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きんのまなざし ぎんのささやき

ちっぽけなとげ

「悲しみの色」 の続き として書きかけていた妄想が、どうしてもうまく連載に
できなかったので、一部を切り取りまして 「読みきり」 で公開します。

もし、「悲しみの色」をお読みでない方は、先にそちらをお読みになってから
読まれることをお勧めします。

「悲しみの色」は、こちら からどうぞ。

すでにお読みの方は、そのままお先へ…




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

気が付くとカオルは草原の真ん中にいた。

草原には白や黄色の名もない小さな花々が咲き誇り、爽やかな風が、
草原に波を作りながら吹き抜けていた。
遠くには標高の高い山並みが横たわり、ヒバリのさえずりが空高くから
降り注いでいる。

(なんてきれいなところだろう…)

カオルは風の感触をしばらく楽しんだ後、視線を膝の上に戻すと、
スケッチブックを抱えなおして、再び鉛筆を走らせ始めた。

人の姿はどこにも見当たらなかったが、不思議とカオルは寂しいとか
怖いとかいった感情は起こらなかった。
ただ、絵が描ける喜びに浸りながら、絵を描くことに没頭していた。

そのとき、少し強い風が吹き、カオルの髪を乱し、スカートの裾を
めくりあげた。

「きゃっ」

小さく悲鳴を上げ、慌ててスカートを抑える。
風が吹き過ぎるのを待ってから、小さく息をつき、髪を整える。
そして、膝からずり落ちたスケッチブックを取り上げた。
スケッチブックは風でめくりあがり、別のページになっていた。
そこには…

カオルに優しい笑みが浮かぶ。

(あたし、あなたのお陰で絵が描けるんだね…)

カオルは、大切な人を写し取った鉛筆のラインを愛しそうに指で
なぞってみた。

無愛想で、かわいげがなくて、大事なことは何にも教えてくれない人…
重い宿命を背負いながら、熱い想いを秘め、どんなに強い相手にも
怯(ひる)まない人…
カオルがホラーの返り血を浴びたあの日から、カオルをいつも必ず
守ってくれた人…

(鋼牙…)

カオルは目を閉じて、スケッチブックを胸に、彼のことを想ってみた。
とても幸せな気分に浸りながら、そっと目を開けてみる。

すると…

そこにはもう光はなかった。
先程までの柔らかい陽射しに包まれた草原はどこかにかき消えていた。

だが、目を凝らすと、足元の地面だけが微かに見えた。
草ひとつ生えない乾いた土埃の舞う大地だ。
周囲は1メートル先はもはや闇。
風ひとつなかった。
音までも何かに飲み込まれたようだった。

カオルは、天地すら判らなくなるような浮遊感を覚え、大地を踏みしめる
足の感触を求めて、ゆっくりと歩き出した。

(なに、ここ? 鋼牙…)

日常生活とは明らかに違う異質な感覚に、カオルの心が鋼牙の名を呼ぶ。

すると、数メートル先にうっすらと人の姿が浮かんできた。
白いコート…
鋼牙が背を向けて立っていた。

「鋼牙っ」

カオルは鋼牙に近づきたかった。
だが、視界の悪さから思うように進めなかった。
前方に両手を彷徨(さまよ)わせながら、一歩一歩近づいていく。

ようやく鋼牙のすぐ背後まで来たとき、もう一度名を呼んだ。

「鋼牙っ」

だが、鋼牙は振り向きもしない。
カオルは、いぶかしく思いながら、そっと鋼牙の前に回りこむ。

「!」

鋼牙はピクリとも動かない。
何も見えはしないはずの前方の闇を、感情もなく、見つめているだけだった。

「どうしたの?」

声をかけてみるが、やはり聞こえていないかのようだ。
カオルは悲しくなり、鋼牙にすがりつこうとした。
だが、何かに遮られて触れることすらできなかった。

カオルはもう一度目を凝らして、鋼牙をよく見てみた。
前を見つめる鋼牙は、何か大きなものに立ち向かう雄々しさは感じられず、
強い意志の力も持たなかった。

(あっ!)

カオルは思い出した。
眠りに就く前に見た、鋼牙の ’気’
あの悲しみの色の ’気’

何の感情も持たないようだった鋼牙は、今、カオルには泣いているように
見えた。
決して涙は見せてはいなかったが、鋼牙の心が泣いているように。

(やっぱり、何かあるのね? 鋼牙…)

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

カーテンの隙間から差し込む日差しを受け、カオルの目が覚めた。

(あれっ? 今の… 夢?)

カオルは見慣れた天井を見つめ、ついさっきまで見ていたはずの夢の
内容を思い出そうとする。

(だめだ… もう、あんまり覚えてないや…)

確かに夢を見ていたことは覚えているのに、その内容が判然としない。

(鋼牙が出てきたことは覚えているんだけど…
 なんだか、あまり、いい夢ではなかったような…

 あぁん、ダメ!
 やっぱり思い出せない!)

頭の片隅にトゲでも刺さったようなチクチクとした違和感を覚えるのだが、
その正体はやはり判りそうになかった。
カオルは軽く頭を振り、漠然と襲う不安を頭の中から追い出そうとした。
そして、自分に強く言い聞かせるのだった。

(大丈夫…
 大丈夫…

 鋼牙なら大丈夫…
 あたしも大丈夫…)

それは祈りにも似た想いだった。



fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


いやぁ、「悲しみの色」の繰り返しみたいになってしまいましたね。
すみません。

カオルちゃんは、鋼牙さんの苦悩に気づいているのか?
気付いているなら、それはいつか?

そういうところが発端となっての妄想です。

ただ、やっぱり…
何かある! と確信するまでは至らず… という微妙な感じにしておきたい
かな?
ということで、鋼牙の苦悩を、カオルちゃんの夢の中で再確認させ、
すぐに忘れさせてしまいました。

心に生じた小さな不安を、自分に「大丈夫」と言い聞かせて消し去ろうとする
カオルちゃんに共感していただけたら嬉しいです。

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無題
こんばんは、悲しみ色の繰り返し、いいじやないですか、カオルと鋼牙の話ならどれもが、何らかのかたちで、つながっていると思うのですが、上手く言えませんが,そうおもってよんでます。
かなまま 2012/11/18(Sun)01:14:10 編集
Re:無題
ありがとうございます、かなまま様。
思っていることを上手く書ききれない(表現しきれない)から、おんなじようなことを何度も書いてしまうんだろうなぁ、と自分では思ってます。
書いてる自分はいいんですよ、そういうのは。
妄想の海を勝手にあっち行ったり、こっち行ったりと、楽しんじゃってるので。
ただ、読み手さんにとっては、同じものを読むの苦痛じゃないかな~と思ってしまうのですよ。
ほら、selfish って小心者だし… (笑)

でも、いいや。
かなまま様は「いいじゃない」って言ってくれたし…
いやぁ、selfish って単純だし… (苦笑)
【2012/11/18 16:20】
selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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