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きんのまなざし ぎんのささやき

牙 狼(冴 島 鋼 牙 Ver.)の世界を、気ままに妄想した二 次 創 作 サイトです

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もう切り上げよう!
  もうやめよう!
そう思っているのに、暗い話が続きます。
(自分の中の ’暗い部分’ を、一生懸命かき集めて書いてます!)

いい加減、暗いのはちょっと… という方は読み飛ばしていただいても全然構いません。
今回は、そういう回だと思います。


あと…
今回は魔戒語が出てきます。
ネットって便利ですね。魔戒語に変換するツールも転がってるんですから…
ほんと、大助かりでした!

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真夜中過ぎ。

ふと目が覚めたオリトは、見慣れた天井をぼぉっと見ながら

(腹が減ったな…)

と思った。
そう言えば、結局あれから何も食べずに眠ってしまったのだ。
この半日足らずのうちにとんでもないことが起こったというのに、こんなときでも空腹を感じる自分が無性に可笑しくなり、クックックと喉の奥で嗤った。
隣を見ると、ジョアンがすーすーと穏やかな寝息を立てて眠っている。
愛しさとやるせなさの入り混じった表情で、無邪気なジョアンの寝顔を見ていたオリトは、やがて、彼女を起こさないように、そっとベッドを抜け出してキッチンへと向かった。


キッチンのテーブルの上にはジョアンの作った料理が手つかずで放置されたままだった。
今夜のメインはチキンのグリルだ。
食べやすいように手頃な大きさにカットされているチキンに手を伸ばし、口に放り込んでみる。

(少し固くなっちまったな…)

時間の立ったチキンをもぐもぐと咀嚼してようやく腹の中に落とし込むと、二切れ目に手を伸ばすのはやめ、手についた油をペロリと舐めて立ち上がった。
冷蔵庫に何かないかと思い、中を除くと、ボールに入ったコールスローサラダがあるのを見つけた。
ついでにジンジャーエールの瓶を掴んで、パタンとドアを閉める。
引き出しから栓抜きを取り出して瓶のフタを開け、大きめのスプーンをひとつ持ってテーブルに戻ると、ボールのラップを無造作にめくり、スプーンを突っ込んでじかにサラダを口に放り込んだ。
が、途端に、顔が歪む。

(水っぽいな…)

あまりにも時間が経過したせいで、ジョアンのせっかくの手料理がことごとく残念な状況になってしまった。
それでも、

(慣れれば、まあ、食べられないこともないか…)

と思い直して、時折ジンジャーエールで喉を潤しながら、気の済むまで食べ続けた。


ふと、オリトの手が止まった。
手にしていたスプーンをボールに放り込んだかと思うと、オリトは頭を抱えてしまった。

どうしようもない悲しみが彼を襲う。
ジョアンの肉体はよみがえったというのに…
ついさっきまでベッドでその身体の温もりを感じていたというのに…
ジョアンの遺(のこ)していった料理をひとりきりで食べるうちに、寂しくて寂しくて仕方がなくなってきた。

やがて、真夜中の台所から、オリトの押し殺したような嗚咽が聞こえてくるのだった。




 ギシッ

ベッドをきしらせてオリトがベッドから滑り出ると、部屋を出ていった。
たっぷりと時間を置いてから、眠っていたはずのジョアンが暗闇の中で目を開く。
その目はギラギラと獣じみた強い光を放っている。

そっと手を伸ばすと、オリトの寝ていた場所に届く。まだ温かい。
途端にジョアンの目は少し切なそうに色を変えた。

今まで感じたことのない感情に、ジョアン… いや、ジョアンの姿をしたホラー セクメトは動揺していた。

「ゴルアッケムユガ…」
(どうなってるんだ…)

戸惑いながらオリトの消えたドアを眺めているうちに、セクメトはこれまでの記憶をなんとなく遡(さかのぼ)っていた。


まず思い起こしたのは、セクメトが初めて意識を持ったときのことだった。
そこは、神社の裏手にある水溜りのような池の脇だった。

「ソソバゴソガ…」
(ここはどこだ…)

日はとっぷりと暮れているが、神社の本殿の向こう側にはぼんやりとした明かりが見え、時折、車の音も聞こえる。
ズルズルと這うようにして、光と音のあるほうに移動していくが、すぐに動きが止まった。
街灯の明かりが届くところはなんだか居心地が悪いのだ。
セクメトは、できるだけ暗いところを選んで移動を続けることにした。

やがて、彼女の耳に靴音が聞こえてきた。
物陰に隠れてじっと観察をしていると、自分とは姿かたちの違うものが、向こう側からふらふらと歩いて来るのが見えてきた。
あとで知ったことだが、それは人間という生き物で、セクメトが目にしたのは酒に酔った中年のサラリーマンであった。
セクメトが見ていることにまったく気づいていない男は、気持ちよさげに酒の匂いをさせながら家族の待つ家へと向かっていた。
男がセクメトの潜む場所の目の前を過ぎようとしたとき、この男が漂わせる匂いに頭の中が痺れるような感覚を覚える。
だが、そんなことはどうでもいい。
なぜなら、セクメトは今、どうしようもないほどの食欲を感じていたのだ。
あっ、と思う間もなく、男にむしゃぶりついていた。
そして、気づいたときには、男の凍り付いた悲鳴もろともすっかり喰らい尽くした後だった。

