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きんのまなざし ぎんのささやき

変えられない事実(1)

昨年の今頃はギャグにチャレンジして、今ひとつ弾けられなかった。
さて、今年は? と言うと、う~ん、お正月だというのに、そんなこと全然
関係ない妄想になってしまいました。

ま、いっか…


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白い円柱が何本も立つ空間。
その一番奥の壁には、白いシンプルな額(がく)に入れられた絵がかかっている。

翼を持つ青年に手を取られて飛び立つ少女。
夜空に浮かぶ大きな三日月。
白い羽を手にして木の枝に座るとんがり帽子の青年。
夕焼け空のように赤い空を飛ぶ無数の白い鳥たち。
斜めに横切る線で区切られ異なる表情を見せる抽象的な顔。

それぞれまったく違った印象を抱かせる絵ではあったが、不思議なことに、
そのどれもに物語が秘められているように思える。
メルヘンチックな題材を力強いタッチで描くのが、この画家の特徴らしい。

それらの絵の前には広い空間が広がり、高い天井には、何基もの瀟洒な
シャンデリアがぶら下がっていた。




(駄目だ、カオル!
 ここから離れるんだ!)


あの日、あのときと同じ空間。


(頼むからこっちに来るな!)


必死に叫ぶような願いは、カオルには届かない。


(早く行け! 行くんだ!
 頼むから、行ってくれ!)


カオルに向かってホラーの返り血が飛び、画廊の中を鋼牙の叫びが空しく
こだました。






「…ぅが!  鋼牙!  鋼牙!」

カオルの呼ぶ声で鋼牙は目が覚めた。
心配そうに覗き込んでいるカオルの顔が見える。
素早く周りの様子に気を配ってみたが、どうやら、ここは自分の部屋で、
さっきまでの現実は、夢だったということのようだ。

それがわかると、鋼牙は大きく息を吐いた。



「大丈夫? 鋼牙。
 悪い夢でも見た?」

落ち着いたらしい鋼牙の様子に、カオルのほうも少し安心して、そう
聞いてきた。

「まぁな…」

曖昧に返事をして、カオルに優しい表情を向ける。
そんな鋼牙の態度に、カオルは一抹の不安を感じたが、わざと明るい表情を
してみせて、

「ゴンザさんがおいしい朝食をつくって待ってるわ。
 さぁ、起きて!」

と、鋼牙の腕を取って引っ張る素振りをした。
だが、鋼牙は逆にカオルの腕を引き、自分のほうに引き寄せた。

「あっ…」

カオルは鋼牙の胸の上に倒れ込み、そのまま鋼牙の腕によって閉じ込め
られた。

(どうしたんだろう? 鋼牙…)

いつになく強引な鋼牙の素振りにそう思いながら、カオルは鋼牙の胸に
抱かれたままじっとしていた。
どうしたの、と重ねて尋ねることは容易だったが、きっと、鋼牙は何も
答えないだろう。
ならば、何も聞かず、鋼牙の好きにさせておくのがいい…
カオルはそんなふうに思い、黙って鋼牙に身を任せることにしたのだ。



そんなカオルを抱き締めながら、鋼牙も考えていた。
なぜ、カオルを遠ざけられなかったのだろうと。

夢の中では、出来る限りのことをしたつもりだった。
だが、どんなにあの場から引き離そうとしても、カオルは舞い戻って来た。
たとえ夢のこととはいえ、ホラーの返り血を浴びるという、過酷な運命の
始まりを、再び止めることができなかったことに、鋼牙は、おのれの無力を
思い知らされたようで大きな挫折感を感じずにはいられなかった。


(どうあがいたところで、俺は、カオルに苦しみしかもたらさない存在なの
 だろうか?)

これまでに何度となく陥った不毛な考えが、むくむくと頭を持ち上げる。

(カオルのことを想うなら、いっそ…)

そう思いかけて、

(今更、遠ざけることなど…)

と、馬鹿な考えを押し込める。
今、胸の上に感じているカオルの重み、温かさを手放すことなど、鋼牙には
難しいことだった。


どうやら、このまま考え続けても堂々巡りから抜け出せそうにない、と
いうことに気づき、鋼牙はようやく腕の中のカオルを解放する。

「すまなかった…

 先に行って、すぐに行くからとゴンザに言ってくれ」

そう言った鋼牙の目が、微妙に自分の視線から避けているのを感じて、
カオルの不安はまた募った。

だが、

「わかった… 早く来てね」

とだけ言って笑顔を見せると、先に鋼牙の部屋を出た。



その日一日、鋼牙の気分はずっと塞いだままだった。
もともと口数が多いわけではなかったが、今日の鋼牙はどこか、心ここに
あらず、といった風情で、ゴンザの呼びかけにもカオルの言葉にも、魂が
抜けたような返事しかしなかった。




『どうしたんだ、鋼牙?
 今日のおまえは変だぞ!』

オブジェの浄化に出掛けた先で、ザルバからストレートに突っ込まれた。

「そうか?」

一言そう答えただけではぐらかそうとする鋼牙に、ザルバは容赦なく
畳みかける。

『そんな状態じゃ、オブジェの浄化ですら仕損じるんじゃないだろうな?』

「…」

答えることもしなくなった鋼牙だったが、ザルバはなおも言い募る。

『何があった?

 …カオルか?』

ザルバがカオルの名前を出すと、途端に鋼牙の眉間の皺が深くなった。

『ほんとにおまえは、わかりやすいヤツだな…』

「…」

半分呆れたような口調でザルバが言ったが、渋い顔をするばかりで、
鋼牙は何も言わなかった。

『カオルとの間に何があったか知らんが、おまえたちの間で解決するしか
 ないな』

「…わかっている」

鋼牙がようやく不機嫌な声で返事をした。

『プライベートに何があったとしても、仕事にそれを持ち込むな。
 命取りになるぞ、鋼牙』

「わかっている!」

二度目の返事は、先程より少し腹が座ったような響きがあった。
それを聞いて、まぁ、大丈夫か、と判断したザルバは、次の指示を飛ばした。

『鋼牙。
 西の方角に不穏な気配がする』

すると、鋼牙は落ち着いた口調で、

「わかった」

と答えると、落ち着きを取り戻した目にぐっと力をこめ、言われた通り、
西のほうに向かって歩き出した。



to be continued(2へ)
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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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