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きんのまなざし ぎんのささやき

変えられない事実(3)

黄金騎士ともあろう者が、過去に絡んだ夢を見ただけで、いつまでもウジウジ
してる…

これはどうやったら解決できるんでしょうねぇ~
(う~む)





::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

「コーヒーを持ってきたの…」

鋼牙が何も言わずにうなずき返すと、カオルは書斎机の前までやってきた。
トレイからコーヒーカップをソーサーごと持ち上げ、鋼牙の前に置く。
それを見届けると、鋼牙は

「ありがとう」

と言い、次いで、

「もう… いいぞ」

と、さらに低いトーンで言った。
その言葉に、一瞬、身を固くしたカオルだったが、目を閉じて息をすぅっと
大きく吸った。
そして、おもむろに言う。

「鋼牙はいいかもしんないけど、あたしはよくないから」

怒っているわけでもなく、悲しそうなわけでもなく、カオルは淡々と言った。
自分で自分の気持ちを確認するように、淡々と。



「これだけは言わせて。

 何があったのかわからないけど…
 別にそれを無理に聞き出そうとも思わないけど…

 もし自分ひとりの中に閉じ込めるのが苦しくなったら、あたしだって、
 ゴンザさんだっているんだからね?」

そして、ちゃんと言えたことに安心するように、カオルはふっと表情を
緩めた。

勘のいい鋼牙のことだ。
これだけ言えばカオルの言いたいことはわかっただろう。
言いたいことだけ言ったら、あとは鋼牙が自分で考え、自分で判断する
ことだろう。
そうやって、鋼牙は今まで生きてきたんだから。

(あたしだって、そうだったし…)

そうなのだ。
幼い頃から、カオルもそうやって生きてきた。
鋼牙も自分と同じで、他人の言うことに素直に、うん、とは言いそうも
ないことは、これまでの長い付き合いでよくわかっている。
生半可な慰めや励ましなどで、鋼牙の気持ちは少しも晴れやしないだろう。

だから、これは正確には鋼牙のために言った言葉とは違うのかもしれない。
きっとカオル自身のための言葉なのだ。
鋼牙の力になりたいと伝えた満足感… それを得ることしかできないだろう。
そう思いながら、カオルは口にした。

「ね? それだけはちゃんと覚えてて。
 鋼牙のそばに… いるんだからね?」

にこっと笑ったカオルはくるりと踵(きびす)を返し、さっさと、ドアへと
向かって歩き出した。

鋼牙はその後ろ姿に何か声を掛けたかったが、結局、何も言わずに見送った。

書斎のドアがためらいもなく開かれ、カオルは出て行った。
廊下に出たカオルは後ろ手にドアを閉めると、

(あとは、鋼牙次第だね…)

と思いながら、すっきりと晴れやかな顔で、よし、とひとつうなずいた。




さて、書斎に残された鋼牙は、というと、カオルの運んできたコーヒーを
すすり、渋い顔をしている。

「くそっ」

誰に言うともなく、口汚く罵る言葉が出る。
コーヒーが苦かったわけではない。
ひとりで悶々としていることにも、そろそろ嫌気が差してきた。

まだ飲みさしのコーヒーカップを、やや乱暴にソーサーに戻すと、勢いよく
椅子から立ち上がった。

『ん、どうした?』

鋼牙の感情に微妙な変化があったかとに気付き、ザルバが鋼牙に声をかけた。

「…身体をいじめてくる」

それだけを言うと、鋼牙は剣を下げて ’鍛錬の間’ に向かった。



冴島の屋敷には、剣を振るうだけの広さと高さのある部屋がある。
もともと火の気のない空間だからひどく寒かったが、寒さとは違うところから
自然と震えがくる。
この場にいるだけで、身の引き締まるような緊張感を覚える。
そんな独特の空気を持つ空間だ。

鋼牙は、薄暗いその部屋に入ると、部屋の中央に立った。
静かに目をつむっていると、自分の心の乱れがよくわかる。

鋼牙は呼吸を整えると、左手に下げた赤鞘から両刃の直刀をスラリと
抜き放った。
そして、型でもなぞるようにゆっくりと右へ左へと撫で払う。
最初はゆっくりとした動きであったが、徐々にそれが早く強く重く変化して
いく。

少しでも違和感を感じた動きは、二度三度と気の済むまで繰り返した。
見えない敵に向かって、斬り、受け、弾き、払い、突き、振り下ろす。
そして、蹴り上げ、肘打ちし、拳を叩きつける。