自分が何者なのか、なんのためにこの世にいるのか…
誰かに懇切丁寧に教えられたわけでもないのに、このときになって、なんとなくわかった気がする。
が、そのことにも特別感慨もない。
最初に口にした人間の味を、格別おいしいとも思えずにいた。
あるのは空腹を満たしたという満足感と、ちょっとした疲労感。それに、絶対的な虚無感だけだ。

「ルナマアリ… ルネマメアリ…」
(埋まらない… 埋められない…)

腹はくちくなったといういのに、何か満たされない想いがある。
ただ、それに対しても大してこだわりはない。
男を喰らった後のセクメトの関心事といえば、今日の塒(ねぐら)をどこにするかということだけだった。


その後のセクメトも、ただなんとなく生きてきただけだ。
片っ端から人間を襲うようなこともなく、気の向いたときにたまたまそこに喰いたいと思う人間がいたときだけ捕食した。
セクメトの食欲を刺激するのは、どうしたわけだか、酒の匂いをさせた人間ばかりだった。
きっと、彼女を生んだ陰我が、酒に溺れて死んだ女の恨むつらみとか、飲んだくれの男にボロボロにされた女の憎悪とか、そういった類(たぐい)のものだったに違いない。
だが、よほど大した陰我ではなかったせいか、他のホラーが思うほどに ’人間を喰らう’ ということに執着を覚えなかった。
それだけではない。セクメトは、生きることにも固執していなかった。

しばらくして、魔戒騎士のことを知ったが、セクメトにとっては彼らの存在は恐ろしいものでも憎むべきものでもなかった。
大食漢ではなかったためか、彼女を斬る指令が出たことはなかった。
だが、もし、運悪く彼らに出会って斬られることになったとしても、死にたくないなどと抵抗しようとは思わない。
どうにも抑えがたいこの虚ろな気持ちとようやくおさらばできると、清々(せいせい)するくらいだろう。
そんなふうに、これまでのセクメトは、冷ややかな諦観のようなものを感じながら、なんとなくゆるゆると生きているに過ぎなかった。

そう、今日、このジョアンの身体を手に入れるまでは。



ジョアンが輪禍に見舞われたとき、辺りにはワインの匂いが充満していた。
事故の衝撃でジョアンの手から離れたワインの瓶が道路に叩き付けられたからだ。
その甘い香りに誘われるように、セクメトはどのくらい振りかの食欲を感じた。

ただし、ジョアンの前には魔戒騎士がいた。
斬られるならそれでもいいと思いながら近づいてみた。
だが、恋人を失ったその男は、セクメトの要求を以外にも受け入れてくれたのだった。
ジョアンの身体は、これまでと変わらず、セクメトに腹を満たす以上の喜びをもたらすことはなかった。
だが、別の形の感情を知ることになる。
ジョアンの姿となったセクメトを、オリトという男は抱いたのだ。

砂にまみれた
すり傷を、オリトはそっと丁寧に洗ってくれた。
ジリジリとした痛さと遠慮がちに触られるくすぐったさのせいで、我慢しようにも身体をよじらせて逃げたくなる。
すり傷のほかに、ワインボトルの破片で切ったと思われる切り傷もいくつかあった。
どれも大して深い傷ではないが、ガラス片が食い込んでいないか、オリトが顔を近づけて傷口を見てくれた。
見つめられるだけで息苦しいような感覚を覚えたが、傷口に何も問題なさそうだと解ると、オリトはそこを舌で舐めだした。
熱くねっとりとした感触に背中がゾクゾクする。
言いしれない興奮が身体を駆け抜けていき、気づけば、どの傷もほとんど治りかけていた。
事故のときの損傷が激しくてまだ少し痛みが残っている右足も、
指先から付け根にかけて丹念に愛撫された。
こちらのほうも不思議なことに、オリトに触れられるたびに薄皮を剥ぐように痛みが消えていき、痛みよりも歓喜のほうが優っていくのに大して時間はかからなかった。

もちろん、悦びを感じていたのはジョアンの身体だ。セクメトの身体にではない。
だが、その感覚はセクメトの意識にも間違いなく働きかけた。
これまで誰かに求められることなど一度もなかったセクメトにとっては、初めての衝撃的な感覚だった。

オリトは一度失ったと思ったジョアンを… 身体だけがよみがえったジョアンを、ひたむきなまでに欲した。
勘違いと言えばそれまでだった。それは、セクメトにも十分過ぎるほどわかっている。
何度も、何十回も思った。

「ロミコザラルツムオバ、ヂョラユガ」
(オリトが愛するのは、ジョアンだ)

と。
だが、この男のそばにいたら何かが変わるのかもしれないという想いが、セクメトの中で芽生え始めたことは止めようがなかった。



ベッドの中でジョアンは… いや、彼女の姿をしたセクメトは、オリトの体温の残るシーツを黙って撫で、やがて、目を閉じて眠りにつくのだった。


to be continued(6へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も9年目を迎えましたが、まだ飽きていない模様…



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