとすることが人間の素晴らしさであり、愛おしいところ… 鋼牙はそう思っていた。


   いつかまた、あいつとは魔戒騎士としてともに闘う日が来るはずだ。
     オリト、きっと帰ってこい!



Fin
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だいぶん駆け足でしたが、なんとか最後まで辿りつけました。
ここまでお付き合いいただいた方、どうもありがとうございます!(そして、お疲れ様です!)

あんまり気ままに書き過ぎて、どうやって2話目に戻そうかと、かな~~~り苦しみました!
何度書きかけて消しただろう… (^_^;)

でもいいの!
鋼牙さんがカオルちゃんに「離すものか!」って言ったから!
これまで、うちの鋼牙さんはこういう積極的な言葉はほとんど言わなかったので、結構すごい進歩かも!

いやはや、何より終わったことにホッとしてます。
よかった、よかった…

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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