無心で身体を動かし続けていくうちに、鋼牙の身体から汗が飛び散り、
白い湯気が立ちのぼってきた。

最初のうちは硬かった鋼牙の身体の動きは、やがて自由に滑らかに伸びやかに
なっていく。



そして、動きに一遍の迷いもなくなったとき、鋼牙の心も軽くなった。



広い空間を縦横無尽に動き回っていたが、ふと気づけば、部屋の中央に
鋼牙は立っていた。
弾んだ息を深く呼吸をすることで沈めていく。
目を閉じ、再び自分と対峙する。

迷いがなくなったわけではない。
だが、脆(もろ)い自分を受け入れることができた気がする。

魔界騎士として、人間として、いつも高みを目指していたいと思っている。
だが、そういう自分は、どこか不器用で、弱い部分も持っている。
それを受け入れたくないばかりに、理想とのギャップに苦悩していた。


静かに目を開け、抜き身の剣を赤鞘に戻す。

『もう、大丈夫なようだな』

左手から声がかかり、鋼牙は左手を上げてザルバを見た。

「あぁ」

こうして視線を交わすのは、ずいぶん久し振りな気がする。
汗の光る鋼牙の顔は、どこか憑き物が落ちたようなサッパリしたものだった。

「みっともないところを見せたな… すまなかった」

素直に詫びる鋼牙に対して、ザルバは言った。

『俺様なんかより、ずっと心配しているやつらがいるんだ。
 早くそいつらを安心させてやりな』

少し茶化すような口調なのは、ザルバが少し照れ臭かったからかもしれない。

「わかっている」

と、少し怒ったような振りをして、鋼牙も照れ隠しした。




’鍛錬の間’ を出たその足で、鋼牙はゴンザの元に行った。
さすがゴンザだけあって、鋼牙の顔を一目見ただけで、ゴンザにはすべてが
理解できたかのようで、安心した表情を見せて笑顔を見せた。

「大変な汗でございますな。
 すぐに、その汗を流されたほうがいい」

何事もなかったかのように、鋼牙にそんな言葉をかけた。

「…わかった」

鋼牙もあえて口には出さず、心のうちでゴンザに感謝し、詫びた。




鋼牙は、すぐに風呂に直行すると、熱いシャワーで汗を流し、湯船にゆっくり
つかって酷使した身体をいたわった。
風呂から上がり、心身ともにすっきりした鋼牙は、カオルの部屋に向かう。
話をするなら明日の朝でもよかったが、できれば今夜のうちに話がしたかった。

(2日続けて、悪い夢など見たくはないからな…)

自嘲気味に笑いながら、カオルの部屋の前で足が止まった。

(何をどう話せばいいのだろうか…)

そう考えて、躊躇する。
あごに手をやり、考えることしばし…
気持ちが固まったのか、カオルの部屋のドアをノックした。

 コンコン…

「はぁい、どうぞ」

中からカオルの声が聞こえた。
鋼牙は、ドアノブに手を掛けると、勢いよくドアを開けた。

「えっ、鋼牙?」

少し驚いたようなカオルの声が廊下に漏れてきた。

 キィ~ パタン。

カオルの部屋のドアが閉まり、これ以上ふたりの会話は聞こえない。




ここから先は、ふたりだけの時間。
過去に囚(とら)われ、弱い自分に囚われてしまい、ふいにしてしまった
今日一日の時間を取り戻すための時間。


過去は変えようがないけれど、今を、そしてこの先の未来をよりよいものに
変えていくための、ふたりにとって大事な大事な時間なのだった。




fin
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


いやぁすいません、また、意地悪なところで終わらせちゃいました。(笑)
みなさんの妄想脳の活躍に期待しています!

さて…
みなさんは、カオルちゃんが書斎にコーヒー持ってきたところで、会話して
解決する… と思いませんでしたか?
実は、途中までは「そうなるかなぁ」と思いながら書いていたんですけど、
なぜだか書いてくうちに「それは違うな」と内なる自分(誰それ?)が
言い出して、鋼牙さんったら、結局、自分ひとりで吹っ切っちゃいました。

女性だと、何かでくよくよしているときは、たとえ具体的な解決策が
見つからなくても「話をする」だけで満足しちゃうことって多いと
思うのですが、男性の場合だと、そういう解決方法は「ない」んじゃ
ないかと思いまして。
同じ「発散」でも、別の発散の仕方をするのかな、ということで、
こんなふうにしてみました。

カオルちゃんの部屋で、鋼牙さんが何をどういう言葉で話すのか…
気になるけれども、鋼牙さん自身が吹っ切ってしまった今となっては、
あまり多くを語らない気がします。
カオルちゃんも、話したがらない鋼牙さんに無理強いなどはしないで
しょうし。

そうなると、ふたりで見つめ合って… どうなる? どうする?
(きゃ♡)
ごめんなさ~い、意地悪で…

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selfish と申します。
無愛想な魔戒騎士や天真爛漫な女流画家だけにとどまらず、大好きな登場人物たちの日常を勝手気ままに妄想しています。
そんな妄想生活(?)も5年を経過しましたが、まだ飽きていない模様…



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